妖怪退治5
ひょんなことから衰弱した一尾を保護し異世界に追放する事になった俺は、とりあえずその日は解散という事で自宅に戻って来た。
弱っているのに俺から逃げ出そうと……、いや、陰陽師である戸神黒子に恐れを抱き逃げ出そうとする一尾だったが、さすがに力を失い過ぎていたのかもがいているうちに疲れ果てて寝てしまっている。
黒塗りの高級車の中でスヤスヤと丸まって眠る一尾は、どう見てもただの子供妖怪だ。
こいつがどんな悪さをいままでしてきたのかは戸神家のお嬢さんから聞いたが、やはりというか悪さの内容が小賢しく、そこまで悪行を働いたという印象は受けなかった。
曰く、幼い外見で相手を油断させ、人に近づくことで陰陽師などの妖怪を討滅する者達の動向を探り、九尾への内通者として動いていた。
曰く、姿を消し隠れるのが上手く、よく食料や宝を盗む事であらゆる地で被害を出していた。
曰く、逃げ足が速く討滅するのが困難であった。
などなど、大雑把に言うとそんなところだ。
正直俺から言わせてもらうと、やっぱこいつ九尾に良い様に使われてただけなんじゃないか、という感想しかない。
なんというか大した悪さをしてないし、自分の力で陰陽師などの異能者と戦う力が無いから内通したり、生きるために他人の食料を漁ったり、見つかったら逃げたりと小賢しいことこの上ないな。
こいつの一つ上の姉である二尾なんかは、普通に人間と戦い殺して奪っての戦闘狂らしいので、たぶん末っ子の一尾だけが特別弱かったんだろう。
やっぱりあの時殺さなくて良かった。
まあ実際に万全の状態で戦えば、九尾の娘としての血が流れる妖怪である以上、同じく万全の状態である黒子といい勝負は出来そうではあるが、俺にはこいつがそういう選択を取るとは思えない。
九尾一族の中で最も力が弱く戦いの危険性を理解しているこの一尾は、きっと俺と同じく『命を大事に』の方針で生きているはずだ。
そういう奴だからこそ戦える力があるのに戦わない。
人に紛れ生活した事で陰陽師がどれだけ脅威なのかも理解しているし、姉やその親である九尾すらも封じられる可能性を悟っていたこいつは、自分の力を『逃げる』、『隠れる』、『紛れる』に特化させた。
なんとも臆病な妖怪も居たものである。
余談だが、そんなしょうもない考察を車の中でする俺の横で、戸神黒子は今日の出来事を深く考えており、時折一尾をチラりと見ては溜息をつき、またチラりと見ては溜息をついていたりしていた。
たぶん妖怪退治を生業とするお嬢様である以上、大昔に悪さをしたと伝えられている大妖怪の娘に、この討滅のチャンスを逃がしていいのかを考えていたのだろう。
だがチラりと見れば気持ちよさそうに眠りこけているわ、またチラりと見ては鼻ちょうちんを出してニヤけているわで、討滅しなければという気がそがれているに違いない。
一尾の姉である妖怪や大妖怪である九尾なんかは残虐な性格らしいので、戸神お嬢さんも俺も手加減できないと思うが、こいつはちょっと特殊というか、例外だからなぁ……。
まあ、そう不安にならずとも俺がしっかり異世界へ送り付けるので心配はしないで欲しいものだ。
そんな訳で自宅に戻って来た俺は、さっそくこの一尾を次元収納すべくスマホを取り出した。
「おい、起きろ。収納するぞ」
「……んぁ。……やめてくだされ母様、紅葉に戦いは無理でするぅ。……むにゃ」
どうやら寝ぼけているらしい。
寝言の内容から察すると、九尾である玉藻御前の命令で戦いに出撃させられる夢のようだ。
社畜妖怪も大変だな、夢でもこき使われ働き詰めにされるとは。
まあぶっちゃけこいつが起きていようと、そうでなかろうと、次元収納する方針は変わらないのでこのまま収納してしまうことにした。
ちなみに収納はあっさりと成功した。
こう、スマホをかざして念じるとふわっと消えたよ、ふわっと。
「これで良し。さて、それじゃ本来期待されていた仕事の方にも着手しますかね」
前金として500万も貰っているので、さすがに妖怪退治をしない訳にもいかない。
どこに妖怪がいるかなんて知らないけど、まあ適当にほっつき歩いたら出るだろう。
移動中の車内で聞いた話だと、霊力が高い人間に妖怪は吸い寄せられるっていうし、たぶん俺がぶらぶらしてるだけで向こうからやってくるはずだ。
俺に霊力があるかは不明だが、たぶん魔力と同じようなものだろう。
魔力なら異世界でのレベル上げによりかなりの容量を保有しているので、きっと大丈夫。
「そんじゃ。コンビニでおにぎりを再調達するついでに、町をほっつき歩きますかね」
俺は軽く肩を回しながらコンビニに向かいつつ、すっかり日も暮れてあたりが暗くなり人通りが少なくなった路地裏や、よく心霊スポットとして注目される墓場や廃病院などをメインにほっつき歩く。
そしたら出るわ出るわ、浮遊霊のような半透明の人型や人魂のような火の玉、明らかに怨霊と思わしき実体を持った女の子の霊などなど。
選り取り見取りである。
しかもこんなにうじゃうじゃ出てくるというのに、霊力もしくは魔力の無い人間にはこいつらが見えていないのか、妖怪が真横を通り過ぎても一般人はちょっと寒気がしたくらいで気づいた様子がない。
俺にはくっきりと見えているんだが、……これが霊感という奴だろうか。
どうやら俺はレベルが上がって霊感のパラメーターまで上昇してしまったらしい。
もちろんこの雑魚妖怪たちは明らかに人を害すような感じがするし、現にトラックを運転中の人間に憑りついて居眠り運転状態にしたりと、悪さばかりしている。
当然見かけた妖怪は全て討滅した。
ある時は聖剣でサクッと両断し、またある時は光弾で遠距離討滅。
実体があろうとなかろうとおかまいなしにスキルは奴らを消し飛ばし、そして同時に魂魄使いのスキルにより魔力を強奪していく。
いくら戦っても魔力が衰える気配がない。
まさに無限ループだ。
そうして3日程かけ、夕方や夜の時間帯を中心に町を徘徊し討滅して回ったところ、ようやく目につく妖怪は全て討滅することが出来た。