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突然

次で最後です

食事も摂り終わり、日課になっているババ抜きを終わらせ、就寝の準備をしようとしたその時。


ピンポーン。


インターホンの音が鳴る。そんなにいい物件ではないので相手の顔をみるモニターなどはついていない。直接玄関に向かう。


「…はい。どなたですか?」


「すみません、時間指定の配達が貴方の住所宛に来ているのですが。」


何も頼んだ覚えは無いが、誰かから送られてきたのかもしれない。


「はい、分かりました。今開けますね。」


チェーンを外しドアを開ける。そこにはいつも街中を走っている有名な配送業者の制服を着た男性ではなく、黒いスーツを身に纏った屈強な男性が5人ほど立っていた。


「…荷物は。」


「そんなものはありません。見れば分かるでしょう。」


「…」


「ここに96型がいるはずだが?」


「…何のことですか。」


「しらばっくれても意味は無い。貴様が一緒に行動していることも、ここにいることも全て調べがついている。」


「…。」


「ねぇーどうしたの?荷物の受け取りってそんなに時間かかるものだっけ。」


空気を読まずに後方から彼女の声が投げかけられ、姿を見せる。


「…なんなの?こいつら。」


「おーおー、1週間ぶりの再会なのにそんな冷たい態度とらなくてもいいじゃないか。96型」


「…博士。」


黒服の間から白衣を着た初老の男性が姿を現す。


「君が96型と一緒に生活をした人かい?」


「…はい。」


「それはご苦労だった。実は96型が社会に溶け込めるかの実験をするために故意に研究所の外に出してみたのだが、どうやら成功だったようだ。」


「…故意?」


「そうだとも96型。我々の研究所があんなヘマをすると思うかね?天下の帝住重工だぞ?君が研究所の外に出られたのは実験のための計画だったに過ぎない。その頭の中には1週間社会に溶け込んだロボットの重要な記録が残っている。さぁ、帰るぞ。実験の続きだ。」


「いやよ。帰りたくない。」


「今ここで動作停止にしてもいいんだぞ?ただそれをするとメモリーに障害が発生する可能性があるからしないんだ。さぁ素直について来い。」


「いや!私はここにいる!」


「ったく、研究所でもこの調子だったから社会に溶け込めば少しは変わると思ったが…。おい。」


白衣を着た男性は黒服の男に顎で指示を出し、部屋の中にいる彼女を捕まえようとした。


「…待ってください。」


「ん?どうしたのかね?」


黒服の行く手を遮る。


「…彼女は嫌がっています。そんな彼女を連れて行くなんて人道的ではないのでは?」


「何を言ってるのかね。96型はロボットだ。私が開発したな。」


「…それでも彼女が嫌がっている以上連れて行かせるわけには行きません。」


「あなた…。」


「ええい、それは私の、帝住重工の所有物だ。窃盗の罪で君を引き渡してもいいんだぞ?」


「構いません。」


「…面倒だ。やれ。」


博士に指示をされた黒服が懐から拳銃を取り出し額に当ててくる。


「まって!!!」


その瞬間、彼女が部屋から飛び出してくる。辺りは静寂に包まれ額には拳銃の冷たさが伝わってくる。


「…行くから…。」


「…貴女は行かなくていいんです。」


「でも行かないとあなたが…。」


「そうだぞ96型。私達がこの研究にどれだけの金をかけてるか分かってるな?この男一人くらい消してでも続けるくらいの予算は下りているんだ。」


男性は下卑た笑いを湛えこちらを見てくる。


「…分かってる。」


彼女が私の横をすり抜けて前へ出る。


「…待ってください。」


「ん?まだあるのかね?」


「彼女を…。彼女を私に売ってくれませんか?」


「…はぁ?何を言ってるんだ君は。」


「冗談ではありません。彼女を私に売ってくれませんか?どんな金額でも払います。ですから…」


「無理だ無理!このロボットにはただの会社員が生涯をかけても払いきれないような金がつぎ込まれてるんだ。そもそも社外秘の技術が使われてもいる。誰かに売るなんて出来ない。」


「それでも、どうか…。」


「無理なものは無理だ。諦めろ。」


「どうか!どうか…。」


男性の足に縋り付く。


「離したまえ。」


「どうか…どうか…。」


「ふん。やれ。」


その言葉を聞いて黒服が私の体を蹴り上げる。


「ぐぼっ!」


鈍痛では済まされない内臓痛が全身を襲う。呼吸が出来ない。地面をのた打ち回ることしか出来ない。


「やめて!彼には何もしないで!行くから!私が行けばいいんでしょ!」


「い…いけません…。」


倒れている私に彼女が歩み寄ってくる。


「もういいの…。ありがとう…。これ以上私のために苦しまないで?」


彼女は私の体を優しくさする。


「で…ですが…。」


「もういいの…。私楽しかった。貴方と過ごした1週間。こんなこと、研究所にいたときには味わえなかった。本当に感謝してるの。」


彼女は思い出すように目を閉じる。


「私が服を買ってって言ったときに、悩みながらも買ってくれたね。あなたは使わない化粧品なのに買ってくれたね。お揃いの食器も買ってくれたね。いつも寝る前にトランプしてくれたね。料理も教えてくれたよね、失敗しても怒らずに一緒に作ってくれたよね。それに…それに…」


彼女の目からは大粒の涙が零れだす。


「あ、あれぇ、おかしいなぁ…。ただ思い出しているだけなのに…。何か目から…。」


その涙を指ですくう。何の熱かは分からない。ただその涙は確かに温かかった。


「…私も、楽しかったです…。」


「あははー、そういってくれると嬉しいなぁ…。そうだ、ネックレス、もらって行っていいかな、あれ大好きなんだ。」


「…えぇ。もちろん。貴女のために買ったのです。」


「そっか、じゃあこれがあればもう大丈夫。また研究所で頑張れる!大丈夫だって!私ロボットだよ!死ぬわけ無いじゃん!」


彼女は涙声になりながらも気丈に振舞う。


「…貴女は、強いですね。」


「あったりまえでしょ!私は最新鋭のロボットなんだから!」


そういうことじゃないんだが。まぁいい。これが彼女らしいじゃないか。


「あ!笑った!」


「そうですね、笑ってしまいました。」


「ふふ、これで目標達成。思い残すことは無いね。」


彼女は立ち上がる。


「さぁ長々待ってもらって悪かったわね。」


「別れの時間を邪魔するほど無粋じゃないさ。さぁ行くぞ。」


「…」


背を向け、去っていく彼女にかける言葉がない。現実感が無い。


「本当に、ありがとう。きっとこれが。」


彼女が服の袖で顔を擦っている。少し赤くなった鼻頭を見せ振り向く。


「恋、なんだね。」


そういい残して彼女は去っていった。同時に私の意識も暗闇に落ちていった。



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