001 俺たちの日常
白い服に白い部屋。
白い本棚に白い本。
白いベットと布団。
全てが白で統一されて、広い部屋。
片割れと住んでいる。
住んでいるというか、ただいる。
中年のドクターに呼び出され、ベッドに寝て器具を付けられる。
何かの薬を打ち込まれて、衝動に耐えて解放される。
たまに痛くて辛い。
だけど頑張るとドクターは頭を撫でてくれた。
それを目当てにただただ頑張る。
俺たちにとってそれが当たり前で、当然。
左京はこれは当たり前じゃない、本の中が当たり前だって言うけれど、本の中の話なんておとぎ話だ。
「おかえり!左京!」
「...ただいま。」
少し足を引きずるようにして、白い服に身を包み戻ってきた俺の兄弟の左京。
黒い髪の毛が目にかかって見にくそうだ。
俺と同じ身長、同じ顔付き、君らは双子だって言われた。
どうやら俺が兄らしい。
でも、誰から生まれてきたかなんてわからない。
だって、気付いたらここにいたから。
覚えてる最後の記憶は、胸が熱くて痛くて泣き叫んでいる記憶。
胸の痛み。
それだけ。
「また、本読んでるの?」
「ドクターが新しいのくれたから。」
「どんな話?」
ベッドに座って本を読み始めた左京に近づく。
俺らの世界で黒いものと言ったら、俺と左京の髪、目、そして本についている字だ。
絵も何もない、ただの字。
左京はそんなものを読んで楽しいのだろうか。
俺には理解できない。
「魔王になって、人を殺してくの。自分たちの世界を縮めた人間を皆殺しにしてるんだ。仲間と一緒に。」
「ふーん。」
ペラっと次のページをめくる左京は俺に興味もなさそうだ。
それが面白く無くて、集中を乱すのを承知でまた声をかけた。
「左京はさ、もしなるなら魔王と勇者どっちがいい?」
「はあ?」
集中を乱されて怒ってもいいのに、一切怒らない左京。
本当は左京が兄なんじゃと思ってしまう。
左京は優しいんだ。
「勇者になって魔物を倒すか、魔王になって人を襲う。どっち?」
「...右京は?」
「えー?俺?俺はねぇ、勇者になる!勇者になって人を救うんだ。」
「...俺は、魔王になる。魔王になって、右京の邪魔してやる!」
にやって笑って左京はそう言った。
それに意地悪って言って、二人で顔を見合わせて笑った。