#1 柳という男
片道1時間半を経て到着したそこは、美しく聳え立つオフィスビルだった。
ガラス張りの外壁が太陽の光を存分に跳ね返し、その存在感をより主張している。
燦々と輝く様は、これから待ち受ける夢の世界への期待と興奮をより高めてくれた。
大理石の床に並ぶ革張りのソファーを横目に通ると、上品なスーツを着た数人から好奇の視線が集まる。
それはそうだろう。
大企業が集まるオフィスビルに、くたびれた姿のゲーマーが1人。
なんの要件かと伺い知りたくなるというものだ。
エントランスの先、エレベータホールにはAからEまでの5基とそれぞれの行先が掲示されている。目的の23階は、途中の15階で高階層行きへと乗り換える必要があるようだった。
目的の階で降りてからは早かった。ワンフロア全てを占有する広さに戸惑っていると、あれよあれよという間に案内され、気を取り直した頃には圧巻の景色を前に立ち尽くしていたのである。
100は下らないであろうそのモノは、まるで医療ドラマやドキュメンタリーで見たMRIのようで、機械独特の冷たさと、精密機器特有の繊細さを感じた。
「お越し頂き、ありがとうございます。GG様。」
不意の呼びかけと、それが自身のゲーマーIDだったことが驚きに拍車をかけた。
「は、はい!あ、お邪魔してます!」
どうして名前を呼ばれたのか、という疑問はすぐに解けた。
案内された時に最初に案内された時にタブレット端末にゲーマーIDとパスワードを入力したことを思い出したからだ。
その時の案内役もこの人だった。
「紹介が遅れまして申し訳ありません。私は、カスタマーサポートを仰せつかっております。柳と申します。」
柳と名乗った男は、柔和な笑顔で優しい声の初老の男性だ。ピシッと着込んだスーツの胸には確かにCSと書かれたシルバーのバッジが光っている。
「こちらの機器が、私共が開発した次世代型のハードでございます。家庭用とはいきませんが、バーチャルリアリティを極めるに相応しい、素晴らしい性能を秘めております。」
そう語る柳は、愛しい我が子を見守るような、誇らしいような笑顔のまま、こちらに目をやり、続けた。
「あなたのようなプレイヤー、いえ、サバイバーにこそ、体験して頂きたい。それこそが未だ見ぬ先を見せてくれる可能性なのだと。私はそう考えております。」