第112話 招かれざる王女②
「その赤い目、覚えがあるわ」
シェスタ国は火魔法が盛んだが、それを相殺し、軽々と無力化していった双剣を操る魔剣士。
シェスタでもキールは一目置かれていたが、ティタンの武勲の方が高評価だ。
「俺が勝ったら大人しく国に帰り、アドガルムに従ってください。正直あなたの回復魔法は惜しい」
キールは淡々と話すが、その両手には既に剣が握られていた。
いつ抜いていたのか、グウィエンも気づかなかった。
「やはり私の回復魔法は認められていたのね」
うっとりとするユーリにキールは答える。
「ミューズには劣るものの、一般兵にはちょうどいいくらいだ」
ミューズの名を聞き、ユーリは睨みつける。
「それはティタン様の配偶者の名前ですよね。私の力がその女に劣るとは、どういうことです?」
「言葉通りだ。あなた程度の力では前線には立てない。後衛の補佐には丁度いいですが」
「何ですって?!」
「簡単に言えば、いないよりはましだという事です」
「無礼な!」
騎士の一人が切りかかるが、キールは剣で軽くいなしていく。
「弱いものだ」
「がっ!」
一撃で沈めるとキールは更に言葉を述べる。
「このまま自国に戻ったら反逆者だ。それならば今ここで投降し、次の戦で役に立ってほしい」
およそ説得には程遠い言葉だが、キールの実力は十分に知っていた。
この人数では到底勝てないことも、そして剣を向けた事は罪となることも、理解している。
「どうしたいか選んでください。従うか、それとも死にたいか」
「そんな事、誰が受け入れるか!」
キールの言葉に、騎士たちは一斉に切りかかってきた。
「仕方ないな」
騎士の国だ、プライドを優先したのだろう。
そこからキールが皆を地に沈めるのにそこまでの時間はかからなかった。
「さてユーリ王女。どうしますか?」
キールの顔を見つめ、ユーリは動かない。
「キール殿。もうユーリを王女扱いしなくていい。そのものはシェスタの王族から除籍する」
「本当にいいのですか?」
「構わない。以前よりユーリにも伝えていた、次問題を起こせばもう王族として扱えないと」
グウィエンの言葉、このままいけばユーリは殺されるだろう。
治癒師は欲しいが、キールも別に助けたいわけではなかった。
従妹であるミューズと好敵手のティタンにたてついた属国の王女だ、この後どうするか、采配はグウィエンに任せよう。
キールは剣を収める。
「では、この女の処罰はグウィエン殿にお任せします」
キールとグウィエンの冷ややかな視線を受け、ユーリは震えた。
「お兄様のいう事に従いますわ」
深く礼をした後にキールを向く。
「キール様、私の治癒師の力を褒めて頂き、ありがとうございます」
「ん? あぁ」
唐突な言葉にキールは返答が遅れた。
もっと不平不満を言うとか、大声で喚くなど思ったからだ。
だが今のユーリはとても落ち着いている、憑き物が落ちたかのように穏やかな表情をしていた。
「キール様はとてもお強くいらっしゃるのですね。そしてとても美しい」
ユーリの頬が僅かに朱を差していた。
「キール様、愛しております。あなたのために私のこの力を振るっていきますわ」
「「「は?」」」
キールとグウィエンと、セトの声が重なった。
「面白いことが起きるものだな」
ティタンは内心で安堵していた。
あれほどしつこかったユーリがキールの実力を見て、ころっと恋に落ちたのだ。
国にはもう戻らず、このままアドガルムに残って戦に参加するともいい出した。
「キール様の側に居たいのです。治癒や守りはお任せください! きっと役に立って見せますから!」
気合十分でそう宣言していた。
何を考えているのかわからないが、ティタンやミューズにも謝罪をしに訪れた。
「今まで迷惑をかけてしまってごめんなさい。これからは心を入れ替えてキール様の為に力をふるうわ」
嘘を言っているようには見えなかった、本当の恋する乙女としか思えない。
「う~ん。何とも複雑な気分だ」
グウィエンは唸る。
妹の命を奪わずに済んだのは良いが、まさかここでこんな鞍替えが起きるとは。
だがキールの力を目の当たりにしたグウィエンもまさかここまで強いとは思っていなかった。
ティタンの好敵手だというが、全くスタイルの違う戦い方だ。
正直自分も手合わせをお願いしたい。
「しかしそろそろ国に報告に帰らないと」
しょんぼりとしながら、帰国の途に着く。
エリックと話したことやユーリの事を王に伝え、戦の準備もしなくてはいけない。
今度の敵はもっと容赦がなく、恐らく捕虜などという生温い手は取らないだろう。
殺すか殺されるか。
騎士の国として今度は敗北など許すつもりはない。
グウィエンも今度はシェスタ国の王太子として頑張るつもりだ。




