対九尾戦線4
本日は物語りの尺の都合上、3話連続投稿します。
※※本日【1話目】です※※
読む順番にお気を付けください。
「せやぁああああああ!」
ミゼットが腰の剣を引き抜き、まずは小手調べとばかりに魔力を纏った斬撃を繰り出す。
九尾にも言える事だが、亜神クラスの次元になってくるとただの物理攻撃は意味を成さない事が多い。
種族としてではないが、職業として亜神と同等のEX職業を身に宿す事でようやく気付けた秘密の一端に、この亜神と名のつく存在のほとんどは自身にエネルギーの鎧のようなものを纏っているらしい事が分かった。
これはステータスやパラメーターとしての防御力ではなく、いわゆる神力という魔力を超越したエネルギーの作用によるもののようだ。
アプリで異世界を創造したときにも、マナと呼ばれる資源を使い魔法や超生物を創り出したが、神力とはおそらくその神の奇跡たるマナと同じようなものなのだと思う。
故にこの元土地神である九尾の大妖怪に対しては、肉体を常時覆っている神力を貫通するために武器にすら魔力を通す必要が出てくるという訳だ。
……しかし気になるのが、俺ですらようやく認識できたこの裏情報のようなものを、ミゼットはどうして事前に知っているような行動を取っているのだろうか。
小手調べとはいえ、息を吸うように繰り出す技の一つ一つに、対亜神戦に慣れた余裕のようなものを感じる。
もしかして、どこかでジーン以外の亜神に会った事でもあるのか?
……アプリで時間をスキップした俺の居ない数年の間に、ずいぶん色々な冒険をしてきたと見える。
「ほほう、これはこれは……。人間にしてはやりおるではないか。そちらの男と同様、やはり女もタダ者ではないらしい」
「ふん、当然よ!」
レベルゼロとはいえ、戦神となった俺の動体視力ですらギリギリ対応できる速度での攻防が繰り広げられている。
……ミゼットお前、もう亜神の領域に片足突っ込んでない?
戦闘力的には既に人間を越えて超人の領域にいる事は確実なので、いつかなんらかの神力を宿すかもしれないな。
なにせミゼットの実力の大半は、職業補正という枠組みで判定されるパラメータ補正とは別の、本人の技量とセンスによる強さが大きい。
つまり純粋な努力と経験による強さだという事だ。
そこに異世界仕様の『種族進化』という概念が加われば、いつ『ヒト族:英雄』になってもおかしくないし、その先の境地も見えてくる。
というかもう気づいてないだけで英雄クラスにはなっているのかもしれないし、後で鑑定でもしてみるか。
なんとも将来が楽しみな少女だ。
こりゃあ負けてられないな。
「さてと、それじゃあ俺も本気を出すとしますかね」
「……むっ!?」
戦神の能力の一つ、最強の戦士とも評される亜神の力を使わせていただこう。
スキルの名前は『戦いの記憶』。
ありとあらゆる武器の扱い方や知識、さらには経験を我が物とし、十全以上に引き出す力だ。
しかもそれは自身が武器として認識できていれば、全てに適応される。
例えば石ころを武器と認識すれば最高の投擲技術が、魔力を武器として認識すれば超越的な身体強化が施されると言う訳だ。
ハッキリ言ってぶっ壊れているが、たぶんこれは職業として見るからそう感じるのであって、本家本元の『種族:戦神』であれば、出来て当然の事なのだろう。
そりゃあそうだ。
なにせ戦い続けたその先に辿り着き進化する亜神なのだから、それまでの記憶があってしかるべきである。
俺みたいにEX職業として入手したようなチート野郎でなければ、自然と身に付くものだ。
少しばかり後ろめたい思いが無い訳でもないが、有難く使わせてもらうとしよう。
「ミゼット、お前の技を借りるぞ。聖剣招来・乱舞!!」
「ちょっとそれ! なんでケンジが使えるのよ!」
過去に俺を魔王戦にて救ってくれた、ミゼットの奥義。
自身の聖剣招来を武器として認識する事で、戦いの記憶を呼び覚まし強制的にその奥儀を再現させた。
その再現度は本来の開発者ですら驚愕する程であり、いやむしろそれ以上かもしれない。
顕現した光の剣は周囲に纏わり、九尾に向かって縦横無尽に突撃していく。
「なんだかずるいわ! 私がその技を使えるようになるまでに、どれほど苦労したと思っているのよ!」
「すまんな」
……たぶんこのままいけばミゼットは戦神かそれに準ずる亜神になる可能性が高い故、今は俺のズルを大目に見て欲しい所である。
しかしこれで九尾にとっても手痛いダメージとなるはず。
そう期待して奴の方を確認すると────。
「青二才がしゃらくさいわ! ふん!」
「嘘でしょ!?」
「おいおい……」
九尾はなんと、俺の聖剣招来をまるで小石でも払うかのように九本の尾で弾き飛ばしてしまった。
弾き飛ばされた光の剣は砕け散り、その存在を維持できずに消滅していく。
なんだこいつ、ジーン相手の時はあんなに苦戦していたのに、こんなに強かったのかよ。
いや、基準がおかしいか。
あれは俺の世界の魔神が強すぎるだけだったわ。
明らかに前提とする比較対象が間違っている。
さて、しかしどうしたものか。
この必殺技が正面から通用しないとなると、いよいよ苦戦するかもしれない。
「ふっ、……それで終わりか謎の男よ? このままではバカ娘を託すには足りんな。もっと余を追い詰めてみせよ」
「うーん、参ったなぁ」
「弱音を吐いてるんじゃないわよケンジ! モミジを託すとかはどうでもいいけど、あんたが負けたら私が悔しいでしょ!」
分かってる分かってる。
そう睨むなミゼット、ちゃんと手は打つから。
お前の目の前で無様な姿はなるべく見せないよ。
なるべくな。
「がんばれ、おにぎりの男よ~! 儂はずっと応援しておるぞえ~! 男が母様に勝たんと、勝手に一族から抜けた儂がイジメられてしまうかもしれんしのう?」
相変わらずご機嫌な紅葉が尻尾をふりふりしながら声援をくれる。
全く俺が負けると思っていないのかニコニコ笑顔で勝てと言ってくるが、確かに俺が負けて紅葉がまたヒエラルキーの最下層に追い込まれるのは気に入らない。
その期待に応えるとしよう。
「まあ、今のはEX職業の力の一端だ。そう焦らなくてもまだまだ手はあるから、心配するな」
「ならいいわ!」
「ほう? 今の攻めですら余興だと?」
そうだと言ってるんだよ九尾。
なにせ俺の手札は、とっかえひっかえできる亜神の数だけあるんだからな。
「勝つ前にこう言うのもアレだが、今から覚悟しておいた方がいい」
「はっ! 言いおるわ、青二才が。そこまで言ったのなら、有言実行して見せよ」
お互いに睨み合い、一時的に膠着状態になる。
よし、この時間を利用してEX職業を入れ替えておこうかな。
ポチポチっと……。
するとそんな俺を余所に、このタイミングで後方の何かが揺らめく。
揺らめいた何かは幽鬼のようにゆらりと立ち上がると、底冷えするような冷たい声色で警告を放つ。
「────そこをどいて下さい、斎藤様。やはりその妖狐は殺さなくてはならない悪、なのだと思います」
警告を放った幽鬼、……いや、少女の手には戸神源三のものと思われる数珠が握られており、頬には涙の痕が見て取れた。
「ほう、その通りだ陰陽師の娘っ子よ。ようやく覚悟が決まったようだのう?」
「…………」
その少女の言葉に九尾はどこか満足気に、そしてゆっくりと頷いたのだった。
【忘れられているかもしれないので解説】
ミゼットが亜神戦に慣れているとありますが、これは魔王戦のケンジを助けに行く過程で出会った龍神の影響が大きいです。
彼の猛特訓の影響で、だいぶ亜神系統への戦い方が洗練されています。




