妖怪退治2
前金500万を受け取った俺は早速ポケットに入っているスマホに札束をかざし、次元収納を行った。
既に次元収納に関しては喧嘩少年との試合で披露しているので、今更隠す事もない。
「それでは斎藤様、私も個人的に相手をしなければならない妖がいますので、周辺の妖退治の方はお任せします……」
「ええ、お任せください。この斎藤、精一杯期待に応えて見せますとも」
「ええ、宜しくお願いします……。では、私はこれで……」
「ん? おっと、大丈夫ですか?」
さすがに将来を期待されている陰陽師一家のお嬢様ともなると多忙を極めているようで、そう言って戸神黒子は立ち去ろうとするが、少し立ち上がった所で体から力が抜けたように膝をついてしまう。
立ち眩みだろうか……。
いや、それにしては顔色が悪いな。
というかこの感じ、どこかで見た事あるぞ。
えーっと、これはアレだ。
俺が会社で3連続で徹夜して、部下の宮川の失態を尻ぬぐいしていた時の症状に似ている。
簡単に言うと過労である。
「過労かな?」
「い、いえ。これくらいなんともありません。斎藤様のお手を煩わせる訳にはいきませんので、お気になさらず」
そういって彼女の肩を支える俺の手を退けようとするが、その手に籠っている力は余りに小さい。
確か彼女の実力は戦士レベル3だった頃の俺と互角のはずだ。
その地球人にしては圧倒的な実力を持つ戸神黒子の力が、まるで年相応の女の子のような見た目通りの力しか発揮できていない。
明らかに弱っているようだ。
さすがにここまで弱っているとなると、過労だけでは済まされないだろう。
力の使い過ぎか何かだろうか?
とりあえず回復魔法を試みる。
「仕事とはいえ、根を詰めすぎると妖怪退治どころではなくなりますよ。……痛いの痛いの飛んでいけぇ~」
「め、面目ありません。正直な話、治癒の異能は助かります。どうやらここ一週間で増えた妖を討滅するために、霊力を使い過ぎてしまったようです」
相変わらずセンスの無い呪文詠唱を終えると、多少ではあるが体力が回復したようだ。
しかし霊力の使い過ぎねぇ……。
俺には会った事もない妖怪の脅威なんて微塵も理解できていないが、それでも高校生くらいの女の子一人がここまでしないといけない理由なんてあるのだろうか。
もっとこう、高校生って自由に勉強して、部活して、遊んで青春を謳歌するものだろう。
戸神家という陰陽師一家に生を受けた以上、多少は厳しい修行や訓練で時間を持っていかれる事はあるかもしれないが、しかし何も命まで危険にさらす事はないと思うんだよね。
このままこの力無き少女が次の妖へと挑めば、想定している妖怪とやらが異世界での魔族や魔物のような危険性を持っていた場合、最悪の場合死に至る事だってあるはずだ。
正直、『命を大事に』が基本方針の臆病なおっさんとしては、このままこの少女を放っておきたくはない。
無理に彼女の抱えている問題に突っ込んで俺が死んでしまっては元も子もないが、幸い今の俺には異世界で手にした聖騎士の力が備わっている。
この非力な少女でも相手にできるような妖怪の、たかが一匹や二匹を俺が追加で相手にしたって、どうとでもなるだろう。
よし、実力的には大丈夫そうだし助けてやるか。
社畜として同じ経験を味った事のあるおっさんの、ただの気まぐれってやつだ。
「ふむ。それなら俺が戸神さんの代わりにその妖怪とやらを相手にしますよ。恐らくその辺の雑魚よりは強力な個体なんですよね? ここは俺の力、借りたくありませんか?」
「…………宜しいのですか?」
俺らしくないニヒルな笑みで決め顔を作り、半ば強制的に協力を申し出る。
まあ彼女がどう断ろうが、既に俺の気まぐれは方向性を決めてしまっているため、方針を変える事はありえないんだけどな。
宜しいも宜しくもないも無く、俺が決めた事を勝手に実行するだけだ。
「ははは、こういう時にこそ年長者の助けを借りるものなんですよ。社会を上手く渡っていくための秘訣です。処理しきれない仕事っていうのは、任せられる者に押し付けて生きるのが長生きするコツなんですよ」
俺はそれが出来ないから社畜だった訳だが、それはそれ、これはこれだ。
何もこの少女にまで同じ道を歩ませることは無いだろう。
すると突然、戸神黒子は笑いだした。
「ふ、ふふ、ふふふふ……。本当に斎藤様は面白い人ですね。サボるのが大切だなんて、そんな事を言う人には初めてお会いしました」
「はははははは」
「ふふふふふふ」
俺達は何が可笑しいのか笑い合う。
どうやら彼女の緊張もだいぶほぐれたようだ。
あまり責任を感じてなんでもかんでも背負ってしまうと、どうしても無理をして失敗する。
人間このくらい適当に生きて余裕を持った方が人生上手くいくんだよ。
ミゼットではないが、人生の教訓その1、である。
「それで、俺はどこに向かえば?」
「ええ、それでは今からご案内致します。相手は九尾の大妖怪の分け御霊、『玉藻御前』の娘である一尾の妖狐『紅葉』です。……一尾とはいえ相当の力を持っていますので、くれぐれもお気を付けください」
どうやら九尾の娘とかいう妖怪が相手だったようだ。
いや、どう考えても中ボスみたいな妖怪じゃんそれ。
そんな強敵相手にこの体調で挑もうとしていたのか?
大丈夫かこのお嬢さん、将来本当に過労死するんじゃないかと心配になる……。
一尾とはいえって言っているところを考慮すると、たぶん尻尾の数が増えれば増える程に九尾に近づき強くなるんだろうけど、それでも九尾そのものが大昔の陰陽師数十人で戦って、一時的に行動を阻害するのがやっとだった強敵だろ?
この状態で挑むとか、命を捨てに行くようなものだ。
……なんだか釈然としないが、まあようするにその一尾とやらをなんとかすればいいんだな。
よし、おっさん頑張っちゃうぞぉー。
そろそろ夏休み突入ということで、また七夕の時のように夏休みイベントを考えています。
7月なので7話を目安に連続投稿すつもりですが、企画として人気がありそうなら今後もやっていこうかなと考えております(; ・`д・´)
また、楽しんでいただけたら是非、評価や感想を頂けると励みになります。