未知の来訪者2
「変わった事、ですか……。なるほど、あなたが私達の前に現れる時は常に我々が問題を抱えている時。今回の謎もまたあなたに絡んでいると見て間違いなさそうです」
ベラルから語られる言葉には危機感こそ感じられないものの、俺と問題の出現の関係性から「やはりあの子はあなたの下に預けるべきでしょう」という、何やら厄介事の匂いを感じさせるフレーズが聞こえてきた。
どんな問題を抱えているのか知らないが、運よく何かしらの手がかりが得られそうな話を聞けそうである。
また、今回の創造の破綻は目に見えて「敵」というモノが定まっていない。
故に、俺に接触してくるであろう始まりの創造神が警告してきた相手に、悪意があるのかないのか、またそいつは単独なのかという事も全くの不明なため、対処に困っていたところだった。
だからこそエルフの里が抱えている問題に怪しい影を見つけられれば、それを通して解決方法も見えてきそうだと思った訳だ。
……そう、思っていたのだが。
「で、なんですかこの子供は? 牢屋なんかに入れて、他所から誘拐でもしてきたんですか?」
「ち、ちがいます!! この子供はエルフの里に不法侵入してきた挙句、知らない言語で暴れ出したため我々が拘束したのです! 衣食住は与えていますし、決して非人道的な扱いはしていませんからね!」
そう語るベラルが指さすのは、薄汚れた貫頭衣のようなものを纏い、死んだような目をしながら牢屋で蹲っている犬耳の子供だった。
ちなみに魔道具の首輪つき。
性別は分からないが、衣食住を与えているという割には扱いが酷くないか?
「それも違います。なぜかこの子供は我々が与える食事以外のものを拒み、首輪も外そうとしなかったのです。薄汚れているのも元からで、出来る限りの接触を拒むために放置する他無かったのですよ。むしろ、扱いに困るからこそあなたに見せようと思い、こうして連れて来たのです」
「なるほど、それで……」
確かに言葉も通じず、与える物の殆どを拒まれたのではコミュニケーションの取りようもない。
せめて今後も暴れないようにこうして監禁するしか手は無かっただろう。
そう思って考え込んでいると、ふと犬耳の子供がボソリと呟いた。
「実験は成功……。しかし、現地の者との意思疎通は困難。作戦は失敗。おなかすいた……」
「は? 実験? 作戦?」
「なっ、言葉が分かるのですか!?」
何だこの子供、普通に喋ってるぞ?
ベラルは謎の言語を操っていると言っていたが、何の問題も無く聞き取れたんだが……。
って、ああ、そういえば俺って創造神だったわ。
そもそもこのアバターに全言語能力のような特殊な機能が備わっていたし、そうでなくては俺の創った異世界人ともコミュニケーション取れなかったわ。
異世界から日本に召喚した者達が普通に日本人と意思疎通していたので、その事を忘れていた。
たぶんこの全ての現象はアプリの力による補正のようなものなんだろうけども。
地球に召喚された者はアプリの力により、ある程度の言語の互換性が生まれるらしい。
ただ、そうなるとこの子供が謎の言語を操り、俺以外とコミュニケーションを取れないという事が疑問点になってくる。
この世界の者が聞き取れない言語で、地球には存在しない者の中から、さらにアバターが全ての異世界言語を習得しているため聞き取れるとなれば、考えられる可能性はある程度絞られる。
そうなると、つまりこの子供は……。
「なあ君。もしかして、ここではない世界からやってきたのかい?」
「…………!!!」
俺がそう尋ねた時、子供の身体がビクリと震えた。
やはりか……。
もしかしたら、とは思っていたがまさか本当にその可能性に行きつくとは、ストーリーモード開始早々とんでもない物件にぶち当たったな。
だがそうなると、ますますこの子供を引き取らない訳にはいかなくなってきた。
ちょうどエルフ達も持て余していたようだし、この件に関しては俺が解決するしかないだろう。
「うーん、そうですねぇ。他に居場所も無いようだし、こちらでこの子供を預かる事ってできませんか?」
「それは願ってもない事ですが……。いいのですか? 身元不明の上に、突然暴れまわるような子供ですよ?」
それに関しては問題ないだろう。
鑑定してみたところステータスは俺の方が上のようだし、仮に暴れられても傷を負うとは思えない。
たぶんレベル的には紅葉といい勝負か、それより若干弱いくらいの位置づけはずだ。
であれば、引き取るのに何の問題もない。
あとはこの子供の意思だけである。
「問題ありませんよ。……で、さっきからじっと俺を見つめてくる君は、一緒にここから出ていく気はあるかい?」
ここでいいえ、ここから出る気はないですって言われたらおしまいだけどね。
まあ、その時はその時で、何か別の案を考えよう。
さて、返答やいかに。
「…………ついていく。あと、おなかすいた」
「分かった。とりあえずエルフの里に出たら、まずはたらふく食べさせてあげよう。約束だ」
「…………」
正体不明、性別不明の子供はコクリと頷き、犬耳をピコピコと揺らしながら顔をあげた。
ああ、約束通りたらふく食べさせてあげるさ。
今頃紅葉が大事に保存しているであろう、おにぎりをな!!
……あとで補充してあげるから許せ、ニート妖怪。
おにぎりは皆のものなんだよ。
狐耳に餌付けして仲間に、そして今度は犬耳……。
あれ、これなんてデジャヴ。
次回、モフモフvsもふもふ。仁義なき戦い。
お楽しみに。




