五話 重なる雰囲気
五年後、
今日この日、僕はレイネル王都立魔剣学院に入学試験を受けに行く。
僕は家の門の前に立ち馬車に乗るところを家族が見送りに来ていた。
「アゼル、しっかりやるんだぞ!」
「そうよ、しっかりね」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって」
両親が僕にせり寄ってきて間近でそう言ってくる。
「最近、王都では人攫いが増えているらしいから気をつけるのよ」
うちの両親は心配性で親バカなところはいいのだがちょっと行き過ぎているところがあるのがたまに傷だ。
「アゼル様、ルアン、お気をつけて」
「ああ、ありがとうラール」
「ありがとうラール」
今回、学院に入学するにあたって従者として同い年のルアンことラファエルを連れていくことになった。
ラールという男子ははミカエルの事であり、僕達のことを心配してくれたのかそう言ってくれた。
するとミカエルは僕に近づいてきて耳元でこう呟く。
(ゼウス様の不在の間はお任せください)
(ああ)
この言葉には二つの意味が込められている。
まず一つ目は、この家のことを守るという意味。
二つ目に、《究明機関》に関する情報収集を僕がいなくてもこなすという事。
このどちらもミカエルにならしっかり任せることができる。
なんたって僕が、みっちり扱き上げたからね。
「じゃあ、そろそろいくよ皆んな、またね」
僕達が馬車の扉を閉めた瞬間、馬車は学園に向かって走り始めた。
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今僕達は列車に乗っている。
父さんは辺境伯のため領地が王都からかなり離れているため馬車で半日かけて列車の駅まで行きさらにそこから列車で1日半かけて行く。
僕は頬杖をつき窓の外を眺めなていた。
「ゼウス、周りに乗っているあなたと同い年の子達は勉強をしているのだけどあなた大丈夫なの?」
学園に近づいてきているためか列車の中は入学試験を受けにいくと思われる人たちが増えてきていた。
「大丈夫だよ。というかそもそも学園で目立つわけにはいかないから手を抜く気満々だけどね」
「まあ、受かることができるのならいいの。王都で究明機関の情報を集めるのにこんなにいい機会はないんだからね」
「そうだね、このチャンスを逃すことはできない。何としてでも究明機関の尻尾を掴まないといけない」
六年前、七極光の皆んなを助けた時からまるで究明機関の情報は掴めなかった。
住んでいたところが辺境だったことも大きいと思うがそれでも一つも掴めなかったことはいたたまれない。
まあ、そんな会話を終えた僕らには沈黙が訪れる。
僕もラファエルも窓の外を眺める。
ガタンゴトンと列車の音が響く中、変わりゆく景色は風情があり眺めているのは意外にも飽きないものだ。
ふと、ラファエルの方を向く。
僕はラファエルの横顔を眺めると前世の記憶の中の人物と雰囲気が少し重なる。
(闇?、、)
闇、その人は前世で僕の義妹だった。
何故義妹なのか、それは僕は前世の両親とは血が繋がっていないから。
前世の両親が事故で血のつながった両親を亡くした僕を親戚の義両親が引き取ってくれたからだ。
とても良い義両親だった、僕の前ではずっと笑顔が絶えず、決して弱さを見せない人達だった。
闇もよくに僕に懐いてくれて、よく一緒に遊んだ。
そして僕はやはり亡くなった母親の血を継いでいるため運動神経がよく才能があり、義両親にはとても喜ばれた。
だけど、僕は父親の血も継いでいて頭も良かった。
義両親は僕を跡継ぎにしたがっていたが僕は研究者になる道を選び家出をした。
闇は僕が研究者になるのを応援してくれて背中を押してくれた。
家をてまだ僕は忙しい日々を送り闇とは連絡を取れず疎遠になったまま、あの神裁の日が訪れてしまった。
僕は義両親に親孝行も出来ず、闇にお礼を言えずに死んでしまった。
その事を今も後悔している。
目を擦りもう一度見るがラファエルはこちらを見て、「どうしたの?」と言ってきたが、
僕は「いいや何でもない」と言い、また二人して窓の外を眺めるのだった。
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気がつけばあっという間に降車する駅に到着し、僕らは荷物を持ち列車を降りる準備をして駅のホームへと出る。
今はすっかり日が暮れて空は黒に染まっている。
空で輝く星々がとても綺麗だ。
「すごい人だな」
「それはそうでしょう、私たちの受ける学院の今年の倍率知ってるでしょ?」
レイネル王都立魔剣学院は国内でも屈指の人気を誇る学舎。
定員は五百名と多いように思えるが倍率は約十倍の約五千人がこの学院を受験する狭き門である。
その分、学院のレベルも高く入学試験は筆記、実技の二科目があり、それぞれかなり難しいものになっている。
だが、前世で研究者&学者をしていた僕にとってはこの学院の入試レベルなら朝飯前、実技の方に限っては魔力操作に関しては世界一の自信があるが今回は本気を出すわけにはいかない。
学院で目立ってしまえば裏で動きにくくなるからだ。
究明機関の尻尾を掴むためにもここでは普通の結果を出すために手を抜くつもりだ。
そして今、駅から歩いて学院近くの宿に到着し、チェックインを済ませ各々自室で寛いでいた。
「ついに王都に来ることができた。この機を逃す手はない、僕は必ず究明機関をこの世から消す。」
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次の日、入学試験当日。
僕とラファエルは少し早起きをして習慣のランニングをした後、朝食を食べ試験の準備をして学院に向かう。
「昨日の駅も凄かったが今日は一段と多いな」
「そうね、これには私も驚いたわ」
学院に向かう道は受験生でいっぱいだった。
そしてしばらくしてようやく学院の門の前までたどり着いた。
「宿と学院はそんなに離れてないはずなのにこの人の多さゆえに遠く感じたな」
「本当にね」
そんな会話をしつつ門をくぐりぬけ学院の中に入る。
そして、門をくぐって少ししたとき、
「すいませーん、誰か私の受験票取ってくだーい」
何か騒がしい声が背後から聞こえて振り返るとひらひらと受験票らしきものが風に飛ばされて、それを追いかける女の子がこちらに向かってきていた。