六話 入学試験
僕は飛んでいる受験票を右手でキャッチする。
そして、見る気は無かったのだがその受験票に載っている写真を見てしまった。
そして僕は少し目を見開き、驚愕する。
「天音?、」
小さくそう呟く。
写真には銀髪の整った顔立ちをした少女。
そして、天音という名前の人物は前世で僕の最愛の恋人だった人の名前。
研究者になるために家出し、孤独だった僕を側でいつも支えてくれた存在。
また彼女自身も同じ研究者で同じ研究所で働いていた。
その受験票に載っていた写真はあまりにも天音に似すぎていた。
「はぁはぁ、ありがとうございます」
そして少女は僕達の前にきてひどく息を切らしながらそう言うが思考が止まっている僕は気づかなかった。
「あのー」
「アゼル様」
ラファエルに声をかけられてようやく我に戻り目の前の少女に気づいた。
「ああ、すみません。まさか公爵のアレグレス家の方という事に驚いてしまい少し固まってしまいました。どうぞ」
「別に謝る必要はありませんよ。それよりも受験票を取っていただいてありがとうございます」
名前はヒカリ・アレグレス、アレグレスと言えばレイネル王国の公爵家の名前だ。
固まっていた本当の理由ではないがうまく話を合わせるために仕方なく利用した。
「あのー、ところでお名前をお聞きしてもよろしいですか?それとここは学院の中なので多少砕けた感じでお願いします。その方が話しやすいですし」
「あ、僕はアゼル・スキアーと申します。こちらは従者の、」
「ルアンです」
ラファエルは少し前に出てお辞儀をする。
「スキアー、たしか、、あっ、もしかしてヴェレグお兄様の部下の弟さんですか?」
「えぇと確かアルス兄さんの上司がアレグレス公爵家の長男だった気がする」
僕はスキアー家の次男で、僕には八つ上の兄さんアルス・スキアーがいる。
兄さんの今の年齢が二十四歳で八歳差のため僕が八つの時にはもう学院に入学していた。
そして才能のあった兄さんは学院を卒業した後、レイネル王国の憲兵団に入団し僅か二年で副団長の座まで上り詰めた。
そのため僕はあまり兄さんの顔を見たことがない。
そして確か、憲兵団の団長がヴェレグ・アレグレスという名前だったはずだ。
確か兄さんと年が二つしか変わらなかった筈、そしてアレグレス公爵家には四人の子供がいてすでに三人はこことは違うが学院に入学している筈だ。
そしてヒカリはそのお兄さんと十も年が離れているからおそらく一番年下だろう。
「ものすごい偶然ですね、それに従者の方は同い年ですか?」
「そうでございます、ヒカリ様。私もこの学院を受験いたします」
「そうなんですね!同い年の従者なんて珍しいですね!私も従者はいますが皆年上で年が離れていますから宿で留守番しています」
そんな会話をしているうちに学院の鐘がゴォーンゴォーンと鳴る。
「あっ、そろそろ試験が始まってしまいますね。私の試験会場はこちらですので」
「ああ、またね」
そうやって僕達はヒカリにお辞儀をする。
「あっそうだ、もし学院に受かることができたらその時は仲良くしてください」
するとヒカリが走りながらこちらを向いて少し大きめの声でそう叫ぶ。
「ああ、わかったー」
僕も彼女にそう叫ぶ。
そして僕達も試験会場へと移動するのだった。
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「それでは始め!」
試験会場内に試験開始の合図が響く。
僕は問題を表に向け解答を始める。
どれだけこの国屈指の難関校と言えど、どの問題もやはり前世のと比べると少し簡単だ。
レベル的にいうと日本の普通の高校生レベルかな。
そしてここは魔剣学院のため筆記試験の後、ちょっとした剣術の実技もあったが難なく終えることができた。
まあ結果的には程々に手を抜いたからおそらく平均レベルだろう。
そうして試験を終えた僕達は宿に帰ってきて部屋でくつろいでいた。
「そっちはどうだった?」
「問題なかったわよ、全てにおいて平均くらいかしら?」
「なら良かった」
僕達は王都の裏で活動する分、表の世界で目立つわけにはいかない。
「まあ、今日はもう疲れたしもう休もうか」
「そうね、」
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場所、レイネル王都立魔剣学院会議室。
「今年の生徒も粒揃いですな」
「主席はやはり全科目90点越えのエメラルド公爵家のルーカス君でしょうな」
「いや筆記試験全科目90点越えの実技が80点越えとアレグレス公爵家のヒカリさんもすごいですよ」
「ああ、間違いないですな。学院長もそう思われるでしょうな?」
エメラルド公爵家は代々優秀な騎士を輩出してきた家系で、今の当主は騎士団団長を務めている。
それに対してアレグレス公爵家は代々優秀な憲兵団を輩出しており、今は長男のヴェレグ・アレグレスが憲兵団団長を務めている。
「この生徒は何者だ?」
学院長が手に持っている2枚の受験票と試験結果、会議室にいた皆それをみる。
そこに書かれていたのは、
「アゼル・スキアー辺境伯家16歳、全科目平均点、ルアン辺境伯家アゼル・スキアー従者16歳、全科目平均点、これは狙ってとったのか?」
「そんなわけありません偶然でしょう」
「そうか、、」
「しかしスキアー家と言えば天才のアルス・スキアーが現在憲兵団の副団長を務めていますが、またその姉も勉学の方はともかく剣の腕前は学院ではトップクラスです。それに比べたらそのアゼルという少年は見劣りしますな」
副学院長はそういうが学院長はどこか腑に落ちない表情を浮かべながら(面白いやつがこの学院に来たかもしれないな)と思うのだった。
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入学試験が終わった翌日、俺は一人で王都を見学していた。
試験の結果が発表されるのは明日なので今日はゆっくりするつもりだ。
両手をポケットに入れ王都の道を歩く。
「今日は天気が良くて気持ちいいな」
ラファエルとは今日は別行動だ。
買い出しに行くと言っていたが、あいつは真面目なのでおそらくもう今日から《究明機関》の情報を探りに行ったのだろう。
まあ、それでも僕は今日は遠慮なくのんびりさせてもらうけどね。
そうやって王都の活気あふれる街並みに触れ、串焼きの屋台があったので一つ購入し食べながら歩いていると開けた場所にでた。