力の差
不定期ですが、更新再開します(`・ω・´)
「なんかすごいのが近づいてくるぞえ? 儂、あんな大きな生き物を見るのは初めてかもしれん」
しばらくジーンとの再会や、ようやく初対面となる龍神と作戦会議、もといのほほんとしたディスカッションを取っていると、いち早く紅葉が異変に勘付いた。
どうやら、ようやく今回の騒動の肝となる敵さんのお出ましのようだ。
龍山脈から見える遠方の地平線からは、一目で異常だと分かる巨大な龍にまたがった軍勢が近づいて来るのが見える。
おそらく向こうの世界の龍神が本性を現し、初手から全力を出し切って決戦に持ち込むつもりなのだろう。
まあ亜神としての実力はこちらの方が上だという事だから、そりゃあそうするだろうな。
戦闘における様子見っていうのは、余裕のある強者が余裕のない弱者に対して行う揺さぶりだから、弱者である彼らは不意打ち気味に攻め入るくらいじゃないとダメなのだ。
全て筒抜け気味に気づかれているっぽいから意味はなかったけども。
「そろそろ始まるようだな」
「うん、そうだね~。僕が大事に育てているこの世界に土足で介入したのは気に入らないけど、……まあ事情は分かるよ。軽く揉んであげるから、我が父も親友も、そう心配はしなくていいから」
俺の感想はともかくとして、ジーンは龍神が懸念している事を察しているのか、彼の意を汲んでやり過ぎない事を先に宣言した。
どうやら魔神となり世界に反逆した今でも、かつて友であったという龍神を気遣う心が摩耗することなく存在しているようだった。
今はまだこいつがなぜ世界に反逆したのかを知る由もないが、こうして理性的なところを鑑みるに、恨み辛みとはまた別の、何か個人的な理由がありそうだなと感じる。
ちなみに、やり過ぎないようにしたいと思っているのは俺も同じだが、ぶっちゃけた話、こと匙加減に関してはジーンを全面的に信用している。
なぜならば、ジーンは優秀だから。
分野別でみるなら、特定分野においてぶっちぎりの最優秀と言ってもいい。
そんなこいつが意味もなく自軍の者達が不快に感じるような、不利益になるような対応を取ることはないと確信しているのだ。
確かに俺は甘いが、これは甘さ故の判断ではないと言う訳である。
俺の創造した異世界の約半分を支配する悪の亜神、魔神ジーンという存在を高く評価しているからこそだと知ってもらいたい。
すると、考察している俺を余所に突如として紅葉の尻尾の毛が逆立つ。
再び何かを察知したようだ。
「あ、あわわわわ……」
「どうした紅葉?」
「あわ、あわわわわ……。ぬ、ぬあーーー!!」
俺の問いに返答する事もなく、代わりにオロオロとしながら敵勢力に向けて指をさし、ついでに動揺が振り切れて奇声を上げた。
どうしたどうした。
緊張のしすぎでおかしくなったか?
と、思ったがどうやらそういう訳でもないようだ。
今や紅葉は逆立っていた毛も萎れ、十尾の尻尾を丸めて俺の背中に抱き着いている。
どうやらそこが一番安全かもしれないと思っているらしい。
何事かよく分からなかったので、レベルの上昇に伴ってあり得ない程に良くなった目を凝らしてみると、他世界の龍神が大口を開けてこちらを威嚇している姿が────いや、これは!!
「あれは……、ブレスか!?」
「そうだね~」
いや、そうだねじゃないだろ!?
確かに力はこちらが上かもしれんが、さすがに龍神レベルの存在から全力のブレスを放たれるのはまずい!
紅葉ではないが、これは動揺するって!
下手したら龍山脈の一角ごと消し飛び、地図が書き換わる威力じゃないか!
極めて単純な不意打ちではあるが、同時に極めて有効な手段だ。
しかし冷や汗を流す俺を余所に、ジーンはおもむろに腕を正面にかざし魔法陣を出現させる。
なんだ、その魔法陣で防御するのか?
だ、大丈夫なのか?
この場における最高責任者として、無駄な努力と知りながらも最低限焦る素振りを見せないよう、努めて冷静にジーンのやる事を見守る。
「いいかい我が父よ。ドラゴンブレスというのはいわば魔力の収束だ。それに指向性を持たせて前方へ直進させているに過ぎない。故にそれは魔法ですらなく、過程はともかくとして、放たれる直前のブレスにはドラゴンの意思や技術が介在しない、脆弱な魔力の集まりでしかないんだよ」
そうか……。
いや、だとすると、つまりどういう事なんだ?
さっぱり分からんな。
「規模が大きいだけで、そもそも魔力に指向性を持たせるだけなら、そこのガミガミと小煩い元ガキンチョが父と出会った頃にも既に出来ていた事さ。そんな初歩の初歩たる、赤子にも出来そうな拙い攻撃がこの『魔力の支配者』たる僕に通用すると思うかい? 答えは、否だ。……魔神にはね、ドラゴンブレスとか魔法とかいうのは効果が無いんだ」
ジーンは魔法陣をグルグルと操作しながら、恐らく俺が初めて出会った時のミゼット、八歳の時に覚えていた魔法の事について言及する。
あの時は確かにミゼットも魔力について慣れ始めて、前衛系の職業でありながらも回復魔法の切っ掛けをつかんでいた。
だが、その時とはジーンも言っていた通り規模が違う。
原理が同じだったとしても、魔神だからという理由だけで解決するような話なのだろうか。
しかし次の瞬間、俺の常識は崩れ否応なしに理解する事になる。
ログや生命創造の解説で知っていた教科書通りの知識などではなく、真に世界ランキングNo.2の持つ、魔神ジーンの実力を。
「うん、ようやく放って来たね。なかなか彼のブレスが完成しないから、あくびが出るところだったよ……。【魔力掌握】」
「なにっ!?」
遠方の空でこちらへ向けて放たれたブレスは、一瞬だけ眩く光ったと理解した瞬間、まるで力を失ったように四散し輝きを失っていった。
そう、ドラゴンの口に収束していた光の奔流が、その場で解体されて世界へと散り散りになっていくのである。
なんだこれは。
いや、一番なんだこれは、と思っているのは向こうだろうけど。
いや、なんだこれは。
「簡単なことさ。他世界の未熟な龍神が収束させた魔力を、僕がその場で拡散させただけ。魔力掌握とは言ったけど、やってる事はただの魔力操作だね。その操作力の次元が、魔の神である僕と龍の神である他世界の彼らとでは実力が違っただけ。あと、ここが僕らのホームグランド、出身世界であることも大きく影響しているかなぁ」
ジーンはそう軽く宣い、魔法陣を操作していた手をふりふりと振った。




