お賽銭(さいせん)には「本気の金額」
(でも、『分福茶釜』って、そういう感じの話だっけ?)
県知事は思い出してみる。呪いとか祟りとかではなく、タヌキが恩返しをする話だったような・・・・・・。
あのタヌキがグンマを呪った? それで、グンマは海と疎遠になった? そのせいで、『第七次』は失敗した?
さすがに荒唐無稽すぎる。
だが、念のためだ。不安の種は事前に取り除いておこう。
その日の内に、県知事は館林市を訪れると、茂林寺で『第八次』の成功を祈願した。
(なにとぞ、なにとぞ、タヌキさん。このグンマに、海をお授けください!)
お賽銭として「本気の金額」を投入した上で、全力で祈り続ける。三〇分以上だ。
(こうしておけば、茶釜ではなく、海に化けてくれたりして・・・・・・)
茂林寺をお参りしたあとは、せっかく来たのだから、周辺地域を「視察」していくことにする。
ここ館林は古くから製粉業が栄え、美味しいうどんを出す店がそろっているらしい。
うむ。うどんか。私も好きだ。
お店の一つに入ると、「ひもかわうどん」を注文した。
この「ひもかわうどん」、一般的な「うどん」と違って、麺に横幅がある。この店の場合だと、四、五センチくらいだろうか。
なので、グンマ県外の人、特に香川県の人は驚くと思う。
見た目でビックリ、麺をお箸で持ち上げてビックリ。
そして、食べてみるなり、「あれ、うどんだ!?」とビックリするはず。
(香川県のみなみなさま、グンマへのお越し、お待ちしております)
そんなPRを心の中で考えながら、県知事は幅広の麺を頬張る。
この店の麺は手打ちのようだ。つくり手の優しさが伝わってくるようで、うん、美味しい。するすると口の中に入っていく。
優しさの 分だけ麺に 幅がある
気分良く一句詠む。
素麺をディスっているつもりはない。
あっちはあっちで、ぎゅっと優しさが詰まっているはず。たぶんそう。
ひもかわうどんを完食すると、県知事は店を出た。
さらに視察を続ける。
つつじが岡公園とプラネタリウムを回ってから、
(【第八次『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】は、絶対に成功させるぞ!)
強い決意を胸に、県知事は帰路に着く。明日は高崎市を「視察」して、縁起物の「だるま」を買う予定だ。
そんな県知事の後ろ姿を、遠くから謎の男が見つめていた。
「さて、我々『四天王』も、そろそろ動き出すとするかな」