閑話 始まりの創造神
今回はちょっと短いです。
……終わったか。
彼女の結末は我が創造の中でも最大の特異点、最大級の創造の破綻である斎藤健二に委ねたが上手く行ったようだ。
毎度毎度、彼には世話になる。
だが、それでこそ選んだ甲斐があるというものである。
もちろん選んだのには理由がある。
理由と言ってもこれはこの世界で生きる彼ではなく、彼の前世に深く影響があるのだが、思い返せばそれが全ての始まりだった。
故にこの結果を見届けた事で、ようやく彼を選んで正解だったと頷けるというものだ。
彼ならきっと、こうしてくれると信じていた。
だからこそ、かつて滅んでしまったあの世界で、彼だけが特異点達を理解し最後まで創造の神たる私に抗った事も、そして我が創造の生で最大の失敗と言っても良い彼が、その世界で生きる者達の心というものを説きこの心に言葉を響かせた存在だという事も、その全てが繋がる。
「フッ……。それにしても、物語は最後に皆が笑っていなきゃ、意味がないか……。言うではないか新米創造神め」
しかし、ああ、その通りだ。
全く以ってその通りだ。
これで彼のこの台詞を聞くのは二度目だったかな……。
なぜならかつて、滅びゆく世界でも全く同じような台詞を本人から聞いたのだから。
この言葉こそが絶対の創造主、始まりの創造神たる私の心に響き、こうして二度目のチャンスを彼に与えるきっかけにもなった程だ。
「そして、その言葉には何一つ偽りなど無かった」
かの世界の魔神も、終焉の亜神も、そして今回の件でも彼は全力で滅びに抗い、ついには滅びの特異点となる存在を殺すことなく物語りを完結させた。
これこそが私に見せるべき、真の創造だと言わんばかりに。
もちろん特異点以外では戦いの中で奪った命はある。
だがそれも全ては納得し、そして最後は笑って彼にその願いを繋いだ。
こうして、前回創造した星で世界ごと滅ぼしたかつての特異点達は彼のもとに集い、そしてこれからさらに絆を深めていくのだろう。
確かにこういった結末になったのも、創造の神殿の機能であるタイムマシンの影響が大きい。
だがそれでも尚、補ってあまりある成果である事には変わりはないはずだ。
……いや、前回創造した星というのは少し分かりにくいな。
こう語った方が正確だ。
────タイムマシンによる時間移動とは、かつて私が滅ぼしてしまった星の、彼という存在が救えなかった世界への追体験だという事を。
────追体験した世界での出来事は嘘でも幻でもなく、彼がアプリの力であの星を創造する前に起きた真実、一つの物語りの完結であると言う事を。
「真実。そうだ、これは乗り越えなければならない真実だ。かつては新米創造神としてではなく、一人の人間として生きた彼が創造神に抗い、そして特異点達に対し理解の無い愚かな私によって滅ぼされた、救いようのない創造の破綻だ」
だからこそ、次こそは間違えるな。
私も、彼も、もう間違えてはならない。
今度こそ、私に真の創造を、その完結を見せてくれ。
そうだろう、我が最高の破綻、斎藤健二よ。
「おっと、そろそろ次のチャプターが進行する頃か。回想に耽るのはこのくらいにしておこう。さて、次の相手は一筋縄では行かない。心して挑め斎藤健二」
次の相手こそはかつて私が滅ぼした星と同じように破綻と終焉を迎えた、救いのない世界。
まだ完全には滅んではおらず、ギリギリの所で踏みとどまっているに過ぎない滅びの世界。
彼がこの問題にどう対処するのか見物させてもらうとしよう。
何、私の星の尻ぬぐいをさせてしまった事への詫びとして贔屓した特例処置、EX職業の力があれば乗り越えられるだろう。
むしろこの程度乗り越えてもらわねば困る。
なにせ彼には他の何よりも可能性を感じ、期待しているのだから。
「そして何より、私こそが彼の最初のファンなのだからね」
新米創造神が創り出すハッピーエンドを、いつものように私に見せておくれ。
がんばりたまえ。
私は、君を信じている。




