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妹たれる  作者: 本間甲介
理沙
11/31

電車内にて

「おにいちゃん、観る映画はもう決めた?」


 淡いピンク色のシャツにに、ショートパンツという、見る人が見ればかなり情欲に駆られそうな服装。いつにもまして気合の入った格好をした理沙は、隣に座る俺に、嬉々として何かを尋ねてきた。


「………」


 ガタンゴトン、ガタンゴトン。電車が揺れる。その程よい振動が、俺に心地よさを与えてくれた。


 ああ、眠い。昨日は一昨日と同じであんまり眠れなかったからな……。


「お・に・い・ちゃ・ん!」


「うおっ!」


 頭がかき回された気分になった。理沙はTPOをわきまえずに、俺の耳元で大きな声を上げた。


「ちゃんと聞いてるの!?」


「聞いてる聞いてる! ちょっとぼーっとしてただけだ!」


 耳を抑え、俺は理沙からの第二波を警戒する。


「もう! せっかくのデートなんだよ、もっとしゃっきりしてよ」


「わかったわかった……ん? デート?」


 聞き間違えかと、俺は理沙へと聞き返す。


「で、おにいちゃんはどれを観る?」


 だが俺の問いかけを無視し、理沙は再び観る映画を尋ねてくる。


「あー、じゃあ……」


 一応、今やっている映画を調べてみたが、やはりこれといってすごく観たいと思えるものはなかった。だがそんなことを言えば、理沙が怒るのが目に見えている……。俺は一番に思いついた映画のタイトルを口にした。


「ほんと!? あたしもそれ観たいと思ってたんだ!」


 やったーと両手を上げて喜ぼうとする理沙を、俺は寸前のところで押しとどめる。これ以上、電車内で目立つのはゴメンだ。同じ学校の奴もいるかもしれないという不安から、俺は周囲を警戒した。


「ねえおにいちゃん、映画観たあとどこに行く?」


「どこって……帰らないのか?」


「当たり前じゃん!」


 それがごく普通に決められたことのように、理沙の中では映画を見終えた後のプランが確立されているようだ。……まあいいか。せっかくの日曜だ。ただ映画を観て帰るのもつまらないだろう。俺は理沙に、映画を観たあとに決めようと、意見を保留した。


「楽しみだなあ!」


 鼻歌混じりに喜ぶ理沙。改めて見ると、やっぱ可愛いな……。恋愛感情とか抜きにして、俺は本心からそう思った。


 ……こうしてみると、行蔵や神無月がうらやましがる理由もわかるような気がする。こうも積極的に「義理の妹」に迫られれば、いくら俺が藤枝さんのことを好きとはいえ、本当にたまにだが、どきっとするときがある。


 全国の義理の妹を持つ兄は、みんなこんな風なのだろうか? ふと俺はそんなことを考える。


「んなわけねえか……」


 ぼそりと、隣に座る理沙にも気付かれないような小さな声で、俺は呟いた。そう、こんなことは滅多にあるはずがない。理沙のスキンシップが例外なだけだ。


 それが多々あるのはやはり恋愛ゲームやラブコメ漫画くらいだろう。


「……ん?」


 その時、頭の中で何かが引っかかった。


「どうしたのおにいちゃん?」


「――あ、いや……なんでもない」


 理沙に声をかけられ、もう少しで出かけていた答えは、再び頭の奥底に入っていってしまった。俺はもう一度それを探ろうと頭を捻ろうとする。


「あ、おにいちゃん着いたよ」


 だがそこで、俺は理沙に手を掴まれ、目的地の駅へと降りることになった。引っかかりは、消え去ってしまった。


「よーし、レッツゴー!」


「お、おい……!」


 ぎゅっと俺の腕を掴みながら、理沙は引っ張るように俺と並びながら歩く。掴まれたことで歩きにくい俺は、理沙から腕を放そうとしたが、理沙は決してそれを許さなかった。


「逃げちゃダメだよ!」


 さらに力を入れる理沙。周囲の視線が痛々しい。仕方なく、俺は顔をうつむけながら、映画館のある場所までの道を、恥ずかしい思いをして歩くことになった。


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