戦争3
【※】作者の都合により、来週:月・木の更新はお休みしますm(__)m
野営地を発ってからしばらく。
その日の昼頃にはついにアーバレスト対グンゲルとの戦争が始まった。
元々小競り合いから始まったこの戦争だが、小国相手に連敗を喫しているからか、はたまた今回は勝てる見込みがあるからなのか、もはや小競り合いとは呼べない程の規模となって軍同士が衝突しあっている。
そして、当然その中には俺達も居る。
予定通り俺はEX職業の力を封じつつも、向かってくる敵兵をかいくぐりグンゲルの将を目指しているという訳だ。
だがさすがにこの乱戦の中、自分の命を守る事に関しては最優秀賞を取れる紅葉はともかく、シーエを一人にする訳にはいかない。
いくらデウスの支援があったとしても、彼女の基本的な戦闘能力はこの世界における中級の冒険者に毛が生えた程度であるからだ。
かといって向こうの世界事情に詳しいシーエを神殿に置き去りにするのも得策とは言えない。
故に戦争が始まればあまり出しゃばった事はせず、紅葉と一緒に隠れながらついてこいと言っているのだが……。
「これが力」
「確かにすごいのじゃ。デウスの力で人が蹴鞠のように飛んでいくのじゃ。あっぱれじゃのう」
「当然。でも、あなたも凄い。こんなに暴れているのに誰にも見つかっていない」
「つまり、儂らは凄いってことかえ?」
「そう」
隠形を発動している紅葉の力によって姿が見える事は無いが、後方から聞こえてくる気が抜けるような会話にずっこけそうになる。
というかこのポンコツコンビ、俺の話聞いてないだろ!
今デウスが吹っ飛ばした歴戦の戦士っぽいのを見て「イェー!」とかいってハイタッチする音が聞こえたぞ!
俺が伝えた作戦はこいつらの脳内でどう変換されているのだろうか。
俺は確かに、『目立つな』と伝えたはずだが……。
もしかして姿が目立たなければ行動が目立った事にはならないと思っているのか!?
おぉん!?
「ケンジ、この際あのバカ二人は放っておくほうが良いわ。私達が気に掛ければ、それだけバカ達が敵に認識されるもの。まあ、最悪デウスとモミジの奴がいれば死ぬような事にはならないでしょ」
「はぁ……。分かった、確かにその通りだ。その方向でいこう」
幸いな事に、まだこの不可視の襲撃によって誰一人として死んでいない事から、向こうもそれ程の脅威とは捉えていない。
謎の攻撃を警戒はしているようだが、まあまだ許容範囲内だろう。
仕方ない、俺達は俺達でやる事をやるしかないなこれは。
そんな感じで後方から聞こえる賑やかなポンコツコンビの会話を聞きながらも、周囲の動きにあわせてぐんぐんと進軍を進める。
さすがに俺やミゼット、そして紅葉の力で不可視となったデウスの影響力が大きいのか、はたまた進軍中に討伐した暗殺者達の計画が失敗したからか、向こうもこちらを攻め切れていないようだ。
この調子なら予定通りEX職業の力を使わずに敵幹部級と接触を図る事ができるだろう。
◇
斎藤健二がこの戦争を順調に攻略している中、戦いを上空から眺めていた魔神は訝し気に呟く。
「……おかしいね。実におかしいよ、これは。暗殺者共の作戦が失敗した時からその兆候はあったけど、この唐突な戦局の傾きは変だ。あたしの想定であればアーバレストの大敗とまではいかなくとも、ここまで一方的にこちらが抑え込まれる展開にはらないはず……」
そう、なぜなら向こうの戦力とこちらの戦力を比較した時に、例え暗殺が失敗した事を踏まえてもアーバレストが上回る事は無いはずであったからだ。
戦争において重要となるのは何も数だけではない。
魔法を極める事で個々の力が何よりも真価を発揮する世界において、自世界から連れて来た強力な駒を計算に入れて考えればこの展開になるのはつじつまが合わないのだ。
もし魔神が用意した駒ですら力が及ばない猛者が敵陣に存在しているというのであれば、それは少なくともこの世界で重要な役割を担う者だったり、例えば創造神の手の者だったりしなければならない。
いや、むしろ創造神そのものが手を下していても不思議ではない。
魔神自ら、そう仕向けるように仕掛けたのだから。
「だけど、アーバレストの中にはそれほど目立った動きをする存在はいない。確かに頭一つ二つ抜けた強者は以前と比べて多いし、その中でもさらに優秀な対応を見せる奴らもいる。だが、それらと比較したとしても、創造神の手先か、もしくは創造神そのものだと判断できるレベルの強さには到底達していないんだ……」
だからこそ、つじつまが合わない。
もちろん、創造神に紐づいた者ではなくとも、強者は存在する。
今回がその稀有なケースにひっかかり、アーバレスト陣営に勝利を齎そうとしているという可能性ももちろんあるだろう。
だが、それは楽観視が過ぎるというもの。
そんなほいほいと、強すぎず弱すぎずといった都合の良い戦士が割り込んでいる可能性を鵜呑みにするほど、魔神は能天気ではなかった。
「こちらの思惑に既に気づかれていた……、と、言う事なんだろうね。果たして誰がどのような情報を齎してこうなったのかは分からないけど、やってくれたものだよ。確実に同郷の者の手が裏で糸を引いているね」
魔神はそう考えるが、それもあながち間違いではないだろう。
その同郷の者の手、つまりシーエがきっかけで斎藤健二がここまで見通すことができたのは言うまでもない事なのだから。
ただし最低限付け加えるなら、裏で糸を引くというにはほど遠いちょっとした情報提供でしかなかった、という点だろうか。
「まあ、でも。最悪釣れた創造神を見つけるまでいかなくともいいよ。あたしの役目は時間稼ぎも兼ねているし、この騒ぎで創造神の時間を縛ることができているなら、それもまたよし。……だけど、このあたしが出し抜かれたのは気にくわないから、出来れば何か意趣返しでもしたいところだね」
とにもかくにも、そういった事情をこの戦局から読み取った魔神はさらに表情を険しいものとし、戦争に混ざっているであろう何者かを探す為、より目を凝らすことにしたのであった。
ついにケンジによってポンコツ認定されてしまうポンコツ……( ´-ω- )フゥ




