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妖怪退治1


 龍神が世界を飛び回り何かしていたが、それはさておき次の目的地は紛争国家のある亜人弾圧地域に決まった。


 しかし【ストーリーモード】では肉体の復活地点は固定され、戦闘不能になった場所でしか蘇る事が出来ない。

 そのため俺は【スキップ】機能を使い時間を早回しして、魔族との戦いで集まった冒険者達が散るのを待つことにした。


 ほとぼりが冷めるまでに何か月、もしくは何年か必要かもしれないが、ストーリーモードが追加されて以降のスキップ機能は年単位での調整が可能らしく、項目に何年スキップしますかという表示が追加されていた。

 最初のあの何の説明もなく世界を創造させられたアプリとは思えない、実に親切な設計だ。


 俺はとりあえず1年だけ時間をスキップさせ様子を見る事にした。

 設定した1年間のスキップには凡そ1時間かかるらしいので、二度寝でもしてベッドで横になると、今度は部屋にチャイムの音が響き渡った。


 ……まさか会社の人間じゃないだろうな。

 社畜だった俺が急に有給を取ったんだし、部下の宮川あたりが訪問しに来てもおかしくはない。

 あいつは俺の家知ってるし。


 居留守がバレないようにそっと玄関まで赴き、扉に設置されているドアスコープを覗き込む。

 するとそこにいたのは、いつものように黒髪が美しい美少女A、もとい戸神黒子だった。

 どうやら会社関連ではなかったらしい、よかった。


 いや、良くないか。

 妖怪退治に誘いに来たと考えれば、会社の人間よりもヤバイかもしれん。


「突然失礼します斎藤様。戸神です」

「はいはい、今開けますよ」


 俺が扉を開けて戸神お嬢さんを出迎えると、何やら神妙な面持ちでボディガードの黒服を控えさせていた。

 明らかに何か問題を抱えてそうな表情だ。

 まさか本当に妖怪退治か?


 命の残機が無い現実のおっさんを戦いに巻き込むのはやめて欲しい。


「斎藤様、実は折り入って話があります。……斎藤様なら既にご存じかと思いますが、例の妖の件です」

「あ、ああ、はいはい。例の妖ですね。とりあえずここで立ち話もあれなので、中へどうぞ」


 例の妖ってなんだよ。

 斎藤様ならご存じかと、とか言っているが俺は何も知らないぞ。

 この前までただの一般人だった社畜に、何を求めているんだこのお嬢さんは……。


 この力が最近手に入ったものだとは知らないだろうという事を考慮に入れても、それがどうして例の妖とかいう存在に繋がるのか。

 何やら危険な臭いがぷんぷんするぜ……。


 しかしそんな危険な臭いがする中でもお客はお客、その上美少女となればなおさら玄関で棒立ちさせる訳にはいかない。

 とりあえずということで、黒服達を連れておっさんの狭いワンルームへと上がり込んだ戸神お嬢さんを案内して、ちゃぶ台の前に座らせた。


 あり得ないくらいの豪邸に住む戸神家のお嬢様にはこの部屋が物珍しく感じるのか、しきりに辺りをキョキョロしている。

 すまんな、これが独り身社会人の現実だ。


「……これは驚きました」

「いやはや、部屋が狭くて申し訳ないです」

「いえ、そうではありません。斎藤様のお部屋には防御結界も、妖から身を隠す隠蔽結界もありませんでしたので、ちょっと驚いてしまって……。てっきり普段から警戒は怠らないものとばかり……」


 いやいや、普通の部屋にそんなものある訳ないだろ。

 一体おっさんの部屋をなんだと思ってるんだ。

 まるで俺が妖に襲われるのが常識みたいに言わないでください、怖くて夜も眠れません。


 あ、もしかしてアレかな。

 式神が音信不通になったのはこの部屋に防御結界が張り巡らされていて、俺がその力を使って身を隠していたとか思っているのだろうか。


 完全な勘違いですよそれ。


「防御結界ですか……」

「あっ、もしかして! ふふふ、私分かっちゃいましたよ。その辺の妖くらい、対策せずとも斎藤様なら一撃、という事ですね?」


 あ、うん。

 まず妖と戦った事が無いんですよね。

 そこから説明してくれると俺は嬉しいんだけど、かといってここまで期待を寄せてくれるお嬢さんになんて言えばいいか分からない。


 ここに戸神家の爺さんやあの喧嘩少年がいてくれれば、「そんな訳あるか」くらい言ってくれるんだけどなぁ。

 肝心な時に居ないものだ。


 しかしよくよく考えてみれば、式神という未知の兵器を使う一族とはいえ、戦士レベル3の時の俺と互角のこの少女ですら対抗出来得る敵というのが、その妖とかいう謎の生命体だ。

 今の俺ならばもしかしなくとも、本当に一撃で退治できてしまうのでは。


 あれ、なんだか余裕だったりする?

 実は俺、レベルの無いこの世界ではめちゃくちゃ強いのでは。

 もちろんチンピラを相手にした想定ではなく、世界全体としてみてだ。


「ははは。まあ、その辺の妖だか妖怪だかには負けませんよ、ええ。こう見えて鍛えてますからね。妖とやらが現れたらこう、光の剣でサクッと真っ二つにしてやりますとも!」

「まあ! それは心強いです! それでは早速ですが、例の妖についてご説明させて頂きますね!」


 美少女の前で見栄を張り、条件反射で大口を叩いてしまった。

 あ、やべえこれどうしよう。

 この言い方だと俺が妖との戦いにノリノリみたいじゃないか。


 完全に墓穴を掘った。

 くっ、人を乗せるのが上手すぎるぞこのお嬢さん!

 あまりにも腹黒い、腹黒過ぎる!


 その輝く笑顔の裏に闇の人格を幻視してしまう!


「よ、宜しくお願いします。それで、その妖というのは……?」

「ええ、実は知っての通りここら一帯は太古から居を構える九尾の大妖怪、『玉藻御前』の縄張りではあるのですが、実は最近になってその九尾を封じる結界が弱まって来ているのです……」


 その後の話によると、大筋はこうだ。


 どうやら大昔にはこの周辺地域全体を縄張りにしていた『玉藻御前』とかいう狐の大妖怪が居て、大暴れしていたらしい。

 それを危惧した当時の陰陽師一家、目の前のお嬢様のご先祖である戸神一族がこの地の龍脈を利用し封印を行った。


 当時は優秀な陰陽師何十人規模で九尾を押さえつけ、動きを一時的に止めた所で人柱いけにえとなる陰陽師を封印の素材に使い、なんとかこの地の奥底に幽閉することが出来たのだという。


 しかし最近になってその封印に陰りが見え始め、徐々に九尾の力が漏れ出して来た事で妖怪が活性化しているらしい。

 だが封印を再度施そうにも相手の力があまりにも強大なため、一筋縄ではいかず難航しているのだとか。


 話をまとめると、だいたいこういう事のようだ。


「それで今日は封印のせいで活性化してしまった妖を討滅すべく、斎藤様のお力を借りに来た次第でございます。本当は一週間前にすぐにでもお力を貸して頂けたらと思ったのですが、なにぶん式神の反応が途切れてしまい見失ってしまったので……」


 戸神黒子は面目無さそうに言うが、それはまあ仕方がない事だろう。

 そもそもその時、俺はこの惑星には存在していなかった。

 たまに帰宅する事があってもそれは一時的なもので、すぐに【ストーリーモード】を再開していたため足取りを追うのは困難だっただろう。


 とはいえ、妖怪退治か……。

 一体どんな魔物かモンスターか知らないが、まあ漏れ出した力で活性化した雑魚が相手だというのなら、そんなに危険な事もないだろう。


 こっちには以前は無かった切り札の光弾や聖剣招来がある。

 まず負ける事はあるまい。

 ここはひとつ腕試しとして、この世界の妖怪の力を見極めてみるのも良いかもしれない。


 今までの人生では妖怪なんて一度もお目にかかった事はなかったが、万が一活性化して増えているとかいうその妖怪に一人で直面してしまった場合、手に負えない相手だったら詰むからな。

 こうして妖怪退治の専門家がついてくれている時に戦ってみるのも、逆に考えれば安全な方法だという事になる。


「いいでしょう。毎回とはいえませんが、報酬次第では引き受けるのもやぶさかではありません」

「もちろん報酬はお約束します。……前金として500万、成功報酬として500万という形でどうでしょうか?」

「…………」


 黒服が何事もないかのように、スッと500万をちゃぶ台に出してくる。


 ふむ、500万か……。

 え、500万!?


 驚いて黙りこくってしまった俺に何を勘違いしたのか、戸神家のお嬢さんはさらにとんでもないことを言い放つ。


「やはり、この程度の金額ではお気に召しませんか。だからあれほどお父様には報酬が少なすぎると進言していたのですが……。すみません斎藤様、いまの手持ちではこれだけしか用意できませんでした……」

「イエイエイエ、トンデモナイ! ゴヒャクマンデ、ケッコウデゴザイマス!」


 片言になった俺は戸神家に妖怪退治の報酬である前金500万を受け取り、あまりの金額に心臓をバクバク鳴らしながらも依頼を承諾した。

 あれ、もしかして妖怪退治ってめちゃくちゃ儲かる!?




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― 新着の感想 ―
> 封印のせいで活性化してしまった妖 封印が弱まったせいで活性化してしまった妖・・・かな?
[一言] 玉藻をペットにして欲しいwww 襟巻き良いよね( ´ ▽ ` )
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