女子高生の旅立ち1
昨日に引き続き更新( ³ω³ )
続けての更新なので、読み飛ばしにご注意下さい。
突然だが、彼女の名前は中島咲。
俺がアプリの候補者リストの中から選び出し、九尾一族の力を借りてリサーチした結果、もっとも今後の目的と相性が良いであろう人物の一人だ。
なぜ彼女を選んだのかとか、なぜ異世界への勧誘が必要だったのかとか、そういった諸々はミゼットにも説明したが、現代社会に馴染みのない彼女ではいまいち要領を得なかった。
なので一度ここでおさらいがてらに、この時間の止まった世界の中で質疑応答に応じようと思う。
九尾一族のリサーチによれば、彼女は異世界小説等の物語を好む現代っ子だ。
きっと中島さんからも色々聞きたい事があるだろう。
「そ、創造神っておじさん……。っていうか、異世界って?」
「信じられないかい? ちなみに異世界は異世界だよ。ちょっとウチの世界でトラブルが起きていてね。元々死ぬ運命だった君の命を救う代わりに、俺の使徒として向こうへ旅立ってもらいたいんだ」
まあ、驚くのも無理はない。
きっと彼女は異世界の意味も、俺が時間を止めた張本人であり創造神だという事も理解している。
だが人間分かっていても突然の事態に対応できない事があるからね。
それがこんな突拍子もない事ならなおさらだろう。
ちなみに死ぬ運命だったというのは真実だ。
アプリの説明によると、候補者は全てこの世に未練がないか、もしくは死ぬ運命にありこの世との縁が極めて薄くなっている者に絞られているらしい。
どこでどう死ぬかまでは分からなかったが、候補者に選ばれていた彼女も近いうちに死の運命が待ち受けていたという訳だ。
よって、俺はリサーチしながらも常にその動向を九尾一族と共に見張っていて、いつでも時間を止めて助けられる体制を整えていたという訳である。
決してストーカーではない。
なにせ見張っていたのは主に九尾一族で、紅葉が超絶感知能力で危機を知らせるまで俺は別の作業をしていたし。
そして俺がそう伝えると、彼女はしばらく熟考しおもむろに質問を返した。
さあ、向こうも冷静になったことだろうし、ここからが交渉の本番だ。
「し、死ぬ運命っておじさん! じゃなかった、神様? あーもうメンドイからおじ神でいいや。確かにおじ神が時間を止めてなかったら即死だったけどさ! いきなり、はいこの世からおさらばーって言われてもこまるっちゅーの! っていうか、それ脅迫じゃない?」
「お、おじ神……」
おじ神ってなんだ。
地味にショックを受けつつも彼女の言い分を聞いてみると、なるほど確かにこの状況は脅迫かもしれない。
彼女からすれば、命を助けてやったから言う事を聞け、さもなければ殺すといっているかのように聞こえるんだろう。
まあ、普通ならそう受け取る。
だが待って欲しい、俺は確かに命を救ったとも言ったし、死の運命だったとも語った。
しかし一度たりとも異世界行きを拒否してはいけないとも言っていないし、拒否してからといってその後すぐに殺すとも言っていない。
そしてそれは彼女もこちらの反応から薄々勘付いていることだろう。
では、なぜ彼女がそう言っているのか?
そう、実はこれ、向こうも向こうで交渉の席についていることを既に自覚しているからだ。
なにせ彼女の好きなモノと言えば、密偵として最高峰の種族である九尾一族のリサーチの結果、ネット小説と判明している。
俺も少し彼女の読んでいる小説をかじってみたが、そこから導き出される今後の展開といえば……。
「分かる? 脅迫だよ脅迫。私そういうのは良くないと思うんよね~。お願いするからには対等であるべきだよ。だからさ、異世界に行くにしても、すごい力とか? スキルみたいなのが欲しい訳なんだけど……?」
俺のことを創造神だと理解しているからなのか、自分の言っている事のふてぶてしさを十分に理解しているからなのか、それでも一世一代の大勝負とばかりに勇気を出してこちらをチラ見してくる中島さん。
この時点でお分かりかもしれないが、既に彼女の中では異世界行きは決定事項で、どうにかして俺から譲歩を引きだし、有利な条件を取り付けようとしているのだ。
なんとも可愛らしい、幼い交渉テクニックだ。
魑魅魍魎渦巻く社会の波にもまれたおっさんとしては、実に微笑ましい。
その後、あぁ、この流れ彼女の読んでいるネット小説にあったなあ、なんて思いつつも、予想通りの返答に俺は笑みを浮かべつつも口を開いた。
「ふむ、ふむ。確かにお嬢さんの言う通りだ、交渉は対等でなくてはならないね。ではこうしよう。君にこちらのお願いを聞いてもらう為の対価として、神ポイント、略してGPを分け与える。このボーナスポイントの許す限りに、君は自由に力を取得してもいいし、君の言うスキルとやらを取得してもいいよ」
「────っしゃぁあ!!」
俺が事前に用意していた回答を返すと、中島さんは女子高生にあるまじき雄叫びを上げて歓喜した。
嬉しいのは分かるけど、はしたないからミニスカで大ジャンプするのはやめなさいって。
パンツ見えてるよ。
ところで新機能となるこのGPだが、これはアプリが救世主として用意したアバターに搭載されているステータス編集機能の、その初期ポイントだ。
俺や俺の創った世界の人間達と比べ、救世主たる彼女のアバターには職業という概念がない。
いや、あるにはあるのだが、それは『ステータスエディター』という強力なスキルに一括りにされており、ポイント次第で自分の職業もスキルも能力も、自由に編集可能らしいのだ。
なんというチート能力。
こりゃ創造神もびっくりである。
よって、ステータスエディターの所有者である彼女は初期ポイントが事前に用意されており、そこから鍛錬や様々な経験によってポイントを獲得し、自己強化を重ねていくことになるだろう。
まあ、初期値はかなり弱いらしいから、救世主といっても助っ人がいないと途中でポックリ死んでしまうこともあるんだけどね。
どうやら救世主アバターは死んだらそれまでのようで、創造神アバターと違って現地での復活は二度とできなみたいだし。
だが、どう考えても無限の可能性を秘めた能力である。
「あっ! 大事なこと聞くの忘れてた」
「何かな?」
「異世界でのおじ神の目的って何?」
「ああ、それはね。ウチの世界で大暴れしているとある魔神をぶっ飛ばしてきて欲しいんだよ。俺が直接出向くのが本来は筋なんだろうけど、神様にも神様の事情というものがあってね……」
ちなみに、その神様の事情とやらは俺が未だに異世界へログインできない事に帰結する。
どうやらアプリは創造神の保護のためにプロテクトをかけているようで、俺の使徒であるミゼットや紅葉を含め、異世界へ渡ることが現状では不可能となっているようだった。
できる事といえば、次元収納を利用して彼女とセットで向こうに転送するくらいだ。
ここらへんがクソアプデたる所以の一つなのだが、まあそれは今はいい。
大事なのはその事に彼女が納得するかどうかだ。
「あ~。なるほどね。知ってる知ってる。それってアレでしょ、神様は自分の世界に干渉できないとかっていう、そういうルールでしょ?」
「まあ、だいたいそんな感じだね。で、異世界へは渡ってくれるのかな? それに心配しなくても、君が向こうでの使命をしっかり果たしてくれれば、再びこちらの世界に戻して無事に高校生活を送れるようにしてあげよう」
というより、向こうで死んだらこっちに強制排出されるらしいから、目的を達成してもアバターが倒されても結局元の高校生に戻ってしまうんだけどね。
向こうで培った力がどうなるのかは分からないけど、命に別状はない。
ただ、この情報を与えてしまうと彼女の真剣味が薄れてしまうかもしれないので伏せておく。
俺としても向こうに送り込んだ人間が頑張ってくれないと困る訳だし。
「にししっ! この中島咲、了解しましたであります! おじ神! いつでもオッケーよ!」
「ふっ、交渉成立だね。それでは、君を俺の、……いや、新たな異世界へと誘うとしよう」
そう言うと、俺は魔神の影響によって世界の法則が融合した新・異世界へと彼女を招待した。
始まりの地は、俺ですらまだその大地を踏んだ事はないもう一つの異世界。
一度は崩壊寸前にまで追い込まれた、かの他世界だ。
……さあて、それでは彼女の活躍をアプリの外から眺めさせていただきましょうかね。
それと、彼女を支援する助っ人も呼ばなくてはならないだろう。




