ばばばばばばば!
数日後、県知事は県庁にいた。
高崎市で買った「だるま」を丁寧に磨いていると、秘書が紙の束を持ってきた。
「『グンマ県に本気で海を!』という、県民のみなさんからの署名です」
この署名、県民の有志が集めてくれたそうで、
「三〇〇万人分あります」
「それはすごいな」
これは嬉しい。【第八次『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】を応援してくれる声が、こんなにたくさん。
県知事は署名の束を少しめくってから、
「たしか、グンマ県の現在の人口って、およそ二・・・・・・」
そこまで言ってから、口をつぐむ。
余計なことは考えないでおこう。ほら、今は『ふるさと納税』とかあるし、自称グンマ県民の数も合わせれば、そのくらいには・・・・・・。
「あと、こんな手紙が届いていまして」
秘書が見せてきた手紙、宛先は「県知事」になっている。
で、差出人は『グンマのポセイドン』!?
「おそらく、イタズラでしょう。お見せせずに捨てようか、とも思ったのですが」
「いや、渡してくれてありがとう。こういう手紙には心当たりがある」
先代の県知事が、引き継ぎの時に言っていた。「もしかしたら、変わった手紙が届くかもしれない」と。たぶん、これがそうだ。「その手紙は信じた方がいい」とも言っていた。
指先で触ってみた感じだと、危険物が入っているようではない。
中身を確認してみると、一枚の便箋が入っていた。
なんでも、『第七次』の時に、ある目的で開発していた物が、ようやく完成したらしい。
県知事は考え込む。先代の県知事から、そのような話は聞いていない。何が完成したのだろうか。
便箋には、グンマ県内の住所も書いてあって、
「太田市か。あそこは工場が多いよな」
うなずく秘書。
「あと、焼きそばが美味しいんですよ。『太田の焼きそば』♪」
県知事も同意する。
前に太田市で食べた焼きそば、その味を口の中に思い出しながら、
青のりと 麺とキャベツで いただきます
さらに続けて、もう一句。
焼きそばを ばばばばばばば! はい完食!
すると、秘書がにやにやしながら、
「点数をおつけしても、よろしいでしょうか?」
「・・・・・・」
秘書の表情を見て、県知事は警戒する。
「それは『太田の焼きそば』の点数だろうか?」
「いいえ、川柳の点数です」
「ちなみに、百点満点だと五〇点以上?」
探りを入れてみる。まあ、さすがに真ん中よりは上のはず。
「んー、そうですね」
秘書は明るい笑顔になると、
「川柳の方はさておき、焼きそばの方は個人的に八〇点以上です。本気でおなかがすいている時なら、もっと高い点数になりますね」
今のやり取りで、県知事は確信した。
次から川柳を詠む時には、この秘書が近くにいないことを、絶対に確認しなければ。
「あと、差し出がましいことかもしれませんが、私は『ばばばばばばば!』よりも、『ばばばばばばばーん!』にした方が、勢いがあって好きです」
「・・・・・・ああ、参考にさせてもらうよ」
しばらく川柳は控えようかな。そんなことを考えながら、県知事はパソコンでインターネット検索を始める。
便箋に書いてあった住所、あれを現地に行く前に調べておきたい。
入力後、パソコン画面に表示されたのは、
「おもちゃ工場?」
想定外のことに、県知事は戸惑う。
この工場に何があるのだろうか。