第114話 痴話喧嘩
「シフ様、何か御用ですか?」
思いもかけない者の登場に、リオンはぽかんとする。
ロキが呼んでいたのだろうか?
しかし顔を見るにそうではないようだ、なんだかにやにやしている。
「お願いしますリオン様、私も連れて行ってください!」
突然の言葉に返答したのはサミュエルだ。
「君の力など必要ない、足手纏いだ」
低い声でそう言った後、退室を促す。
「帰りなさい。君はこの国の王を、そして民を守るためにいるのだから、戦場になど連れていけない」
シフの知っているサミュエルではないような口調と声だ。
堂々たる言い方は魔術師達を率いる者として、相応しい威厳を持っていた。
「サミュエル様。お言葉ですが、シフ様はサミュエル様を心配してこられたのですよ……? もう少し優しくして差し上げても」
二人の関係性をもちろん知っているウィグルがおずおずと口を出す。
「そんなもの不要だ。そもそも王族のいる場所へ、無作法に入って来るような者に、優しくすることはないだろう。即出て行くように」
サミュエルは靴音高らかにシフに近づく。
「さぁ早く出なさい!」
その言い方は明らかに気が立ち、怒っているものだ。
(うーん、まずいなぁ)
リオンは心配になる。
サミュエルが怒る気持ちは分かる、だがこの場でのあのような言い方は良くはない。
ロキがいるからではない、そんな事は心配していない。
今だって二人のやり取りを楽しそうに見ているのだから。
それにシフはあのロキの娘だ、ああ言われて素直に引き下がるとは思えない。
「嫌に決まってるわ! だって私はあなたの婚約者だもの」
こんなところでそのように宣言するシフに皆がぎょっとした。
「違う! それはまだ決定していない!」
口約束だけだ、それなのに国王陛下も宰相もいる中で言うとは、サミュエルは慌てて否定する。
「こんな男の元に来ては不幸になると何度も話したはずだ、さっさと帰ってくれ!」
気持ちと裏腹だろうその言葉に切なくなる。
「嫌よ、あなたが死地に向かうのに私は王城で待つだけなんて嫌! それなら一緒に行って一緒に帰ってくる。あなたと離れたくないの!」
突如始まった痴話喧嘩に思わず、アルフレッドは笑いだす。
「ふふ、このような場で喧嘩を始めるとはな。全く若いもの達には敵わん」
屈託なく笑うその顔は何となくリオンに似ている。
ヒューイは呆れながら、ロキに目を移す。
娘のした事なのに、何も言わなそうなので、采配はそのままリオンに預けた。
「国王陛下の前でこのような事を言いにこれるのは、さすがロキ殿の娘と言わざるを得ないな。それでリオン様、そちらの家臣について、どうなさいます?」
重要な会議をこのように途中で潰すことになったサミュエルとシフに、リオンは言い渡す。
「まず婚約についてどうするかをはっきりとさせてきてね。悔恨を残すと後々大変だよ、きちんと解決してから戻っておいで」
リオンは二人仲良く退室させる。
「それとシフ様、あなたは戦に連れて行けない」
そこだけははっきりとした口調で伝えた。
「私絶対に役に立ちますから」
「駄目。戦で一番落とされてはいけないのはここ、守るべきものもここなんだから。その為には一人でも多くの魔道具師が残り、ここの魔道具のメンテナンスをしなければいけない。恐らく寝る暇もないくらいに忙しくなるはずだよ。結界の維持と魔力の持続、ロキ様やフェン様がいても恐らく足りないよ」
ガードナー家の魔力と技術に大いに頼ることになるが仕方ない。
それだけ魔力が豊富で、いなくてはならない存在なのだから。
「帰ってきたサミュエルを君にあげると約束するからさ。僕達が戻る場所を守っててね」
リオンは優しくそう言った。
「サミュエル、まずは貴族籍を持つようにシュナイ医師との養子縁組を進め、ロキ様から婚約の承諾を得なさい。これは命令だ」
悪戯っ子のように笑ってるが、命令と言われれば逆らう事は難しい。
「ですが……」
「可哀そうな女の子を放っておけるわけがないだろ? 二人でまずはシュナイ医師に挨拶をするといい、きっと涙を流して喜んでくれるよ」
「……承知しました」
サミュエルはやや項垂れつつも歩みを進めた。
「きちんとエスコートしておあげ」
距離のある二人に要らぬお節介をし、会議に戻る。
「お待たせしました。陛下。次なる作戦の続きをお聞かせください」
その言葉を受け、アルフレッドは口を開く。




