戦争2
「それでは、彼らには最前線の部隊で敵国グンゲルと交戦してもらうという事で構わないな?」
「それが宜しいでしょう。模擬戦での戦闘力を鑑みても、生きて敵将の首を取って帰る事くらいはできるかと存じます」
現在、王や周りの重鎮たちが会議をしている中、俺は特に口挟まずにその様子を眺めていた。
ミゼットなんかはときおり会議の参加者へ指摘をしそうになってはいたのだが、それは俺が止めさせている。
なぜならこの会議の内容はほとんど事前に話し合った内容の最終確認であり、そのすり合わせである所が大きく作戦の良し悪しは関係ないからだ。
満場一致で賛成する事により責任の押し付け合いが発生しないようにするための、貴族的な政治パフォーマンスといっても問題ないだろう。
故にここをこうした方がいいとか、ああした方がいいというのは、たとえそれが正論であっても余計なお世話になってしまう訳である。
だからこの作戦会議には俺達も参加はするが、どちらかというと彼ら重鎮が決定してきた作戦の説明会みたいな気持ちで聞かなければならないだろう。
「ええ、俺達も構いませんよ。それでは最前線の一般兵に紛れて敵陣に突撃させていただきます」
もとよりそのつもりであったから問題ない。
ただ、彼らには言っていないがそのまま指示に従うつもりもない。
最初から俺の目的は敵将の首を取る事ではなく、この戦争を止めて侵略者達の野望を挫く事だ。
であればアーバレスト対グンゲルのどちらが勝つかというのはさほど重要ではなく、この戦争の指揮を執っている者を突き止めて説得、もしくは殺害をして問題を解決しなければならない。
目印ならある。
それはシーエがしていたのと同じ首輪をしている者こそが、この世界ではなく他世界からの侵略者という事になるからだ。
なにせこの首輪は魔道具で、通信機能の役割を持っているようだからね。
それをこの世界の者に渡そうとする事はないだろう。
そんなこんなで作戦会議はつつがなく終了し、さっそく俺たちは部隊へと配属される事になった。
◇
そしてさらに数日後。
あらゆる準備を終えた俺は最前線行きの騎士や兵士たちがごった返す部隊へと配属され、移動が始まった。
既に向こうの国と接するギリギリのところまで進軍してきており、現在は国境付近の野営地で明日に備えて休憩を取っているところだ。
周りを見返せばフル装備の冒険者や傭兵、兵士や騎士がごった返しているが、基本的には統率が取れているようである。
まあ冒険者はともかく、傭兵や兵士に関しては戦場というのは日常のものだと思うし、命令系統が騎士のお偉いさんであるというところは理解しているのだろう。
俺達も今はそんなお偉いさんの一味として参加している訳ではあるが、新米設定という事で結構周りからはフレンドリーに接してもらえている。
「おう! 騎士のあんちゃん、昨日はお手柄だったな! それに、あんちゃんのところの獣人奴隷がまさかあそこまで有能だとはなぁ……。どうだ、俺に金貨二百枚くらいで譲る気はないか?」
「無理だな。金貨二百枚では何のつり合いも取れていないよ」
「ガハハハハ! まあ、言ってみただけだ。譲ってもらえるとは思っちゃいねぇよ。それに俺はソロの方がやりやすい」
と、こんな風に半分ジョークを交えて交流したりするほどだ。
ちなみにこの声を掛けて来た奴はソロ傭兵のジョブスという大男で、怪力に任せた大剣の一撃で今まで様々な武功を上げて来たのだとか。
ただ本人曰く武功だのなんだのはどうでもよく、単に生きるために傭兵稼業は稼ぎが良いからと始めたら、気づいたら強くなりこんな最前線のヤバイ所まで来てしまったとかなんとか言っている。
熊のような厳つい見た目にはそぐわず、結構気の良い奴なので移動中はよく会話する仲だ。
ちなみに俺のお手柄というのは、先日の野営中に襲ってきたグンゲル兵の斥候、もとい暗殺者を俺が返り討ちにした事について話しているのだろう。
どこから情報が漏れたのかは分からないが、やはりこちらの進軍を知っていたグンゲルから刺客が送られてきており、結構な数の手練れが辺りに潜んでいたのだ。
まあ手練れとはいっても所詮は人間。
ビビリ妖怪こと感知最強の紅葉が余裕で存在を看破し、それを俺とミゼットが瞬殺したことによって事なきを得た。
またその際にシーエが妙に張り切ってしまい、デウスを召喚して無双していたのも大きいだろう。
召喚というか、そのまんま融合しているデウスに敵の討滅をお願いしているだけみたいだったが。
本人が召喚だと言って譲らないのでそう言う事にしておこう。
そしてそれを見た周りの反応はというと、シーエが謎の精霊を使役して暗殺者を屠っているように見えたのだと言う。
使役しているのはメタリックな姿の謎の精霊だが、この犬獣人の奴隷はそんな希少な精霊を使役できるほどのすごい奴、という認識で広まってしまったようだ。
故に一目置かれ、ジョブスも俺に冗談半分で譲ってくれないかと言い出したという訳である。
これに関しては俺が強力な傭兵であるジョブスの提案を拒否する事で、周りにも手を出すんじゃないぞと牽制させるという狙いがあったのだろう。
意外と面倒見の良い奴だ。
「もしかして、儂、お手柄?」
「ああ、よくやったぞ紅葉。追加のおにぎりをやろう」
「ぬへへ……」
おにぎりを貰えてニヤけている紅葉をわしわしと撫でる。
まあ地球の亜神である九尾の感知すらも潜り抜けるこいつが居れば、向こうの世界の魔神の目を欺きつつ警戒する事など造作もないだろう。
当面は安心である。
それよりも問題は……。
「むふー。ワタシは終焉の精霊を身に宿す高貴なるシーエ。やればできる子」
「おういいぞ犬の嬢ちゃん!」
「あんたは天才だー!」
「……うむ、もっと褒めるがいい。もう一度言う。ワタシは高貴なるシーエ、やればできる子」
などとのたまい、野営地の中心で壇上に乗り上げながら謎の演説を繰り返しているシーエである。
いったい何がしたいのか分からないが、すごく満足そうに、しかもクソ真面目に自分がやれば出来る子である事をアピールしているので、止めるに止められない。
いったいこの子は何を目指しているんだろうか……。
謎は深まるばかりである。




