そして始まるクソアプデ2
意識が戻ると、俺は五体満足で異世界喫茶の手前で尻もちをついていた。
どうやら無事強制ログアウトは成功したみたいだが、最後のジーンの行動は一体何だったのだろうか。
「そ、そうだ! 皆はどうなった!? あれから世界は!?」
急いでアプリを起動し、皆の安否とログを確認する。
そこで分かったのが、まず強制ログアウトに伴って眷属化した紅葉とミゼットは次元収納内部に避難させられていたという事。
そして、そうではないシーエとデウスに関してはあの場にそのまま取り残されたということだった。
「なんてこった……。そうだ、ログを見せてくれ!ログ!」
緊急事態故に、最低限救出しなくてはならなかったシーエとデウスを置き去りにしてしまった事に呆然自失としつつも、そういってばかりは居られないと現状を確認する。
するとそこには信じられない事が証拠として書かれていた。
【緊急報告。魔神が魔族による二世界の統一を宣言しました。魔神が創造神の奇跡たるマナの一部を解析しました。魔神の異常行動に気付いた龍神がそれに抵抗し、その場に居た分身を一撃で撃破。本体は無傷です。魔神が解析したマナの力を行使し、他世界とあなたの世界をダンジョンを通じて連結させました。これにより、他世界へとマナの流出が始まります。終焉の亜神があなたにコンタクトを取ろうとしています】
整理しきれない程の情報がとめどなく流れ出し、ログとして更新されていく。
いまこうしている間にもアプリ世界は高速で時間が進んでいるらしく、スキップ機能程ではないにしても、かなりの時間差が生まれているようだ。
しかも自身のアバターで再度ログインを実行しようにも、『現在このアバターは使用不可能です』という文面のみで、全く異世界に転移できる気配がない。
なぜジーンがこういう事をしたのか、二世界の統一なんていう行為に何の意味があるのか、今の俺には全く分からない。
そもそも、元からジーンのやつには謎が多かったが、世界の統一や支配欲等と言った目先の利益に左右されるような人格ではなかったはずだ。
なのになぜ、いつでも俺を害せるタイミングがありつつもそれを実行せず、今になってこういう行動を起こしたのだろうか。
分からない。
何もかもが分からない。
しかし、ただ一つ言えることがある。
「あいつ、最後にあんな顔しやがって……。無理して笑ってんじゃねぇよ……」
最後に見たジーンの含み笑い。
あれはまるで、最後には親に叱られるのが分かっているかのような、それでも意思を押し通した子供のような、そんな顔だった。
そんなあいつがここまでの事を無理やり実行したんだ。
そこに何の意味もないなんて、そんな訳がない事だけははっきり分かる。
だが、そうはいってもこの後どうすれば……。
弱気になりかけた時、突如として俺の頭上から狐耳の影が差した。
「うむ。婿殿じゃないか。どうしたんだこんなところで座り込んで。さては何かしくじったか? ……はは~ん。その顔は図星じゃろ?」
「た、玉藻御前……」
現れた九尾の土地神、玉藻御前はしたり顔でにやにやしつつも、俺が何かを言おうとする前に頭をぐりぐりと撫で始める。
「よい、よい。今のお前の顔を見れば、言わずとも分かるわ。余がどれだけの間、娘達の親をやっていると思っている。千年じゃぞ、千年。舐めるでないわ」
「…………」
玉藻はそういうと、道端に座り込む俺の隣でどかりと胡坐をかき、「あ~」とか「う~」とかいいながら自らの頭をガシガシと掻く。
「あ~、そうだな。まず先に言っておくが、余はお前に借りがある。これは分かるな? いや、分からずとも良い。そうなのだという事にしろ」
「お、おう」
「でだ、だからこそこうしてお前の為になる、ありがた~い助言を言わせてもらうがのう……。斎藤健二よ、お前はもう少し自らの失敗を信じろ」
は、はぁ?
何を言っているんだこのお狐様は。
失敗を信じてどうする。
それこそ大失敗じゃないか。
「あ、お前いま余の事を駄狐だと思ったじゃろ? そうじゃろ? おおん?」
「お、思ってないから。って、そうじゃない。結局、つまり何なんだ?」
ええい、ちょくちょく煽ってくるな……。
今の俺は落ち込んで気が立っているんだ。
いい加減な事を言うなら尻尾揉むぞ、いいのか?
おおん?
「うむ、それならば良い。つまり何が言いたいかというとだな。お前が失敗したと感じている何かは、そもそも失敗などではありはしないと言う事だ。おおかた、自分が目をかけていた者の行動が理解できずに悩んでいるのだろう? なぜ理解できないのか? ……それはな。お前が失敗したからではなく、お前の想像を超える程に、その者が大きく育った成長の証だからだ」
「…………っ」
言われた事について確かに思い当たる部分があると考えた瞬間、玉藻は口角をニヤリと釣りあげて笑った。
「そうじゃ、お前の想像通り、この例えは余と末娘である紅葉の関係に似ておるのう? あのバカ娘は常に余には計り知れない行動を取り、あらぬ方向へと進んでいく。だが、それは果たして失敗なのか? ……否、断じて否じゃよ。これこそが我が子の可能性、これこそが未来じゃ。であれば、何を躊躇う必要がある?」
そうだ、確かにその通りだ。
俺は一体何を心配していたんだ。
ジーンが俺を害するわけがないと知っていながら、俺などでは足元にも及ばない可能性を秘めたすごい奴だと認めていながら、何であいつの先行きを心配して落ち込んでいるんだ。
明らかに矛盾しているじゃないか。
俺は最初から、自分自身の失敗と創り出した者達の成功を信じてやるべきだったのだ。
「気づいたようだな。フン、手間を掛けさせおって。こんなこと、元々お前が理解していた事ではないか」
「そうだな、確かにそうだ」
ジーンの思惑がなんであれ関係ない。
あいつを信じるからこそ、俺は俺のやるべきことをやればいいだけだったのだから。
そこまで理解すると、玉藻は「もう大丈夫なようだな」とだけ言い、よっこいせと立ち上がった。
「何、これからまた何か面白い事をしでかすのだろう? であれば、余が協力してやらんこともない。まあ、……お前が望むであれば、じゃがな?」
そう言って俺の頭をもう一度撫でまわす。
だが確かに、お前の借りは返してもらったぞ。
次回、そして始まるクソアプデ3。
謎の女子高生登場!
唐突なクソアプデよって明らかになる新たなアバターの使用者とは!?
お楽しみに!




