戦争1
小手調べと称した模擬戦を終えた俺達が王城へと招待されたその翌日。
さっそく作戦会議に呼ばれ、王やその他戦争に関わる重鎮らと会談する事となった。
どうやら表向きの肩書は新米の騎士団員としながらも、本質的には戦争に投入できる最大級の戦力である国賓として招かれているらしい。
実力を見たいと言っていた騎士団長さんもその事については異存は無いらしく、むしろこれだけの力を持つ傭兵が味方になってくれるのであれば心強いと言っていた。
余談だが、彼らの俺達への戦力評価は、一人あたり近衛騎士100人分程と見積もっているらしい。
近衛騎士がベテランの正規騎士5人くらいの力を持っているらしいので、騎士換算だと500人だ。
計算された時の基準がミゼットの力によるものであったため俺の力は未知数なのだが、そのミゼット本人が本気を出した俺は自分でも手がつけられないと宣言してしまったため、俺も同等の存在として扱われることになった。
それと、当然ながら紅葉とシーエは戦力外として計算している。
だが正直、あの場でのミゼットはまだ実力の半分も出していなかったので、本来の力を発揮すればその倍以上の戦力である事は堅いだろう。
まあ、これ以上の力をチラつかせるのは藪蛇になるので言わないけども。
ただ、そろそろ14歳の誕生日を迎えつつあるこの少女の強さに対し、なぜその年齢でここまでの強さを手に入れたのかという懸念は未だ持っているようではある。
まあその気持ちは分からなくも無いが、そもそも職業レベルという概念でいくらでも強くなれるこの世界であるからこそ、俺と様々な強敵との冒険を繰り広げて来たミゼットの戦闘力を年齢で図る事はできないという訳だ。
如何せん討伐してきたのが魔王とか、終焉の亜神が世界樹のエネルギーを吸って生み出した迷宮の魔物達だったりとか、リプレイモードとか、インフレもほどほどにしろと言わんばかりの強敵達だったからね。
そりゃあ強くなりますって。
「それにしてもケンジも過保護ね。いくらシーエが奴隷と認識されているからといって、何も神殿に隔離までする事なかったのに。私に任せてくれれば、あの子に手を出す輩くらいすぐにぶっ殺せるわよ?」
「いや、ぶっ殺しちゃダメだから。そういう余計な騒動を招かないためにこうしてるのに」
そう、俺は招かれた当日に奴隷の扱いを懸念してシーエを隔離したのだ。
国賓として招かれた俺達にはそれぞれに個室が与えられているため、シーエにすらそれに準じて部屋が割り与えられている。
当然その事は招かれた詳細な理由までは知らずとも、奴隷が泊っている部屋があると言う情報は王城の者にある程度の情報共有はされているはずだ。
故に何かを勘違いして手荒な真似をする者がいないとも限らないので、万が一の事を考慮して隔離したという訳である。
それ以外にもあの首輪の情報がどこかから漏れて、敵国からの刺客がやってこないとも限らないからね。
用心に越した事はない。
「まったく、相変わらず過保護なんだから。あんたもそう思うでしょ紅葉」
「んぁ? 儂はおにぎりの男の好きにすればいいと思うけども? でも、妖怪心理的には敵だと思ったらすぐに逃げるべきじゃから、やっぱりこれが正解かも? 戦うのは怖いし?」
「あんたに聞いた私が間違っていたわ」
敵がいれば倒せばいいというミゼットと、敵がいるから逃げればいいと思う紅葉ではどうやら意見が合わなかったようだ。
ぶっちゃけ両極端すぎてどちらが正しいとも言えないところがこの二人らしい所である。
ちなみにシーエは既に俺達の輪に加わり、ちょっとづつ覚えてきた言葉に無言で相槌を打っている。
さすがに自分で優秀なホムンクルスと言い張るだけはあり、記憶力は恐ろしく高く頭の回転もかなり速い。
既にちょっとした会話なら問題なくこなせるくらいだ。
すると今までの話を聞いて思うところがあったのか、ずっと黙っていたシーエがすっと挙手して発言する。
それもやけに自信満々の顔で。
……何かあったのだろうか?
「ワタシほどのエージェントがこの国の暗殺者に後れを取るような事はありえない。しかし、協力者であるケンジの判断は的確だった。なぜならあの晩、ワタシは自身に与えられた自由時間を駆使してデウスと話をつけ、契約する事に成功したのだから。むふー」
「そういえばそうだったな」
そして昨日の晩にあった驚愕の新事実。
なんと早朝に創造神の神殿へとシーエを迎えに行くと、いつのまにかシーエがデウスと何らかの契約を交わして協力関係を結んでいたのだ。
デウスに聞いても詳しい契約内容は教えてくれなかったが、シーエに聞いた限りでは本人の魔力を媒介にデウスを召喚し使役する力を得たとのことらしい。
なんでも普段は【生命創造】の力でシーエに肉体を融合させているらしく、デウスの気分次第で出たり引っ込んだりしているみたいだった。
……これって召喚じゃなくね、とか、使役してなくね、とか俺も思うのだが、シーエ的にはこれは召喚であり使役にあたるらしい。
どうやら自分が主だと信じて疑っていないようだ。
以前から思っていたが、彼女の妙な自信はいったいどこからやってきているのだろうか。
最近、シーエが実は色々と抜けているんじゃないかと思う時がたまにある。
「マスターの懸念はもっともですが、私の協力者たるシーエはこれでも頑張っているのです。認めてあげてください」
「あ、うん。お、おっけー」
何がそこまでデウスの琴線に触れたのかは分からないが、昨日の晩からやけに機嫌が良い。
一体、俺がいない間に何があったのだろうか。
物凄く気になる所だが、とりあえず今はまず作戦会議だ。
約束通りならばさっそく戦争の最前線に投入してくれるはずだが、俺としてももう少し敵側の情報を知っておきたい。
俺個人の勝利条件としては、できるだけEX職業の力を使わずに目立たずこの戦争を終結させ、暗躍している幹部級を討伐する事。
それができれば向こうも痺れを切らすだろうし、ジーンや龍神が侵略者達の尻尾を掴んでくれるだろう。




