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対魔王会議1

本日【3話目】です。

読む順番にお気を付けください。


 通行門で招待状に対し驚かれるなどといった反応はあったものの、どうにかこうにか海沿いの町までやってきた。

 この町はいわゆる港町というやつで、他大陸へ渡るための交易船や商船が行き交い、あらゆる種族の人々でごった返しているようだ。


 町の面積そのものはかなり大きく、アプリで地図を確認しても防波堤のような場所から城壁があるその場所まで、おおよそ数万人が暮らしていけるようにも思える。


 文明の発展レベルが中世時代のこの異世界で数万人の町といえば、かなりの大都市だ。

 それだけで海を渡った交易の中心となるこの場所に、国が重きを置いているということが分かる。


 ちなみにそんな広い町のど真ん中に貴族街のような上層階級の人間が暮らす区域があり、さらにその一歩外側に富裕層向けの商店街、そして面積的に大きく占める一般向けの交易街が最後に周りを囲っていた。


 俺が招待されている賢者アーガスの魔導対策部門とやらはこの交易街にあり、いくつか拠点として富裕層に一つ、貴族街に一つと支部のようなものがあるらしいけど、貰った地図にはその支部ではなく拠点と思える場所に印がつけられている。


 恐らく普段はここにいるぞ、という事なのだろう。


 とりあえず招待状を携え現地へと赴いてみると、そこにはシンプルだが金属的な質感の小さい城壁があり、この中世の時代では珍しい木造でも石造でもない研究所のような建物が佇んでいた。

 外観からして異質だ。

 たぶん場所はここで間違いない。


 よく見ると城壁には受付のような場所もセットで備え付けられているようなので、たぶんこの場所で招待状を渡すのだろう。

 迷わず直行する。


「すみません、賢者アーガスさんから招待を受けた者ですが」

「あら、こんにちは。何か証明となる物はありますか?」

「一応これがそうだと思うんですけど」


 受付の女性にアーガスから貰った物を見せる。

 この受付嬢さんは俺と紅葉が子供の見た目をしているのにも拘わらず、特に侮ったり動揺したりといった雰囲気がない。


 よほど訓練をされているのか、優秀なのか、もしくは事前に連絡が行っていたのかということになるが、……たぶん事前に連絡が行き届いていたんだろうな。

 あの抜け目のない賢者の事だ、自分で拠点に招待しておきながらまさか何の通達も無しなんてことがあるわけがない。


 これが権力や力だけの無能な者だったならまだしも、招待した相手が子供だった場合、どのような問題が起きるかなど普通に考えれば分かるからな。

 相手を不愉快にさせないためにも、報告連絡相談は必須だと思う。


「内容を確認致しました。既に賢者アーガス様から指示を受けていますので、お客様には魔導対策本部の対魔族研究室に案内させて頂きます」

「宜しくお願いします」


 研究所内部に案内されると変な魔物の剥製はくせいが飾ってあったり、魔法使い職と思われる研究者集団が謎の実験を繰り返すシーンに何度も出くわした。

 うわぁ、なんだこのヤバそうな場所。


 紅葉もこの空間の異様な雰囲気にちょっとビビっているみたいで、ここの人間の目から避けるように背中に隠れている。

 ぶっちゃけ俺も隠れたい。


「アーガス様、お話にあったケンジ殿をお連れ致しました」

「……ちょうどいい、話があるからとりあえず入れ。お前も案内ご苦労だった、業務に戻っていいぞ」

「はい、それでは失礼致します」


 数多くの謎施設を見せつけられた後、書庫のような場所に案内された。

 どうやらここが賢者の基本的な拠点のようで、棚に積まれた本からは一つ一つが貴重なものだと分かる装丁が施されている。


 本棚そのものも規模が大きく、その高さは一つあたり5メートル程の大きさに加え、同じような装いの空間が3階層まで続いているようだ。

 至る所に梯子はしごがかけられているが、まさかこの男の頭にはこれだけの知識全てが詰まっているのだろうか。


 いや、さすがにそれはないか。

 ただ概要は理解しているだろうし、どちらにせよ半端じゃないな。


「待っていたぞケンジ、意外と早く来たな。俺の予想では来るならば即刻訪れるし、来ないならば一年はかかると思っていたのだが」

「いやまあ、こちらにも色々特殊な事情があってね」


 修行して日本で企業買収するだけで2ヶ月程要しているので、確かに予想からは外れているだろう。

 この事を話す訳にはいかないが、さすがの賢者でも俺の素性までは明かせなかったようである。


「まあいい、とりあえず座れ。お前はともかく、そっちの天獣人の方はこの研究所の異質さに対して疲れが見えるからな」

「ぬぁー、ようやくまともな空間がやってきたのじゃ。なんなのじゃあやつらは、理解できん」


 紅葉は広大な空間とはいえ本棚があるだけのこの場所はギリギリ理解できるのか、安心した様子で近くのソファーに腰をかける。

 まあ俺も理解できなかったので、それは認める。


「それに関してはこの俺とて同意見だな。奴らは対魔族の研究のためケンジの言っていた竜素材の実験から始めているようだが、正直言って成功する見込みはない。ただ当てずっぽうに実験をしていても成果など得られる事はないだろう。研究に実験と検証は付き物だが、あの愚図共は如何せん計画性とそれに至るまでの理論構築が疎かだ」


 いや、紅葉はそこまで考えて言っていないと思うぞ。

 しかしあいつらが謎の実験をしていたのも、そもそもは俺が竜素材が儀式の材料になると伝えたのが原因だったとは……。


 俺の知らない所でかなりの影響を及ぼしていたようである。


「それでどうする。俺としてはお前に借りを返すためここに呼びつけた訳だが、お前から何か提案があるなら聞くぞ。もし何も無いようであれば、事前に用意してある企画を実行させてもらうことになるが」

「ああ、それならちょうどアーガスに聞いておきたい事があったんだよ」


 この男の考えた企画とやらにも興味はあるが、まずは百年後の未来で暗躍する魔王をどうにかするため、情報の収集を行わなければならない。

 そしてその結果如何によっては、もう一度この賢者アーガスに力を貸してもらう事となるだろう。


 なにせ相手は魔王。

 上位職よりもさらに強い力を持った正真正銘の化物が相手なのだから。




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