聴きたくない音を聴かずにすむようにする新技術
あなたにはきらいな音が沢山あった。
ある会社のコマーシャル曲。
ドラマの主題歌。
電話の発信音。
ある芸能人の声。
遮断機の警告音。
あるクラシック曲のワンフレーズ。
整備が甘い自転車のブレーキ音。
けたたましいバイクの排気音、走行音。
駅のアナウンス。
錆びた蝶番のたてる音。
商店街の放送。
シャッター音。
家族の咀嚼音。
ひきだしを開ける音。
子どもの泣き声。
甲高い笑い声。
あなたのもとにあるパンフレットが届いた。
「聴きたくない音を聴かずにすむ最新技術」
パンフレットの表紙にはそう書いてあった。
あなたはそのパンフレットに書いてあった番号へ連絡した。
あなたが通されたのはうすぐらい空間だった。
あなたはそこで「最新式の手術」をうけた。
「聴きたくないことを聴かなくてすみますよ」
医者は満足そうだった。「あなた以外にも沢山のひとが手術をうけています」
あなたはストレスから解放された。
きらいな音はあなたの耳にはいらない。
いちいちミュートにして聴かないようにしていたドラマの主題歌も、それだけが聴こえなくなり、それに被っている俳優のせりふはちゃんと聴こえる。
コマーシャル曲も勝手に聴こえなくなっている。映像だけ見れば、コマーシャルは綺麗なものだった。
家族の咀嚼音を聴かずすむから、家庭の食卓は随分楽しくなった。
あなたは耳の整備の為に病院へ向かった。
聴きたくない音を聴こえないようにしたひとは随分増えた。保険でまかなえるようになったのだ。聴きたくない音を聴かない権利は最高裁で認められ、あの技術を開発した会社を訴えた団体は静かに解散していた。
あなたは信号が青になったのを確認して横断歩道へ足を踏みいれ、けたたましく音をたてながら走ってくるバイクにはねられた。




