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妹たれる  作者: 本間甲介
理沙
17/31

黒歴史を刻みし言葉


「妹になりたかっただと……?」


 商店街片隅にある、本来は駐輪してはならないのに、多くの自転車が置かれた場所に、自転車を立てかけた。


「ふざけんじゃねえよ……!」


 俺は胸の怒りがさらに肥大する。思い切り壁を蹴ってやりたかったし、思い切り叫んでやりたかった。


 だがそれは俺はなんとかそれを胸に秘め、藤枝さんに教えてもらった理沙がいるであろう場所に向かって歩き出していた。


  

「『妹』になりたかったって……それってどういう意味?」


 先ほどの電話で放った藤枝さんの言葉はすぐに理解できるものではなかった。


『そのままの意味だよ。理沙ちゃんは真砂くんに好かれたいから、【ああいうキャラ】を演じたと思うんだ』


「演じた……? それってつまり、理沙の俺に対する態度ってことなのか?」


『うん。ごめん、こんなことならもっと早く言うべきだったんだけど……』


「い、いや藤枝さんが謝ることじゃないよ!」


 どうやら藤枝さんはかなり前から理沙の態度について、何か感づいていたようだ。


 中学時代の理沙を知らなくても、過剰ともいえるほどの理沙の俺への接し方には、確かに不自然なものがあると、俺も薄々気づいていた。けど……。


「なんでそんなことをする必要があったんだ? 別に俺はそんなことしなくても、あいつのことをちゃんと『妹』だって思っているのに」


 相手が藤枝さんということも忘れ、俺は口調をきつくして問い詰めるように訊く。


『それについては本人に訊いてみないとわからないけど……これだけは言えると思うんだ』


 一呼吸置き、藤枝さんはさっきよりも大きな声で、


「理沙ちゃんと本当の『兄妹』になるには、今しかチャンスはないよ!」


 まるですぐそばにいるかのように、好きな女の子は、そう俺を励ましてくれた。



 商店街を南入口からずっと北上していき、俺は北出口すぐそばにある、教えてもらわなければまったく気づかなかったであろう、小さな公園にの前までやってきた。


『理沙ちゃん、よくそこの公園に行っていたから、もしかしたら……』 


 学年が違うこともあり、部活上の関係にしかなかった二人だが、藤枝さんいわく、中学時代の理沙は、何かに囚われるように、必死にテニスに明け暮れたらしい。


 人一倍に練習をし、監督の指示は絶対に守り、相手の試合ビデオを何度もリプレイして見直したりと、それはもう熱心だったとのことだ。


 そして藤枝さんは、理沙は試合に負けたときに、その試合場から近い、ひと目のない場所、公園のベンチなどで落ち込んでいたとのことだった。


 真面目すぎる……。あの言葉の真意が、テニスに熱心だっったときのこを言うならば、俺に対する態度も同じものであると考えられる。


 いるとは限らない。けど、手がかりのない中、俺は藤枝さんの言葉に従うしかなかった。俺は一度目を閉じ、深呼吸をして、公園へと一歩足を踏み入れた。


 ブランコ、滑り台、砂場……。子供の遊び場を形成する、必要最低限の遊具がまず俺の目に入ってきた。


 それらの遊具で遊んでいる者は、今のところ誰もいなかった。だが公園内に人がいないという意味ではなかった。


「り……さ」


 藤枝さんの言った通り、公園の壁際の奥の方に青いベンチが置かれていた。そのベンチの上には一人の少女。探し求めていた理沙の姿があった。


「…………」


 理沙は俺に気づいていないのか、観を縮こめ、ずっと地面に顔を向けていた。俺はそっと理沙のところまで足を向ける。あと三メートルといったところ、俺の足音に気づいた理沙がゆっくりと顔を上げた。


「――っ! ……お、おにい……ちゃん……」


 度肝を抜かれたように、目を丸くし体をビクッと震わせる理沙。理沙は虎のように俊敏にベンチから腰を上げた。


「ま……てっ!」


 ここで逃がしてなるものか。俺は理沙の逃げる方向に向かって、目いっぱいに右腕を伸ばした。


「きゃっ!」


 伸ばした右腕は、見事理沙の右手首を掴んでいた。離してなるものかと、俺はさらに力を加え、理沙を自分の側に引きこんだ。


 急に別のベクトルへ力を入れられたことで、理沙の体はバランスを崩し、倒れそうになった。


「っ……と!」


 それを俺は、理沙の腰に手を回し、抱きかかえるようにして阻止した。


「……………おにいちゃん」


 暴れられるものかと覚悟していたが、理沙は俺の手の中でおとなしくなった。俺は少し理沙から体を離し、理沙の両肩を掴んで、真正面から理沙を見つめる。


「おにい……ちゃん?」


 目に涙をためこんでいるのがよくわかった。家族になって初めて見る、理沙の悲しみに満ちた顔だった。


 ……理沙は理沙なりに悩んでいたんだ。それに気づかなかった俺っていったい……! 情けなさから、上下の奥歯をギリギリさせる。俺は掴んだ両手の力をさらに込める。


「理沙……」


 すうっと息を吸って吐き、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。言うべきかどうか、藤枝さんとの電話のあとからずっと悩んでいたが、今なら言うことができそうだ。俺はその熱が下がらぬ前に、俺は理沙に頭に浮かんだ言葉をそのまま告げた。



「理沙、裸になれ!」


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