006 俺は勇者
頭を下げてきた王様にはあ?と声を返すと、周りの人にもガッと頭を下げられる。
「呼びつけておいて、お願いばかりで申し訳ない。ただ、右京殿に勇者になってこの世界を救ってほしいのです!」
王様は必至な声で訴えてくる。
だけど、俺にはなんのこっちゃ分からない。
勇者にこの世界を救うってどういうことだ?
「あの、意味が分からないんですが。」
「あ、ああ。申し訳ない、焦っていて右京殿が何もない世界から転移してきたことを忘れておった。」
王様はそう言って、落ちかけた冠を戻した。
そして説明をしてくれた。
王様によれば、この世界は1000年ほど前から魔物と人類の二つの種族が存在しているらしい。
ここから遥か北西の方に魔王城があり、そこを囲むように魔物が存在していると。
そして度々人類が住む、城や町に現れては、人々を襲い家畜や食材を盗っていく。
魔物の大体は魔力で生きることが出来ると言うのに、人里に降りて人を殺し食べていると。
そして魔物の大体は知能が低いが、中には高いものも存在し、それを中心に数年に一回種族で纏まって大きな攻めをしてくるらしい。
城に降りて、散々殺し、食料を抱えて戻っていく。
「私の父も母も、以前の大きな攻めで殺された。目の前で、武器でめった刺しにされて...くっ。」
王様はそう悔しそうに呟いて、椅子の肘置きをガンっと叩いた。
話を聞けば聞くほど、魔物が憎くなってきた。
なんで魔力で生きることが出来るのに、人を襲うんだ!
目の前で殺すなんて、最低だ。
「ふーーー。取り乱した、すまない。そこでだ、最近解読された古文書に異世界から来し者が世界を救わん。とある。右京殿、あなたにこの世界を救って欲しい。魔王を殺し、その周りの魔物を殲滅して欲しい!無理にとは言わん。ただ、元の場所に送り返すことはできないのだ。勝手で申し訳ない。」
王はそう言ってまた頭を下げた。
帰れないのか...でも返っても苦しいのが続くだけだ。
人類を救うことは楽しかったし、誇らしかったけど、生まれ変わってらやりたいかと言われればそうじゃない。
顔も見えない人の為に俺たちがやる必要があるのか不思議だった。
挙句、ドクターたちに使い捨てられた。
でも、ここなら。
ここなら俺が救ってる人の顔が分かる。
こんなにも必死に頼んでくれている。
しかも、俺は魔物が許せない。
家族が居るんだ。
そんな目の前で食べなきゃやっていけないわけでもないのに!
このままじゃあまりにも人類が不憫だ。
俺に戦う力があるのなら、救ってあげたい。
「わかりました。勇者として魔物を殲滅し、この世界を救います!」
「まっ、誠か?!」
「はい。俺にできることならなんでも致します。」
そう言って立って王様に言うと、王様が目を見開いて驚いた。
そして椅子から降りて俺のもとに来ると、手をガシッと捕まれた。
「右京殿、ありがとう。本当にありがとう」
王様はそう言って俺に頭を下げた。
「では、先程回復魔法を唱えた者。」
「はっ、はい!自分です!」
「うむ。お主、右京殿に色々教えてやってくれ。」
「はい!任されました。」
王様の声に人ごみの中からさっきの黒い服の男性が現れた。
そしてはいっと頷いた。
「右京殿、今日はもう遅い。明日、旅立つにあたっての資金や仲間を渡そう。今日は色々あって疲れただろう。ゆっくり休んでくれ。」
「はい。王様も、疲れているように見えます。ゆっくり休んでくださいね。」
「...ふふ、右京殿は不思議なお方だな。分かったゆっくり休む。」
隈があり、疲れが滲み出てる王様に、休めと言う。
いつもだったら疲れが見えた瞬間に、ドクターに今日の実験は後日と言われるんだ。
それほどまでに体調は大切。
だから王様にもゆっくり休んでもらいたい。
その思いで声をかけると、王様を目を見開き驚いた後、微笑んだ。
本当に優しそうな王様で、慕われているのだろうななんて思った。
「明日の午前10時にまたここで。では、解散。」
王様がそう言うと、群がっていた人々が一気に出口を求めて出て行った。
「---勇者様。」
「はっ!」
「ああ、驚かせてしまってすみません。こちらです。」
俺を助けてくれた人はそう言って歩き始めた。
つられるように後を追うと、男性は出口を出て、左に曲がった。
俺は黙ってその男性に付いて行った。