すべてがつながっている
就任演説から三日後、県知事は県庁にいた。
資料に目を通す。過去の【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】に関する資料だ。『第一次』から『第七次』までの分が、わかりやすくまとめてある。
現在のグンマに海はない。つまり、『第一次』から『第七次』までは目的を果たせなかった。
しかし、県知事に就任する前から考えていたことがある。
歴代のグンマ県知事は、決して無能ではない。たしかに、目的の達成には至らなかったが、プロジェクトそのものが「失敗」だったとは思わない。
それを、これらの資料で確信した。
なぜ、【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】は、『第○回』という表記ではなく、『第○次』となっているのか。
すべてがつながっている。
最初のプロジェクト、その終盤において当時のグンマ県知事が、目的達成には時期尚早だと悟った。
普通なら、そこで短期的な視野になりやすい。たとえ長期的にはマイナスであっても、自分の手柄になりそうな行動をする。
ところが、当時の県知事は違う決断をした。
まず、それまでは無印だったプロジェクト名の前に、『第一次』の文字を追加した。
そして、計画のために用意した予算の残りを、そっくりそのまま「積立金」にしたのである。
これを、『第二次』と『第三次』の県知事たちもマネをした。「現段階では計画達成が不可能」と悟ったタイミングで、予算の残りを「積立金」として振り替えたのだ。
このことが『第四次』において生きてくる。
過去三人の県知事による積立金、なかなかの金額になっていたが、『第四次』の県知事は「まだ足りない」と感じたらしい。どこかの海を買うにせよ、それ以外の方法を選択するにせよ、資金力は重要になるはず。
そのため、【第四次『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】は、それ以前のプロジェクトとは、かなり毛色の違ったものとなった。
海を獲得するためのプロジェクトなのに、自分の代では海の獲得を狙わない。プロジェクトの予算、及び、これまでの「積立金」を、グンマの経済基盤を強化するのに、惜しみなく投じた。
この方針、当時は「無能」と言われたそうだが、その評価はのちに一変する。県の財政が大幅に強化されたのだ。今後の計画に使える予算が、激増したのである。
続く『第五次』と『第六次』でも、この考えは引き継がれる。経済基盤の強化が一時的なものにならないよう、海の獲得を我慢して、戦力を集中投入した。
こうして揺らがぬ経済基盤を築き上げてから、『第七次』でついにグンマが動き出す。
機は熟した。もはや海を手に入れたも同然。
しかし、この時はとにかく運に恵まれなかった。
(『第七次』の時に重なった不運、あれは本当に偶然だったのか?)
しばらく無言で県知事は考え込んだ。