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狙われた心臓


()()()()()()()()()()()()()けどね、()()()()()()

 


 いつもより声に圧力をかけ、低い声を出す。



 二人とも魔女になる時に名前は変えている。 

 本来の名前に似ていた方がいいと言いながら、師匠が考えてくれたものだ。


 お互いににっこりと花のように華やかに微笑み合う。お互いの腹の探り合いなどもうやり尽くしてきた。

 くるんとカールしたクララのまつ毛は好戦的にバッサバッサと動いている。

 化粧気のないレーシーには毒々しくすら感じられる紅のこってりとした口紅で、妙に唇がてかてかとひかっている。それが今の流行りなのだろう、レーシーと違ってクララはそういう流行り廃りのあるものが好きだ。

 バチバチと二人の間で火花が飛び、散乱する。

 それらは物理的に部屋の中へ転がり出て、一秒とたたずに霧散していく。


「私の心臓どこにやったの? さすがのあなたでも心臓がなかったら私がどうなるかぐらいわかるでしょ?」


 生来通り、まっすぐな髪を長く伸ばすレーシーと、伸ばした髪をくるくるとお上品に巻き毛にしているクララはぱっと見はまったく異なる印象を与える。しかしじっくりと見比べて見れば、どれほど2人の姿形が似通っているかがわかる。

 長年別々に暮らしていたにもかかわらず、身長背格好もほどんど変わらない。

 どうでもいい話をしても、レーシーとクララがわかりあえないのぐらいはわかっている。レーシーはさっさと本題に入った。久しぶりの再会なのに情緒がないのは許して欲しい。相手は泥棒なのだ。

いやー久しぶり! などと和やかに挨拶などしてられない。


「えー? 心臓なくても毎日ロクとえっちなことして魔力流して貰えば死なないじゃない」


 取ってつけたようなお上品な話し方には飽きたのか、砕けた話し方で、クララがきゃらきゃらと軽薄な笑い声を上げる。何十年と生きているくせして、クララは年若い娘のように振る舞う。いや、真実内面が成長していないだけか……

 心の中は女狐であっても外見だけであれば美しく、今時の装いに身を包み魅力的に見える。


 突然話に名前を出されたロクは、クララの言葉に大袈裟にむせこんでしまっている。レーシーは哀れみを込めて、後ろに立つロクをちらりと見てから、ふぅ、と吐息を吐き出す。


「確かにそれで生きながらえることはできるけど……恋人でもないのに……」


 それは最後の手段だとレーシーは眉間に皺を寄せる。


「えっ、まだそんなこといっちゃう段階? アレから何年経ったと思ってんのよぉ」


 クララは驚きに目を開いてから、くすくす笑う。

 その瞳はレーシーではなく後ろにいるロクのほうに注がれていて、そのからかうような色にレーシーはますます機嫌を損ねた。


「なにがおかしいのよ??」


「えー? 教えてあげてもいいけど〜」

 

 クララの煌めくよう強い瞳が後ろに控えるように立っていたロクに、おもねるように向かい「なんなら私から伝えてあげてもいいんだけどぉ」などといいながら、巻き毛をくるくると指で弄ぶ。


「おい、レーシー。そんなことより心臓のことを聞け」


 持ち直したロクが、生真面目な顔で促してくるのを聞いてレーシーは話が脱線していたことを認識する。


「たしかに」


 先程まではお年寄りのようにごっほごっほど咽せていたロクに言われ、レーシーはあらかじめ考えてきていた質問を口にする。


「心臓をどこにやったのか聞こうとおもってたけど……アンタ今私の心臓を使ってるわね?」

 

 クララの服のざっくり空いた胸元は、くっきりとした谷間が見え影を作っている。目に毒なくらいに瑞々しい肌は惜しげもなく晒され、どうぞ見てくださいとばかりに胸元を強調するネックレスを付けている。

 前に会った時はもうすこし控えめだった気がするが、今はそういう気分なんだろう。


 人の心臓を使うなんて信じられないが、目の前に確固たる証拠がある。

 魔女であるクララに心臓が宿っているのは、奇異な事だ。

 それが自分の心臓でないならなおさら。


「自分の心臓はどうしたのよ」


 わざわざレーシーのものを使わなくとも、自分のものを使えばいい。一歩クララに近づいたレーシーを目を細めて眺めながら、クララは軽快に後ろへ下がる。


「大丈夫。私のはちゃあんと安全な場所に隠してあるから」


「じゃぁなんで……」


 わざわざ必要のない心臓を身体に付けている?

 

 自分の心臓があるならわざわざレーシーの心臓を使わずとも生きていけるではないか。


 レーシーはわけがわからずに、クララを見つめて首を傾げ

た。さら、と髪が肩から落ちていくのをクララの瞳が見ている。


「今日これから、一人の人間が私を殺しに来るの」


 クララは、くすくすと心底おかしそうに声を立てながらレーシーに話をする。

 ゾッとするような可憐さに毒をふんだんに含んだ歪みのある笑顔は、レーシーにとっては懐かしさすら感じるものだ。

 

「ハ? なに言ってんの?」


 突然話をされてもまったく意味がわからない。

 レーシーは間抜けな顔を隠しもせず、クララに呆れ返った言葉を返した。


 

 


短いけどちゃんと続き書く気はありますよという表明みたいなもの。


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