閑話 勇者リオン・バスタード
※世界のシステムごとに勇者の成り立ちが変わります。
突然だが、俺はリオン・バスタード。
人類の希望だ。
この世界の創造神とは別物だが、こちらの世界もまたとある神の手によって生み出された世界の一つで、その世界にて聖剣の担い手として勇者をやっている。
何も自分で人類の希望だのなんだのと大層な事を思っている訳ではない。
単純に聖剣に選ばれると言う事が、その力を持つ者にそれだけの責任と期待が寄せられているというだけの話。
そもそも俺の生まれは小さな村の農民の子だし、聖剣に認められたという切っ掛けがなければ剣の才能があるだけの一般人でしかなかった訳だ。
だが幸か不幸か、俺は八歳の子供全員に与えられる儀式にて、神殿が保管する聖剣を抜く事に成功しこの力を手に入れてしまった。
そこからは怒涛の展開で、聖剣に認められた事が理由であれよあれよという間に王都から実力のある騎士が派遣され、力を使いこなす訓練漬けの日々が始まったのだ。
俺自身が王都に向かうのではなく、村に教育係が派遣される事に多少の疑問を持ったものの、どうやらこれが一般的なやり方らしい。
当時は八歳だった俺には何の事かよくわからなかったが、あとで聞いた話によると、過去にそうやって無理に引き離した事が原因で成長した勇者が大暴れしたらしく、以後このような事が無いようにとやり方を変えたとかなんとか。
……まあ、その事は今どうでもいい。
話が逸れたが、とにかくそういった経緯で俺は人類の希望とやらを一手に背負う事になったのだ。
「だというのによ、何だこの体たらくは。世界のマナ枯渇が危機的状況にあるって言うから奴らの誘いに乗ったが、まさかこんな事になるなんてよ。少し考えれば分かる事じゃないのか。質の悪い亜神の甘言に誑かされちまうなんて、俺もヤキが回ったか……。すまねぇ、みんな……」
あまりの自分の不甲斐なさに、今ここにはいない向こうの世界の仲間に謝罪の念を送る。
もっと慎重になるべきだったと、もっと仲間に相談するべきだったと思っても、もう遅い。
時空を操るという勇者の能力を利用して軍を引き連れこの世界に転移を成功させたのは、他ならぬこの俺だ。
俺さえ踏みとどまっていれば、この世界にあんなやばい亜神達が暴れるような状況を作る事も、またこの世界の亜神や創造神に睨まれる事もなかった。
後悔してもしきれない。
だがそう思うならば、それこそ今からでも俺は自分自身の力であいつらを止めなければならない。
「せめてもの救いは、未だ俺がこの聖剣に見放されてはいない、ってことだな……」
このような失敗をした俺に未だ付き従う聖剣を一瞥し、その柄を強く握る。
かつて創造神が勇者足りえるものを選別するために創り出したというこの聖剣が認めているのであれば、まだやりようが残されているという事だ。
まだ俺に力が残されているのならば、立ち上がれる。
今度こそ失敗はしない。
「つっても、まず根本的な解決のためには創造神を探さなくちゃならないんだけどな。……既に龍神と破壊神がこっちの亜神に喧嘩を売ってるから向こうさんも勘付いているだろうけど、それがこちらの世界全体の意思ではない事を伝えなくちゃならねぇ」
目星はついている。
なにせ魔神の奴がたった今起こしているだろう創造神の炙り出しを俺が知らない訳がないからだ。
一時は手を組んで協力しあった者同士、お互いの情報は筒抜けという訳だな。
故に俺がどう行動するかも向こうにはバレている事になるのだが、そこは能力特性の相性でカバー可能な範囲だ。
何を隠そう勇者の特性は時空。
この世界の亜神から身を隠す拠点が時空魔法で創造可能な事と同じように、ただ隠れて魔神の後を付けて回るだけなら絶対にバレない自信がある。
魔神側が俺の行動する方向性を分かっていたとしても、存在そのものが認識出来ている訳ではない。
「よって、問題はどちらが先に創造神を探し出すかという一点に尽きるが、……どうやらこの勝負は俺の勝ちだったようだな」
時空魔法で空間の位相をズラし、姿を隠蔽しながらもアーバレストとグンゲルというこの世界の国同士のぶつかり合いを見ていた俺は異変に気付いた。
魔神とグンゲルの奴らは気付いていないみたいだが、明らかにそれぞれの持つ戦闘力に比べ、戦局の流れがおかしい箇所が存在している。
こういった戦いに通ずる事象は勇者たる俺の領分だ、見間違えるハズがない。
一見すると自然に戦っているように見えるが、とある二人の戦士がお互いの兵士が傷つかないように立ち回り、尚且つ目立たないように戦っている姿が確認できた。
何者かは知らないが、恐らく創造神に紐づいた何者かと見て間違いないだろう。
なにせ自国が勝つように誘導するだけならまだしも、お互いが拮抗するように、なるべく被害を出さないように調整する必要なんて普通の人間にはやる理由がないからな。
幸い、魔神の奴はまだこの事に気付いていない。
まあ、あいつは魔法の事と悪知恵に関しては一級品だが、間違っても戦争のプロじゃない。
戦いに明け暮れた人間である、俺との差が出たといったところだろう。
「さて、見つけたからにはさっそく接触させてもらうとしようか。あんたらが創造神なのか、はたまた別の亜神かは分からないが、お目当てである事には変わらないんでな」
そう意思決定をすると、俺は時空魔法により歪を作り出してその二人だけを隔離する空間の作成に入った。
魔神にバレないように動いている手前この作業にも神経を使うが、まあ万が一にもバレる心配はないだろう。
あの世界では、この特性に関して俺の右に出る者はいないからな。
「さあ、話をつけさせてもらうぜ! 時空結界、発動! ……ん? ……何だ、今妙な感覚が」
そして完成した魔法が発動すると、そこには目的の男女二人と、何やら獣人の姿をしたヘンテココンビのおまけがついてきたのであった。
いや、どうしてそうなった!?
時空の勇者ですらも見破れない紅葉の隠形。
隠れる事にかけてはワールドクラスを越えてマルチバースクラス。
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