迷宮攻略1
本日【5話目】となります。
終焉の亜神の問題を解決する為、世界樹の迷宮に足を踏み入れてから一ヶ月程が経過した。
最初の半月程は完全にこちらの迷宮の安全性の確認や調査が主で、エルフの里で食料の買い出しなどを行いつつ黒子お嬢さんの修行の舞台を整える事に専念していたのだが、ここで思わぬ人物が活躍した。
そう、勝手に俺達に同行する事になった魔人、ジーンが無双を始めたのである。
「なになに? ようするに、ここの迷宮に脅威となる生物が多いと君の新しいオモチャが危ないから、一旦環境を整備したいって言う事なんだね?」
「それは違う。オモチャじゃないから、仲間だから」
「同じ事だよ!」
同じな訳がないだろとは思うが、こいつの中では大した違いは無いらしい。
ただどこか掴みどころの無いジーンの力は本物で、また俺達に妙に協力的でもある。
実際に魔物の調査をしている時も何やら目の前に変なパネルを出現させて、半透明のキーボードみたいなのを操作しながら魔物の脅威度や特徴をピタリと鑑定してしまうのである。
その上ミゼットやこのアバターが二人がかりでもやっとの思いで倒せるくらいの敵を、一人で複数相手に蹂躙してしまった過去を持つ。
なんか手から黒いレーザーを出して、大量の瘴気を発生させながら消し炭にしてたぞ。
あんな威力の攻撃は以前の魔王戦でも見た事がない。
魔王龍のブレスよりも強力なレーザー光線って、いったいこいつは何者なんだよ。
間違いなくただの魔人ではない事だけは確かだ。
当然こんな化け物に裏切られた時が怖い訳だが、現時点ではその兆候は見られない。
ただニコニコと無邪気に笑いながら「今までの人生で一番、今日が楽しいなぁ~」とか、「そっか~、僕もまだまだ捨てたもんじゃないね~」とか変な事をずっと言ってるくらいだからな。
だから俺は、ハイエルフや勇者の目を掻い潜れる程ズル賢くも、しかし妙に純粋な心を持つこいつが悪い奴だとはどうしても思えなかった。
それに元々、俺が魔人に対して偏見がないというのも大きいのかもしれない。
魔人はあくまでもアプリが勝手に世界の敵認定した創造神のマナを不正に扱う種族というだけで、俺からすれば他の種族と同様にこの世界に生きる人間、生物だ。
当然彼らの中には悪い奴もいるが、個々として活動する全ての者が悪ではあるまい。
善人もいれば悪人もいる、それぞれに個性がある。
そんなのは人間も魔人も魔物も妖怪も同じだろう。
まあ、ただの持論だけどな。
ただこれに異を唱えたのがミゼットであり、今もこのジーンの事をずっと警戒している。
特に手を出して牽制する訳ではないのだが、どうもこの二人は性格が合わないようだった。
なんというかこう、戦闘中に獲物の取り合いをしたり、魔物へのラストアタックがどちらだったのかを決めるかで競ったり、喧嘩が絶えない。
ミゼットに自覚はないのかもしれないが、深層心理で受け入れきれない部分があるのだろう。
なにせ彼女の人生で、魔族や魔王というのは度々立ちはだかって来た存在だからな。
「あんた、今あからさまに私の攻撃を邪魔したでしょ? 殺すわよ」
「はははは! 出来もしない事を言うのは感心しないなぁ。君は昔から彼のお気に入りのようだけど、戦闘力はともかくもうちょっと頭の方を鍛えた方がいいかな。そんなんじゃ彼に相応しいとは到底言えないよ」
と、今もこんな具合である。
とてつもなく相性が悪い、まるで水と油だ。
とはいえ一応パーティーを組んでいる手前、噛み合いはしなくともそれぞれの役割はちゃんと理解しているみたいなんだけどね。
主な役割はミゼットが前衛、そしてジーンが中衛、俺が後衛である。
聖騎士一辺倒ではあるが近接戦闘に長けるミゼットが魔物の攻撃を受け止め、ジーンが魔族しか知り得ない謎の瘴気攻撃で相手を攪乱しサポート、最後に俺が悪魔のスキルで死の宣告を発動し強敵を一撃で撃破するという流れがいつもの勝利パターンだ。
もちろん雑魚においてはこの限りではなく、適当にそれぞれが動いて一掃である。
「悔しいけど、あんたが魔族でも術者や戦士として優秀なのは認めるわ。だけど私がケンジに相応しくないっていうのは聞き逃せないわね」
「本当の事を言ったまでさ。君の彼に対する決意や覚悟は素晴らしいけど、それだけでは足りない。……彼がいったい何者であるのかをよく考えて、真に力になれる事は何なのかを考えてみると良い。ただ強いだけの存在など、世界には溢れる程に居るのだから」
「なんですって!」
「…………」
たまにジーンは意味ありげな事を言い、それ以降口を閉ざす。
これも今までの一ヶ月で何度も見た光景だ。
こいつの思惑は分からないが、どうも俺に変な期待を寄せているらしい。
俺はこいつとなんの面識も無いんだが、困ったなぁ。
一体どんな期待を寄せているのやら。
まあ、それはそうと、そろそろ動いても良い頃かな。
「世界樹の迷宮で調査をして半月、環境整備に半月。約一ヶ月を費やした訳だが、そろそろ黒子お嬢さんを迎え入れる準備をしよう。そしてこの迷宮で彼女のレベルを出来る限り上げ、なんならそのまま攻略してしまおうと思うのだが、……意見はあるか?」
「無いわ。このパーティーなら攻略への危険も少ないでしょうし」
「うーん、僕も賛成だねー。新人の子がどの程度の実力かは会ってみないと分からないけど、たぶん大丈夫だと思うよー。守りながらでも攻略できると思う」
ミゼットとジーンに確認を取り、行動に移す事にする。
この一ヶ月の実戦で俺もだいぶレベルが上がったが、やはり実戦に勝る経験はないな。
時々食料を差し入れに行くために、創造神の神殿に戻りエルフの里産の野菜や穀物を届けに行くが、やはりリプレイモードだけでは上昇速度に限界がある。
常に一定の成果は上がるが、爆発的な成長は見込めない。
よって、ここは思い切って攻略まで視野に入れてしまった訳だ。
ちなみに俺達がこうして調査と環境整備を行っている間、勇者は未だ迷宮の完全攻略には至らずチャレンジを繰り返しているらしい。
もちろんこちらよりもだいぶ迷宮の深い所まで進んでいるようだが、それでも相当な難易度なんだろう。
やっぱり世界樹を吸収しつつある終焉の亜神の戦闘力は、とんでもない事になっているのだと推測できる。
この調子だと、勇者一行による攻略は恐らく無理だな。
そもそも、終焉の亜神を力でどうこうするのは効果的な手段とは言えない。
それにあいつはたぶん、何かを知りたがり、そして誰かを待っているのだろうと俺には思える。
知りたいのは例えばそう、自分が何者なのか、とかな。
子供の精神を持つ亜神の最終目的が何なのかは分からないけど、この答えを教えてくれる人が欲しいはずだ。
子供ながらに発想は安易としか言えないのだが、こんな世界樹に迷宮を構えるような目立つ事をしてるんだ、ようするにその答えを持つ何者かを誘っているのだろう。
だったら、俺が行くべきだ。
力を持って生まれたのに、使い方も知らず、何の為にその力があるのかも知らない。
そんな生まれたての赤子のような奴に、迷惑だから殺しに来ましただなんて俺には言えないというのもある。
だから俺がゲーム感覚で創造してしまったこの異世界において、必ず生きる理由があるのだと思い知らしてやらなければならない。
なにせ俺は創造神だからな。
生まれたのが偶然であれ必然であれ、何の価値も無い人物の創造なんて、俺の誇りが許さないからだ。




