物語の意味2
※※本日【3話目】です※※
読む順番にお気を付けください。
「悪いが、最初から全力で行かせてもらう」
「何だ! 今お前は何をした!」
九尾は動揺するが、それに答えてやる程俺も暇じゃない。
それにあいつも亜神の一柱に連なる者ならば薄々勘付いているはずだ、自分に掛けられた術の類を。
だが、そのおかげで余計に負けられなくなった。
デウスの時もそうだったが、亜神クラスに契約を掛けるという無茶なスキルを行使したため、魔力の消費以外にも俺自身が負けると取り返しのつかないしっぺ返しをくらう事になる。
だからこそ、今の自分が持てる全てを出し切る。
「EX職業、創造神」
「何ィ!?」
数ある亜神、数あるEX職業の中でもとびっきりの規格外。
アプリの所有者たる俺だけに許された最高位の力。
EX職業、創造神。
本来この創造の力はアプリに備わっている力であり、俺は間接的にその使用権を得ているに過ぎなかった。
だが今は違う。
【生命創造】も、【ログ】も、【スキップ】も、【マナ】も、過去に世界の全てを創造した力は俺の思うがままだ。
なぜ今になって始まりの創造神とやらが俺にEX職業を与えたのか、その真意の全ては分からない。
奴の創造したであろう世界であるこの地球の土地神一柱を救うだけにしては強大過ぎる気がするし、それにアプリの所有権も含めてなぜこの時代に俺だけが使えるようになったのかも、まだまだ謎は多い。
だが、それでも一つだけ分かっている事がある。
「それはな玉藻御前。お前を生み出したこの世界の創造神は、この力をたかが普通のおっさんに与えてでもお前を救ってほしいと、そう願っているっていう事だよ」
「何だ、何を言っている? ……それにそのオーラ、そしてどこか懐かしい匂い、……まさか」
動揺する九尾を余所に、俺は【マナ】による奇跡で周囲にある【資源】をコントロールし、一振りの長剣を創り上げる。
たっぷり力を込めて生み出した剣の刀身は黄金に輝き、僅かに神聖を感じられる。
いわばこれは、神剣というやつなのだろう。
剣の圧倒的なまでの格を感じ取ったのか九尾は慄くが、もう遅い。
全ての準備は、ここに整った。
「それじゃあ、一撃で終わらせてもらうぞ。……【スキップ】」
「馬鹿な! その剣は、そ────」
ストン。
時間が制止したかのような空間の中で、俺はごく自然な動作で歩み寄り九尾の胸に剣を突き刺した。
剣からは肉や骨を断ち切る感触もまるで感じられず、まるで抵抗もなくその胸に吸い込まれて行く。
そりゃあそうだ、この剣にはほとんど実体がないのだから。
そして数瞬後、【スキップ】によって止められていた周囲の時間が動き出す。
「ぐっ! あああああああああああ!!」
「母様!」
「来るな紅葉! お前の母親は大丈夫だ!」
苦しみもがき、突き刺された胸から瘴気のようなもを噴出する九尾を心配して、紅葉が近寄ろうとする。
だが心配はご無用。
むしろ今のこの状況こそが、九尾を救い続けているといっても過言ではないのだから。
「試練の土地神、九尾の大妖怪だったっけか。……その大役、ここで終わらせてもらう」
「がああああああああ!?」
苦しみの中で九本の尾が輝き、先ほどまであった禍々しい雰囲気が払しょくされていく。
強制的に妖力とやらが浄化され、本来あるべき神力へと変貌を遂げているのだろう。
「そうか……。お前が持つ本来の色は、白金色だったんだな」
だんだんと鮮明になった変化を見ると、元々の頭髪や尾は白金色だったらしい。
そして何より、この晴れ渡った空から太陽の光を反射し、美しい輝きを放っているのだ。
そう、もうこの固有世界には先ほどまでのような暗闇も、暗雲もない。
まさに雲一つない快晴であった。
「な、なぜ、お前がこの力を……」
「さてな。それはいつの日か、お前自身の創造神にでも聞くと良い。それよりも、これは俺の勝ちでいいな?」
なぜ俺がこの力を持っているか、というのは正直答えられる事ではないために濁す。
そんな事より今大事なのはここで俺が勝ったという事実のみ。
さあ、どうする九尾。
「…………既に抗う力も無く、抵抗しようにも力の差は歴然。何より、この余の支配を示す暗闇から一転した快晴」
────終わってみれば、呆気ないものなのだな。
────そうだな、お前の勝ちだよ、男。
九尾は確かに、そう語った。
この瞬間確かにスキル契約は発動し、九尾の持つ試練の土地神としての誇りが折れた。
創造神の純粋なマナによって創られた神剣により浄化された事と合わせて、もう二度とその立場になる事はないのだろう。
なにせ今の九尾には大妖怪としての力はなく、次元の裂け目から妖怪を出す事もなければ、そうしようとする心すらがポッキリと折れ消滅している。
今の奴は過去に人を苦しめ続けた人間の敵対者ではなく、この日本に生きる人の守護者であり土地神、玉藻御前なのだから。
「先に言っておくが、これは俺のエゴだ。だが、後悔はしていないし、今後お前に謝る事もないだろう」
そう語ると九尾は力無くふわりと笑い、「それでいい」とだけいって意識を暗転させた。
……これで、一件落着といったところか。
「ぬわーーーーー!!? 母様が!? 母様が白髪になってしもうたぁ!? お肌はピチピチなのに髪の毛だけ老けてしまったのかえ? ずっと生きてるしのう……、そういう事もあるのかもしれん」
「おいバカ。それは白髪じゃない、銀髪というんだ」
まるで老けてしまうのも致し方なし、みたいな勘違いをしている紅葉にすかさずツッコミを入れる。
ほんとにこいつは……。
だが、いつも通りに紅葉で安心した。
「さて、どうだったかな黒子お嬢さん。これでもう、俺との契約により九尾は二度と悪さをする事もないし、その影響を受ける紅葉以外の眷属にしても同じだろう。君との約束は、守れただろうか?」
ちらりと源三の爺さんの方も見てみると、手当を成功させたデウスがこちらに向けてガッツポーズを送っていた。
そうか、そっちも上手く行ったか。
「────はい、お慕い申しております、斎藤さま」
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