そして始まるクソアプデ1
お久しぶりです。
大変長らくお待たせしました。
再開します。
他世界における力の頂点、龍の亜神たる彼が放ったブレスはこちらの世界の支配者、魔神ジーンの腕の一振りによって掻き消された。
正直、これが亜神対亜神の戦いを初めて見る俺としては、次元が違いすぎて何が起こっているのかはよく把握できていない。
この戦いはもはや、地球における九尾といった亜神の中でも下級に分類されるであろう力の無い亜神によるのものではなく、正真正銘世界のトップ同士がぶつかり合う頂上決戦だからだ。
だが理解できないまでもこうして冷静でいられるのは、いざとなれば創造神の力で時を止めて逃げ出す事ができ、なにより見た感じジーンが余裕を崩さないことから優勢であることが窺えるから、という点に尽きる。
「どうかな、少しは参考になったかい? そこのガキンチョ」
「ぐ、ぐぬぬぬ……。フ、フン! や、やるじゃない」
「はははは! 素直で宜しい。まあ君も亜神の領域には達した様子ではあるから、いずれこのくらいの事はできるようになるさ」
創造神の神殿で覚醒を果たし、天族という英雄を超えた種族、そして守護神という亜神級の職業を得たことで強化されたミゼットですら、今のジーンの行いには度肝を抜かれたらしい。
もしかしたらジーンがブレスのキャンセルに失敗していても、防御力に特化しているミゼットのスキルで致命傷は避けられたかもしれないが、それでも腕の一振りで無効化するのは予想以上の事だったのだろう。
「まあ、そんな事は実はどうでもいいんだ。それで今の戦いを見てどうだい我が親友よ。これは勝負になると思うかい?」
「ふむ……」
頼れる魔神の親友、こちらの陣営における最強の存在である龍神が冷静に敵を分析する。
彼は実力差故にいまだ呆けたまま微動だにしない敵勢力に向けてチラリと一瞥すると、顎をさすりながら結果を口にした。
「結論を先に言うなら、勝負にはなりませんでしょう。私か、もしくは友である魔神、どちらかが前に出れば長くとも二分で決着します。また、そうでなくとも、我が軍勢である龍族と竜族、そして彼の軍勢である魔族だけで十分。両軍が本領を発揮すればそれだけで負けはしないかと。何よりここには我が父おります故、考察するだけ無駄ですね」
と、彼は考察を零す。
最後に俺がいるから考えるまでもない、という絶対の信頼が過信じゃないかなという事を除けば、もはや決着したも同然なのだという事だけは理解できた。
そしてそれは向こうも理解しているようで、今まさに実力差を見せつけられた他世界の軍勢は見るからに意気消沈し、可哀そうなぐらいに戦意を失っていた。
恐らくだが、先ほどの不意打ちが彼らにとって最強の攻撃だったのだろう。
「や、やっべえなこっちの世界の魔神はよぉ。つくづく敵に回さなくて良かったぜ……。これじゃあ無駄死にだ」
全く以ってその通りである。
彼がいかに最強の人間、勇者リオンであるとはいえ、相手が悪い。
「ううん、これはもう戦争にはならないな」
「そうだね我が父よ。僕もそう思うよ。まあ尤も、彼らも僕らに勝とうだなんて最初から思ってはいなかっただろうけど。ある程度接戦に持ち込んだら、こちらの譲歩を引き出して父の世界である神界へと渡りをつけるつもりだったんだろうから」
それは以前にも聞いたが、確かに向こうの創造神である何者かに渡りをつけるのであれば、最低限の武力を見せつけて交渉に持ち込むのが筋というものだろう。
そうでなければ、弱みを見せた瞬間にこちらの対応次第では世界ごと支配下に置かれかねないから。
だが悲惨な事に、既に戦いの結果は出てしまった。
向こうの最強の攻撃は無に帰し、こちらの戦力は龍神か魔神が出れば二分で決着する。
そういう最悪なケースでだ。
これはこれで、どう譲歩したものか悩むな。
俺としては彼らの創造神の捜索を手伝うつもりでいたのだが、こうして自分達の世界を侵略された以上、腹が煮えくり返る思いをしている魔族、龍族、竜族だっているはずだ。
彼らの憤りは当然のものであり、いざ負けそうになったから泣き寝入りなど言語道断と考えていてもおかしくはない。
そう、おかしくはないのだ。
だが────。
「だが、悪いけどここは俺の我儘を通させてもらうぞジーン。そして龍神。彼らの事情を考えた時、責任を取るべきなのはどうあっても創造神であって、その世界の者達ではないからだ。少なくとも今回の件はな」
そう、今回の責任を取らなくてはならないのは創造神だ。
どいつが責任放棄してこんな事態まで傍観を決め込んだのかは知らないが、どんな理由があれそいつが全部悪い。
俺だって地球がそろそろ崩壊するけど、みたいな事を言われたら自分の世界に避難するよ。
そしてそれは彼らだって同じだ。
自分の世界が終わらないよう、余裕のある世界に立ち寄っただけに過ぎない。
「ふむ。父がそう言うのであれば文句などあろうはずもございません。この場における最高位の存在であり、なにより話には理が通っている。むしろ必要とあれば、私が彼らに話をつけてきましょう」
そう言って龍神は一つ頷くと、やれやれこれだからお人よしは、とでも言いたげなジーンを差し置いて彼の軍勢へと飛び立った。
急に動きだした龍神に向こうもざわついているようだが、話の内容を聞いたら納得してくれるだろう。
と、そう思ったタイミングでスマホがピロピロと鳴り出した。
おっと、これはまさか────。
【おめでとうございます! この時代における決定的な問題を解決した事で、『創造の破綻』をまた一つ回避しました! これにより、『ストーリーモード・チャプター3』を終了します。お疲れ様でした、続いて────】
お、やっぱりそれか。
ということは、龍神のやつが上手く交渉をまとめたんだな。
しかしそう安心したところで、ログには新たな文面が追加で流れ始めた。
【────続いて、緊急事態発生。緊急事態発生。『ストーリーモード・チャプター3』の終了と同時に、魔神ジーンの異常行動を検知しました。創造の破綻を回避したことにより安定した世界のマナを解析されはじめています。緊急事態の発生により、創造神であるあなたの保護を優先するために、眷属と共に強制ログアウトを実行します。開始まで10秒、9秒、8秒…………】
「な、なに……?」
な、なにが起きているんだ?
ジーンの異常行動?
マナの解析?
いったい、何が起こって…………。
「おや、どうしたんだい我が父よ?」
────ふふ。
────ちょっと、顔色が悪いんじゃないかな。
その言葉を皮切りに、俺の意識はアプリの力によって強制転移させられた。
という訳で、新章突入します。
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