決戦の地へ2
龍神からの迎えである高位古代竜の背に乗り、どうせだからという事でミゼットやシーエ、勇者ら全員で龍山脈へと向かう。
さすが空の覇者であるドラゴンなだけはありそのスピードはやはり圧倒的で、現代の飛行機もかくやと言わんばかりの速度で大海原を進み続ける。
「おお、やっぱりこちらの世界でもドラゴンってのは物凄い力を持っているんだな。それに、俺の世界でもこれだけ立派なドラゴンはそうそう居なかったぜ」
なにやら勇者が感動したような声を上げているが、もしかしたら向こうの世界でドラゴンの背に乗って世界を移動していたのかもしれない。
まあ地球産のゲームでも勇者の移動手段といえばドラゴンなので、向こうの世界を作った地球人がそういうストーリーを設定していてもおかしくはないだろう。
そうしてしばらく竜の背でゆっくりしていると、ついに目的地である魔大陸、その周辺を取り囲むようにして広がる龍山脈が見えて来たのであった。
スマホの世界地図で確認したところによると、どうやら向こうで龍神と魔神ジーンが俺達を待ってくれているようだ。
「お、見えて来たぞ~」
「ずいぶんトゲトゲした山じゃなぁ。富士山より大きいしのう」
紅葉の感想の通り、龍山脈はかなり刺々しい。
傾斜が凄まじくほとんど崖といった有様で平地が少なく、この世界の人間基準でも登山など出来そうもない程だ。
もちろん職業レベルを上げ鍛えた人間は別だけどもね。
そもそも彼らはもう人間の規格には収まってないし。
「到着しました、我が父よ。そして龍神様、無事お役目を果たしました事、ここにご報告致します」
「ふむ、ご苦労。与えた仕事としては申し分のない結果です。あなたに頼んで正解でした」
「はっ! 有難きお言葉……!」
龍山脈の頂上に到達すると、そこにはまだ直接出会った事のない長身の美男子、龍神と思わしき男が出迎えてくれた。
一応アプリの機能で姿を確認しているので彼が何者かは分かるのだが、こうしてみると貫禄が凄い。
もはや俺なんかが創造神やっていて良いのか、君がやった方がよくない?
と思わせるほどの有能オーラが立っているだけで伝わって来る。
まさに格の違う存在を目の当たりにした気分だ。
「あ、あぁぁあああ!? あんた! 私に稽古をつけた謎の竜人族じゃない! 久しぶりね、あの時は助かったわ!」
「おや、そういう貴女は一千年と少し前あたりに、父から目をかけられ育てられていた少女ではないですか。ずいぶんと大きな成長を遂げられたようで何よりです。しかし、それにしてもあの時の少女がよもやこれ程まで……。やはり父の慧眼には恐れ入ります。矮小な私などには計り知れない」
いや、買い被りだから。
その成長の殆どは使徒になったことによるものだから。
全てはアプリの力であって俺の功績はあんまりないから。
そう言いたいのは山々なのだが、どうにも納得してくれそうな雰囲気ではないのでこのまま放置しておくことにする。
しかし、それにしてもミゼットと龍神が知り合いだったとは驚きだな。
旅の合間に聞いた話では、賢者アーガスと共に魔王討伐へと向かっている俺を追いかけている時、圧倒的な力を持つ謎の竜人に稽古をつけてもらったと聞いていたが、まさかその正体が龍神だったとは驚きだ。
九尾戦の時も妙に対亜神との戦闘に慣れていると思っていたが、こういう理由があったのか。
そりゃあ亜神の中でも最強を欲しいままにする龍神と模擬戦をずっとやっていたのであれば、格下である九尾くらい相手にできるよな……。
色々と納得が行った。
「あはははは! 相変わらず騒がしいね君は。力は確かに強くなったみたいだけど、精神の方は一千年前にあった時とそう変わっていないみたいだ。がっかりだよ」
「な、なんですってぇ!? ジーンあんた、私に喧嘩を売ってるの!? 言っとくけど、昔の私だと思ったら大間違いよ。今度こそぶっとばしてやるわ」
「ぷぷっ、むりむり。やめておきなよ~」
そしてタイミングを見計らったもう一つの超越存在、魔神ジーンが龍神とミゼットの間に割って入る。
わざとらしくガッカリした表情を見せて肩をすくめたり、色々な角度から煽ったりしているのは昔と相変わらずのようだ。
たぶん本人はからかい半分、忠告半分でミゼットの心配をしてくれているのだろうけど、あまりにもノリが軽すぎるためにその真意が伝わる様子は微塵もない。
だが心配しないでくれジーン。
ミゼットの精神年齢が一千年前から成長していないのは事実だけど、それは当然の事だから。
だってその一千年は空白の期間であり、俺達は時間をアプリの機能で跳躍してきただけだからな。
当然その事を知らないジーンに理解しろっていうのも無理な話ではあるが、まあそういうタネがある訳だから心配は無用である。
「よう、久しいなジーン。なんか他世界からの侵略者が騒いでるから解決しに来たぞ。後ろにいるのは今回の協力者達だ」
「うん、久しぶり! 我が父も相変わらずのようだね。…………だけど、後ろの奴らの事はちょっと気に入らないね。ねぇ、覗き魔クン?」
「…………っ!!」
ジーンがそう言うと、勇者リオンは息を飲み目を見開いた。
「まさかこの僕に、君の術がバレていないとでも思っていたのかい? 甘いね」
「俺の時空望遠鏡が、バレていたのか……」
「当然だよ。もちろん僕だけじゃなくて、僕の親友である龍神にも君の術は感知されている。……正直転移で飛び回れたら追いかけるの面倒だし、最後に殺そうかと思っていたんだけどね。まあ、父に寝返ったのは正解だよ。そうじゃなきゃ、その内この僕が君の事を殺していた」
ジーンは底冷えするような眼差しで勇者リオンを見つめ、そう断言する。
それにしても凄い冷や汗だな。
それ程までに、勇者リオンとジーンの間には隔絶した実力差があると言う事なのだろうけど。
色々と穏やかではないが、まあ要約すると見逃してやるってことらしいので、心配いらないと思うぞ。
なんだかんだジーンは俺の事を気に入っているみたいだし、たぶん俺にとって不利益となる行動を敵でもないやつに対してとる事はないだろうから。
たぶん今言っていたように、純粋に状況を覗かれていたのに対して気に入らないって言ってるだけだと思うんだよね。
なにはともあれ、そんなちょっとした珍事もありながらこの世界の防衛戦力は龍山脈に集結したのであった。




