分岐点
「映画、面白かったね」
「うん、そうだね……!」
約九十分の本編を見終え、俺と藤枝さんはシアターを出た。
「あのラストには驚いたよね、まさか主人公とヒロインが……」
映画の感想を嬉しそうに語っていく藤枝さん。俺もそれに笑顔で応じるが、正直内容について、よく覚えていなかった。俺は周囲を見回した。
「いないな……」
俺は藤枝さんがお手洗いに行った隙に携帯を取り出し、メールと電話履歴を確認する。理沙から何も連絡はなかった。
マジでどこに行ったんだよあいつ……。苛立ちから携帯を力強く閉じる。
「理沙ちゃん、出てこないね」
いつの間にか戻ってきた藤枝さんは、俺の心を読み取ったかのようにそう言った。もう映画が終わってから十分は経っていた。
「まったく、遅くなるなら遅くなるでメールの一つもよこせっって言いたいよね」
同調を求め、俺は理沙への不満を告げる。もう一度、館内に入って探しに行こうか……。そう思ったときだった。携帯の着信が鳴った。慌てて開き確認すると、それは理沙からだった。
【ごめんさきかえる】
メール画面を開くと、そこにはたった一文、そう書かれてあった。
「先帰るって……」
戸惑いの気持ちから俺は理沙に返信をしようとする。そこでまたメールが来た。
【あたしはへいきだからおにいちゃんはせんぱいとたのしんできて】
変換も何もされていない、淡々とした文章だった。わざとらしいくらいだった。
「理沙ちゃんから?」
「あ、うん……なんか先に帰ったみたいで」
誤魔化すように携帯を閉じる。
「そうなんだ。じゃあこれからどうする?」
「え……?」
てっきりこのままここでお別れ……。そう考えていた俺には、藤枝さんの発した言葉は思わぬものだった。
「うん、真砂くんが良ければ、今からどこかで軽食しない? 色々と話したいしさ」
動悸が一気に激しくなる。え、これってチャンス? いっしょに映画を観られただけでも信じられないほどの奇跡なのに、この上いっしょにご飯食べるとか……! ニヤけそうになる顔を留め、俺は藤枝さんを正面から見据える。
「そりゃもうもち――」
「ろん」と、誘いに応じようとしたその直前、俺の頭に別の思いが浮かぶ。それに囚われるように、俺は口を半開きにして立ち止まった。
「どうしたの?」
心配そうに俺を見つめてくる藤枝さん。今目の前には、藤枝さんがおり、こうして俺を食事に誘ってくれている。こんな機会はもう今後の高校生活において無いかもしれない。そう、秤にかける必要なんてないはずなのに……。
「ご……ごめんっ!」
俺の口から出ていたのは、誘いを断る言葉だった。