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出会い

元々は短編用に書き下ろしたものだったのですが、長くなってしまったので2部完結の話にしようと思います。お付き合いいただければ幸いです。

「君さぁ…もっとこう柔軟というか、融通を利かせるって言うかさぁ…」


「はぁ…」


「本当に分かってる?」


「はぁ…」


「はぁ…、もういいよ。仕事に戻って。」


「はぁ…」


今日も怒られた。ただマニュアル通りに仕事をしているだけなのになんでこうなるのか。そもそもマニュアル外のことを要求してくるのがおかしいのではないか。

そんなことを思いつつも、上司に逆らう部下は危険因子とみなされて排除、つまりクビになることは避けられない。明日の生活を守るためにもここは従っておくしかない。


数時間後仕事も終わる。


「…お疲れ様でした。」


定時になり、職場にお辞儀をして部屋を出る。


「…あの人さぁ…、単純作業は早いんだけど、どうも取っ付きにくいっていうか…。」


「あーわかるぅ。笑ったり、怒ったりもしないしね…。」


「そうそう、別に不快ではないんだけど…、なんか、ねぇ…。」


遠ざかる部署から声が聞こえる。恐らく自分のことを言っているんだろうが、別に仕事だけの関係の人間にそこまでサービスする必要はあるのかと考える。その考えも会社を出るときには消え、夕飯について考える。


「さて、カロリーを摂取するのに効率的で栄養価もそこそこ良いものを…。」


メニューを考えながらスーパーへ向かおうと足を動かしたその時。


ドンッ!


腹部に衝撃が走る。


「…あっすみません。」


彼の胸の高さくらいまでしか身長が無い少女がぶつかってきた。


「…大丈夫ですか。」


「え、えぇ私は。」


「…そうですか、それはよかった。気をつけてください。」


「は、はい。それでは。」


少女が走り出す。


「…この光景どこかで…。」


この光景、この状況を彼はどこかで見たことがあった。


「そうだ…、先週テレビで…。」


海外の旅行事情を扱っているバラエティー番組を見たのを思い出す。あれはイタリアの話でスリの聖地などと呼ばれているとか。ぶつかって財布を抜くのは常套手段、なんてことを思い出し懐を探ってみると。


「…無い。」


そう、スられたのだ。


「…」


彼は彼女の逃げた方向へ走り出した。まだそう時間は経っていないはずだ。


「…」


金がないからスリを働く。つまり金を使うつもりだが、男性物の財布をただの少女が所有しているとリスクが高い。つまりどこかで財布だけを捨てるだろう。この辺りで人目が少ないのは…。


「あそこだ。」


目的地を定めて足を動かす。しばらくすると財布の中身を確認している先ほどの少女を発見する。音を出さないように近づいて、後ろから財布を取り上げる。


「…あっ!」


「…貴女がスリを働いたことは間違いないようですね。」


「…」


「…警察へきてもらいましょうか。」


「いや。」


「スリは立派な犯罪です。しかるべきところへ行かなくてはいけません。」


「あなたが黙ってればそれでいいんじゃない?」


「そういうわけには行きません。犯罪を起こした人間を現行犯で逮捕するのは市民の権利でもあります。それにこの財布には貴女の指紋がべったりとついているはずです。シラを切っても調べれば分かります。」


「あー、はいはい、わかりました。だけどね、ちょっと私の話を聞いてもらっていい?」


「…いいでしょう。」


夕飯の時間が遅れてしまうのは困るが、暴れられても面倒だ。納得してもらってから連れて行こう。そう考えて少女の話を聞くことにした。


「私、ロボットなの。」


「…」


「何?その反応。」


「いえ、何でも。続けてください。」


「あら、意外と驚かないのね。」


「いえ、これでも驚いているのですが。」


「まぁいいわ。それでちょっと研究をされてるんだけど、女の子の体をひん剥いてまさぐるってありえないと思わない?」


「いえ、でも貴女はロボットなのでしょう。」


「そうじゃないの、ロボットだろうが女は女。女性の体は簡単に触れていいものじゃないの、分かる?」


「はぁ…」


「ま、そんなこんなで研究所から逃げてきたって訳。だけど泊まる場所も無いからお金が必要なんだけど、それもないからちょっと拝借したのよ。これで分かった?」


「はぁ…」


「…分かってんのか分かって無いのかはっきりしない返事ね。」


「…まぁいいです。じゃあその研究所って言うのはどこなんですか。」


「帝住重工よ。」


帝住重工、この国でも屈指の財閥だ。確かに最新鋭の電子機器や軍需品の開発・製造を行っていると聞いたことがある。


「…じゃあそこへ行きましょう。」


「いや!あそこには戻らない。」


「ですが、犯罪を犯してしまった以上、貴女を作った人間に責任を取ってもらわないと。」


「だからあなたが黙ってればいいだけの話でしょ?ほら、お金も返すし。」


少女が財布を投げてくる。確かに中身は抜かれていないようだ。


「んじゃ、そういうことで。」


「…待ってください。」


「何?」


呼び止められてやや不機嫌そうな声色で返してくる。


「あなたがまた犯罪を犯したら困ります。泊まる場所でしたら私が提供しますのでついてきてください。」


「…変なことする気?」


「変なこと…あぁ…、そういったことはしないので大丈夫です。」


「どうだか。でも寝る場所を提供してくれるならいいわ。ついて行ってあげる。」


少女は彼の隣に並ぶ。


「と、そうだ。私研究所からこの服装のまま飛び出してきたからこの服じゃばれちゃうのよね。ちょっと途中で服かってくれない?」


「…途中で探し出されたらそのまま引き渡すつもりなんですが。」


「せめて1日くらい寝かせてよ。せっかくでられたんだから。」


「となると私は他社の所有物を所持してしまっているということになりますね。」


「あ!そうよ!私が『無理矢理連れて行かれました!』って言ったらあなたは誘拐とか窃盗の罪に問われるかも!」


「…それは困りますね。」


「そうでしょ?私を少しの間匿ってくれれば約束どおり自分から出て行くわ。」


「…わかりました。」


「じゃあ契約成立ね。」


こうしてロボットの少女が部屋に転がり込んでくることになった。途中で服やアクセサリーをねだられ、余計な出費がかさんだ。赤いガラスのはめ込まれたアクセサリーがいたく気に入ったらしく、露天商の前から動かなくなった時には参った。変装も済ませ部屋へ上げる。


「おじゃましまー…って何も無いじゃない。」


「ええ、生活に必要ありませんから。」


「あーあー、こんなんじゃ彼女できないわよ?」


「別に困っていませんので」


「あなたは本当に困ってなさそうだから腹立つわね。まぁいいわ。冷蔵庫の中見せて。」


「何故ですか。」


「ただ居候するっていうのもなんだし食事くらい作ってあげるって言ってんの。」


「そんなこと一言も。」


「あー!もう!そのくらい察しなさいよ!女の子が冷蔵庫見せてっていったら食事を作るって意味なの!わかる!?」


「はぁ…」


「わかったらあなたは風呂でも入ってきなさい。」


「いや、私は食事を先に済ませると決めt」


「いいから入ってきなさい。」


食い気味で迫られた。騒がれたら面倒なので従っておく。


湯船に浸かっていると台所の方向からどう考えても料理の時には聞こえないような破裂音や陶器の割れる音が聞こえてくる。


「…」


台所がどうなっているか想像したくない。早々に風呂から上がり台所に目を向けると、銀色なはずのシンクが黒くなっている。


「…」


「…あ、あはは。失敗失敗…。」


「はぁ…貴女は座っていてください。私が作りますので。」


「…はい。」


少女は素直にテーブルにつく。


「さて…」


残っている食材で何が作れるかを考える。


「あれなら…」


メニューが浮かんだのでそれを元に料理を始め、30分する頃には出来上がる。


「わぁー!おいしそう!」


少女が箸を持ち、食事を取ろうとする。


「待ってください。」


「な、何?」


「食事をする前には必ず感謝の言葉を口にします。」


「あ、はい。」


少女は彼がしているように手を合わせる。


「いただきます。」


「い、いただきます。」


彼が食事に手をつけたところを見て少女も手をつける。


「んー!おいしい!もしかしてシェフでもしてるの?」


「いえ、普通の会社員です。」


「これなら店出せるって!自信持ちなよ!最新鋭ロボットの私が保証してあげるって!」


「はぁ、ありがとうございます。」


2人で食べると食事が早く進む。初めて知った。食事も食べ終わり歯も磨き就寝の準備をする。


「何してるの?」


「寝る準備です。」


「えー!もっと遊ぼうよ!ゲームとか無いの!?」


「ありませんし、明日に響くので。」


「えー!やだやだ!何かしたい!」


「…ではトランプなんてどうですか。」


「やる!何かわからないけど!」


トランプを取り出してオーソドックスなババ抜きをする。ロボットという割には計算などはせず直感に任せるようだ。


「うむむ…どっちだ…。」


少女の手は1枚。こちらには2枚。つまり正解を引けば彼女の勝ちだ。


「こっち…いやこっちかも…」


悩んでいる姿は歳相応の少女にしか見えない。こんなに表情豊かなロボットを作ることが出来るのか。


「こっちだ!」


熟考の末少女は正解を引き当てた。


「やったー!勝ったー!」


「お見事です、さぁ寝ましょう。」


「なによー、もっと悔しがってくれたっていいじゃない。」


「いえ、そうでもないので。」


「こういう時は演技でも悔しがっておくものなの!ほらこーして!」


少女が彼の目尻を下げ口をへの字に変形させる。


「あはは!そうそうこうやって悔しそうな顔してうえーんって!」


「…」


「ほら!うえーん。」


「う、うえーん。」


「そうそう!あーすっきりした。じゃあ寝ようか。」


「はい、そうしましょう。」


こうして彼女との生活が始まった。家に帰ればにぎやかな彼女が待っている。テレビが無いと怒られわざわざ家電量販店でテレビを買った。メイクがしたいと言うので一緒に化粧品も買いに行った。何も物がなかった部屋に女物の雑貨が増えていく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「でね!最近はこういった芸人が流行ってるんだって!」


「そうなんですね、どんなことをするんですか?」


「えっとねー…って女の子にそんなことやらせないでよ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おかえり!今日は教えてもらった通り作ってみたよ!」


「ほう、前よりも上達してるみたいですね。」


「へっへーん、これでも最新鋭のロボットですから。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「きゃああああ!ちょっと!私が入ってるって分からないの!」


「す、すみません。まさか入っていると思わず…。」


「乙女が花を摘んでる時に入ってくるなんてマナー違反以前の問題よ!」


「以後気をつけます…。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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