妖怪退治3
戸神黒子に対し、一尾討滅にあたっての協力を半ば強引に約束させた俺は、今にも倒れそうだったお嬢さんを黒塗りの高級車に担ぎ込んで目的地へと向かった。
一尾がどんな妖怪かは知らないが、とりあえずまず戦うのは俺だけだ。
今のこの、力を使い果たし疲労困憊といった状態のお嬢さんを戦闘に参加させる気はない。
まあそうは言っても己の性分っていうのは人間中々変えられないもので、たぶん注意したところでこのお嬢さんは自分も戦おうとするだろう。
故にそうならないよう、なるべく迅速に妖怪をなんとかしなくてはならない。
頼りになるのは今まで培ってきた基本職で覚える事のできるスキルの力と、新たに加わった聖騎士の力。
そして今現在取得しようとしている新職業の力だ。
異世界の魔族戦で【戦士】と【神官】を融合させ誕生した複合職【聖騎士】だが、当然二つが一つになったという事は今俺のキャラクターが就いている職業は2つ、【聖騎士】と【錬金術師】だけだ。
故に職業枠にはあと一つの空きが生まれており、キャラクターメイキング画面のアプリを操作する事で、新たな力を得る事ができるようになった。
だが新戦力となる職業を目的地へと向かいながら色々調べてみたが、車の中でいくら画面と睨めっこしてもピンと来るものはない。
当然新しい職業に就いて基本スキルを自動で覚えれば今より強くはなるが、聖騎士の時のように複合職として昇華しそうな、緩い条件で転職の条件を満たす基本職が見当たらないのだ。
聖騎士は複合職として完成してしまっているので、必然的に錬金術師と相性の良い条件を探すわけだが、……これがまた錬金術師という職業はクセ者だった。
ただレベルを上げて融合させれば良かった聖騎士とは違い、錬金術師と合成させて生まれる複合職には、レベルだけでなく所持アイテムの有無や錬金経験の有無が影響するらしい。
キャラメイク画面の解説によると、錬金アイテムである体力回復ポーションと魔力回復ポーション、そして毒麻痺眠りに対となる解毒剤を用意し、暗殺者を融合素材にすることで複合職業【忍者】が生まれる。
当然ながらこれら全ては自力で錬金したものでなければ効果が無い。
何故かは分からない、それはアプリに聞いてくれ。
また超レア素材を集めて作られる賢者の石や、または超高位の魔導書の錬金経験があれば魔法系の職と融合させる事で、複合職【大魔導士】が生まれるようだ。
このように錬金術師はステップアップに経験やアイテムがモノを言う変わり種の職業なので、ただレベルを上げてはい融合、という訳にはいかないようなのである。
しかしせっかくレベルを上げたこの職業を今からリセットするには忍びないし、なんとか今後も活躍できそうな、尚且つ条件の緩い複合職の前提を探したところ唯一条件に引っかかるものを見つけた。
「……魂魄使い、か」
「何か言いましたか、斎藤様?」
「いや、なんでもないです」
つい口に出してしまったが、魂魄使いという基本職業がレベル次第では錬金術師とそのまま融合できるらしい。
ただ肝心の転職先である複合職の方だが、これは名前からして地雷の予感がしてならなかった。
なんと魂魄使いと錬金術師を融合して生まれる複合職の名前は、【悪魔】なのである。
まあ確かに悪魔と言えば人間の魂などを使役したり、または自分の都合の良いように弄ったりと伝承や伝説には事欠かない。
あくまでも魂をアイテムと見做す悪魔のそれは、錬金術師との融合っぽいと言えばそれっぽいが、職業として認識していいのかこれは。
まさか【悪魔】に転職しただけで何かしらのペナルティが発生するとか、そんな仕様はないよな?
どうにも不安だ……。
しかし他に代案もないので、俺は若干引き気味になりつつも仕方なく魂魄使いを選択する事にした。
魂魄使いの初期スキルは『魔力強奪』というらしい。
どうやらこのスキルは相手に触れたり、または傷を負わせたりすると相手の持っている魔力を奪い取る事ができるようだ。
奪った魔力はそのまま自分の物に出来るようなので、『聖剣招来』と組み合わせればダメージを与えれば与えるほど、無尽蔵に強くなる聖剣を作成できてしまう訳だ。
なんだこのスキル、あまりにも凶悪すぎるぞ。
まあ俺以外の異世界人はその仕様上職業を一つしか持てないため、本来この組み合わせが実現することは万に一つも無いし、そもそも魂魄使いに就くための修行方法も謎だ。
よしんば魂魄使いになったところで基礎パラメーターは低いわ、直接的な攻撃手段は無いわ、そもそも魔力を強奪させてくれる相手が居なければレベルが上がらないわで、大成する見込みが全くない。
それほどドマイナーな職業が俺にとっては強力な武器となり得るのも、ひとえに基本職業を無条件に取得でき3つも所持できるから、という所が大きいだろう。
だが、何はともあれこれで準備は整った。
あとは妖怪退治に挑んで問題を解決すればいいだけである。
「斎藤様、目的地が見えてきましたよ。あの祠が九尾の分け御霊である一尾が封印されている場所です」
戸神黒子が指さすその先には、狐の石像の前にお稲荷さんが置かれ祀られている祠があった。
ふむふむ、あそこがそうなのか……。
というか封印されているとは言うけど、俺には何にも感じないぞ。
妖怪と聞いて色々警戒していたが、異世界で魔族に出会った時のように違和感とか、瘴気っぽい何かとか、そういうのは一切感じられない。
むしろ祠の周囲に自然があり空気が美味しく感じられるくらいだ。
はて、どこにそんな強い妖怪が居るんだろうか?
全く以って謎だ。
夏休み突入企画として、7月27日に7話連続投稿を行います。
是非この夏に『異世界創造のすゝめ』を満喫していただけると幸いです。