報酬
3日かけて妖怪をだいたい討滅した。
まだどこかに取りこぼしがいるかもしれないが、まあ誤差だろう。
別に俺だけに回って来た仕事でもないだろうし、きっとどこかで同じように妖怪退治している同業がいるはずだ。
陰陽師とか、超能力者とか、僧侶とかそういう奴らである。
そして九尾の影響により一時的に大繁殖した妖怪騒動が収まり、これくらいで仕事は完了かなって思った時にまた黒子お嬢さんが訪問してきた。
たぶん報酬金の受け渡しだろう。
「お邪魔します斎藤様。依頼の完遂、本当にありがとうございます。もうこちらの業界では斎藤様のお話で持ち切りでしたよ? 見知らぬ異能者が物凄いスピードで妖を退治して回ってるって、噂になってます。もう何回も斎藤様がどこの所属の異能者か、私の家にも問い合わせが殺到していたところです」
「え? は、はははは……。まあ、たまたま調子が良かっただけですよ」
どうやら同業者にはバッチリ見られていたようだ。
俺の方からは誰が同業者なのか全く分からなかったが、向こうは分かったらしい。
まあ確かに、聖剣や光弾は目立つからな……。
こう、ピカッと光るし。
「ふふふ、相変わらずご謙遜を。ですがやはり斎藤様に力を貸してもらったのは正解でした。私がお父様に斎藤様を紹介した手前、これだけの成果を収めてくれれば面目躍如というやつですね」
「それは良かった。大金を貰っている手前、何も出来なかったでは話になりませんからね」
どうやら500万円分の仕事はきっちりこなせていたらしい。
良かった良かった。
妖怪退治は思っていたよりも危険性は無かったし、力無き者であるならばともかく、今の俺のレベルでなら雑魚退治は余裕で受け持つことが出来そうだ。
もしかしたらまたこういう依頼でがっぽり稼げるかもしれないな。
こうなったら妖怪退治専門の斎藤事務所でも立ち上げるか?
……いや、調子に乗るのはやめておこう。
こういう業界で無理に活躍すると、昔からこういうので飯を食っている組織の既得権益とかを侵害し、面倒臭い事に巻き込まれかねない。
あくまで無難に、戸神家の依頼として任務をこなすのがいいだろう。
「それでこちらは報酬の500万なのですが……、その、申し訳ありません。砕牙お父様に斎藤様の活躍をお知らせして、数多くの同業たちからの目撃証言もあるので報酬の上乗せを進言したのですが、その……」
「ああ、それは別にいいですよ。恐らくお父様には既に契約は成ったから報酬に変更はない、みたいに言われてるんですよね?」
「はい、その通りです……」
まあ大手企業から下請けをするフリーランスなんて言うのは、どこもそんなものだ。
もし次に依頼を受けるのであれば今回の活躍は考慮されるだろうが、一度お互いが納得の上で契約を結んでしまった以上、その仕事ではいくら頑張っても頑張らなくても報酬は規定通りに支払われる。
まあ日本社会の基本だな。
「いえいえ、気にしないで下さい。俺は合計で1000万も受け取っている訳ですから、こう見えてわりの良い仕事だと思ってるんですよ」
「父の立場のために気を遣って頂きありがとうございます。本当に斎藤様はお優しいです、実家のこんなお恥ずかしい一面を見せても、快く受け入れて下さるとは……」
いや、気を遣ったわけじゃない。
実際に3日間町をぶらつくだけで1000万円の収入だぞ、普通に考えればボロ儲けだ。
このお嬢さんの中では1000万なんてはした金なのかもしれないが、ちょっと前までサラリーマンだった俺にとってはまごう事無き大金だ。
ここら辺、かなり金銭感覚の違いって奴が出てるな。
「また何か妖怪退治の依頼があれば承りますよ。ただちょっとまた、しばらく遠出することになるので次に連絡を取れるのは数週間後になるかもしれません」
「はい! その時は是非お力を貸してください! ……今度こそあの頑固な父を説き伏せて、相場の通りの報酬をお約束いたします」
お嬢さんは使命に燃えるかのようにフンスと気合を入れ、後ろに控えている黒服に「お爺様にご連絡を。お父様が話を受け入れないならば一騎打ちを申し込むと伝えてください」、とかいって殺気をみなぎらせていた。
なにこの子、怖い。
……しかしふむ、相場か。
相場通りの報酬っていくらなんだろうか。
期待に夢が広がり、広がり過ぎてニヤけそうになる。
慌ててニヤけそうになった口元を笑顔に軌道修正し、なんとか体裁を保つ。
「それでは斎藤様、今回は本当にありがとうございました。次回からは斎藤様のお力を見込んで『玉藻御前』関連の依頼が増えると思いますので、その時はお力を貸してください」
そう言って彼女は綺麗なお辞儀をして退室していった。
陰陽師としても本命である九尾の大妖怪、『玉藻御前』関連の依頼か……。
九尾がどれほど強いかは分からないが、おそらく一筋縄ではいかないだろう。
あの戸神源三の爺さんクラスを大昔に居た陰陽師と同じレベル、と仮定すると、あの爺さん数十人で一時的に九尾の隙を作るのが精一杯だったという事になる。
さらに本体である『玉藻御前』だけでなく、その娘である二尾から八尾までいるという事も分かっているため、どうも今のレベルで確実に依頼を成功させるビジョンが見えない。
もしかしたら多大な犠牲を出してなんとかできるかもしれないが、そうじゃないかもしれない以上、臆病なおっさんとしてはさらなる力を身に付けて確実に行きたいところだ。
と、言う訳でさっそくアプリを開き【ストーリーモード】を選択する。
既にアプリ内では時間を5年スキップさせており、魔族と戦いを繰り広げた森はほとぼりが冷めて元通りになっていた。
ふむ、これなら復活のタイミングとしては丁度良さそうだ。
俺はその後、周囲に人が居ないかをアプリで最終チェックをした後に、再び異世界へと降り立つのであった。