ようやく
「…………えっ」
断固とした、意志の通った確かな言葉を確かに伝えることができた。けれどその言葉は理沙を困惑させるだけであった。
――うん、そりゃそうだね。たとえが悪すぎた。少しずつ俺は冷静さを取り戻し始めた。
「おにいちゃん、それってどういう……」
「……つ、つまりだな、理沙! お前は俺にとって……お前がいうような『理想の妹』になんてなる必要はないってことだ!」
グチャグチャになった頭の中を何とか整理し、俺は自分の思いを理沙にぶつけていく。
『理想の妹? そんなつまんねえこと聞くなよ』
さっきの理沙の問いに、俺がそう言ったのはこういうことだ。理沙の目指した「理想の妹」なんてもんは、ぶっちゃけるなら幻想だ。そんなのがまかり通んのは、しょせん幻想の中だけだ。俺は立て続けに、思いをどんどん発していく。
「喧嘩したっていい。罵詈雑言を言い合ったっていい。むしろ、本気でぶつかり合うのことができるのは、『家族』だけだ! だから今のお前とは喧嘩もできねえ!」
無論、喧嘩をするつもりはないし言葉のあやだ。俺が言いたいのは、無理して自分を偽る必要はないってことだ。
そんなのは「家族ごっこ」、本当の家族じゃない。義理だろうがなんだろうが、俺は理沙と互いのありのままの気持ちをぶつけあいたい。
「けどおにいちゃん……」
「理沙、お前が俺にとって、『理想』じゃなかったとしてもだ。今のお前は俺にとって大切な妹だ。血の繋がりなんて関係ねえ! お前のためにできることならなんだってしてやる!」
ほぼ息継ぎなしで、俺は心の内で思っていること、すべてを理沙にさらけ出した。
はあ……はあ……! かなり息切れを起こした。俺は下を向き呼吸を整える。
冷静さをなくし、頭に再び血がのぼった俺は、かなり支離滅裂かつ、くさいこと言っちまった……! 本心とはいえ俺は自分の言葉に、後々悶え苦しむことになるだろう。
息が整ってきて、俺は理沙の顔を再び見つめる。理沙はキョトンとした顔で、立ち止まっていた。
「ほ、ほんとうに?」
確かめるような口ぶりで、理沙はやっと声を出した。
「本当に、あたしは『理想の妹』じゃなくていい……の?」
「何度も言わせるな。俺は俺、お前はお前だ」
俺は自分に胸指し、次に理沙の胸元に指をさす。そして締めの言葉として、俺は理解してくれただろう、最初の発言を再び口にした。
「さあ、互いに裸になってぶつかり合おうぜ!」
「……………」
「……あれ?」
一方的に強制するような言い方はどうかと思い、自分も裸――ありのままの姿を見せるといった意味だ、理沙は、何も言わずに固まった状態になった。……や、やべえ、またやっちまった!
「ありのままの姿でやっていこうぜ」
「心の声を叫び合おう!」
今思うとそうした言い方の方が良かったかもしれない。いや、かんっぜん、そっちのほうが良かった。少なくとも、俺の言い方は「実の妹」に対して、あり得なかった。
「理沙……、えっとだな……さっきも説明したけど……」
理沙の心にかかった鍵を解きにきたはずが、逆にさらに厳重に鍵をかけさせる結果となってしまったと、俺は取り乱しながら、弁明しようとする。その時だった。
「ぷっ……ははは! ははははっ!」
公園外にまで聞こえるんじゃないかと思わせる、初めて見る顔だった。腹の底から一斉に吐き出したかのような笑い声を、理沙は出した。
――そして理沙笑い終え、にっこりとしながら俺を見据えた。
「ありがとう、おにいちゃん……!」
さっきとは違った意味での涙を目にため、理沙は少し首を傾ける。そして理沙は、今までとはまた違った、それでいて最高級の笑顔を俺に向け、こう言い放った。
「あたし。これからは裸になるね!」
「――ああ! 多少は抵抗あるかもしれねえけど、真っ裸になろう!」
聞く人が聞けば、かなり危ない問題発言。だが世界中の人に伝わらなくても、俺にはちゃんと、理沙の言葉の意味が伝わった。
この日、「真砂理沙」はようやく、俺の妹になった。