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異世界創造のすゝめ~スマホアプリで惑星を創ってしまった俺は神となり世界を巡る~  作者: たまごかけキャンディー
第三の創造~現世動乱編~

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閑話 傭兵


「あ~あ~、この悪霊もシケてやがんなぁ……」

「ひ、ひぃぃ……!」


 日が傾きそろそろ深夜0時を過ぎようかという東京のとある裏路地にて、全身黒ずくめのスーツを着こなす男が愚痴を零す。

 男の片手には鈍い鋼の輝きを持つ拳銃が一丁握られており、銃身には宗教的な意味を持つ装飾も施されているようだった。


 明らかに危険な雰囲気を匂わせるその出で立ちも相まり、たまたま裏路地に居た酔っ払いの会社員は、特に何をされた訳でもないのに酔いが覚める勢いで逃げ出す。


 だがそれも無理のない事だった。

 なぜならその男はおもむろに拳銃を引き抜くと、酔っ払っていた男の目の前で実弾を連射し始めたのだから。


 自分に向けて撃たれたものでなくとも、そんな凶行に及ばれれば誰だって腰を抜かすか逃げるかするだろう。


「あ~、ったく、逃げることはねぇじゃねえかよジャパニーズ。せっかくこの俺様が日本の悪霊を退治してやったんだからよぉー……」


 そんな言葉を吐く男の周囲をよく見ると、実弾が命中した場所には至る所に青白い光の残滓のようなものが散っており、建物や路地への被害はゼロだった。

 どうやらこの男の銃や銃弾には特殊な仕掛けが施されているらしく、日本に点在する異能者達と同じように特殊な力を持つようだ。


 恐らく拳銃に施されている宗教的な模様も、何かしらの魔術刻印のようなものなのだろう。

 一般人の目には見えない妖怪や悪霊といった魑魅魍魎を攻撃したため、先ほどのサラリーマンには凶行に見えたのだ。


 するとそんな男の所業を見かねてか、傍で様子を窺っていた少女が路地の影から姿を現す。


「相変わらずやり方が無粋ですわね、イギリス聖魔教のエクソシストは。これがあの国では超一流の名を欲しいままにする無敵の傭兵、ハリー・テイラーだというのですから、お里が知れますわ」

「おいおい、俺をただの傭兵と一緒にするなよミカド。ちゃんと町や人に被害もなく悪霊を仕留めただろう? 完璧な仕事だったはずだぜ」


 暗闇から現れた少女、日本政府に紐づいている超能力組織の構成員、西園寺御門はそう呟く。

 本人は周囲にいる人間の印象を顧みない行動に毒を吐いているのだが、しかし完璧な仕事をしたと認識しているハリーはどこ吹く風といった様子で受け流した。


 そしてハリーは拳銃をホルダーにしまいながら、言葉を続ける。


「そもそも、俺はあんたらの手に負えないっていう邪神、九尾ナイン・テイルの討伐において手を貸して欲しいっていうから来てやったに過ぎない、ただの雇われだ。そんな俺に礼儀を求めてどうするってんだよ。無償で悪霊の一匹や二匹を駆逐してやったんだから、感謝して欲しいくらいだね」


 実は彼が雇われた理由には日本における最大の脅威の一つ、九尾の狐『玉藻御前』の再誕に関わる事情があった。

 元々日本政府は九尾を再封印する事は考えておらず、出来る事ならば生け贄として存在する戸神黒子の力で九尾の力を殺ぎつつも、今回の決戦でかの大妖怪を仕留める気でいたのだ。


 そのために選ばれた助っ人がこの男であり、イギリスでも屈指の魔力を持つとされるエクソシスト、最上位の傭兵ハリー・テイラーなのであった。

 だが見ての通り、少々性格に難があることから依頼には今まで中々踏み切れなかったらしい。


 それでも尚、今回こうして男が呼ばれたのは徐々に弱まってきた封印に対し、そろそろ政府がいてもたっても居られなくなってきたからである。


 本来であれば、実力はあれど扱いにくいこの男を臨時とはいえ雇うには不安があっただろうが、今回ばかりはそうは言っても居られないという訳だ。


「あなたはただ妖を討滅して、聖魔教への貢献度を稼ぎたいだけでしょう。貢献度はそのまま傭兵の地位に変わりますから。人間性を一切無視して魑魅魍魎の討伐数だけで貢献度を計るあの聖魔教ならではのシステムですわね」

「はっはっは、そりゃごもっともな意見だな。まさにその通りだ」


 悪びれもせず返答するハリーだが、しかし彼はそのシンプルであるが故に明確な実力主義のシステムで最上位と判定されているだけあり、戦闘力という面においてはとにかくズバ抜けている。


 もしここに斎藤が居たのならば、まさか地球人でここまでの力を持った人間がいるとは信じられなかった程だろう。


「それで、ターゲットの狐どもはいまどれくらい封印から逃げ出しているんだ? 早めに対処しねぇと生け贄の巫女だけじゃ対応できなくなるぞ」

「ええ。既にこの東京のみならず、数多の被害が妖狐によって齎されていますわ。それも居場所や手口の痕跡を掴ませず暗躍できる実力的に、かなり上位の妖狐ですわね。……おそらく、七尾か八尾といったところでしょう」


 日本全体を通し、数日前から要人の失踪事件や怪奇現象が後を絶たない。

 ある者は死体となって発見され、またある者は失踪中の記憶を無くし何事もなかったかのように戻って来ていたりもする。


 この一連の事件にどういう意図があるのかは分からないが、力の規模から考えて上位の妖狐と考えるのが妥当であった。

 二尾や三尾では、これ程の問題は起こせないからだ。


「おいおい、そりゃマズいだろう。なぜもっと早く俺を呼ばなかったんだミカド。そこまでヤベぇ状況なら、ウチの国の吸血鬼退治より優先して動いてやってもよかったんだぜ」

「それはあなたがこちらの指示通りに動く人間ではないからですわ。……といっても、今はそのような事を言っている場合ではないかもしれませんが」


 そう語る西園寺御門からは後悔の念が感じられるが、言った所で時は戻らない。

 返答に対しハリーは「まあ、言っても仕方ねぇ事だったわな」と愚痴りながらも煙草に火をつけ、一服する。


 どうやら自分の性格に難がある事に対し、多少の自覚はあるようだった。


「それで、その死んだ奴と生きて帰って来た奴の違いはなんだ?」

「……実はそれが問題ですの」


 曰く、死体となって発見された者の多くは全て後ろ暗い事業に手を染めていた者か、もしくはそういった噂の絶えない者である事が多かった。


 曰く、生きて帰ってきた者の中には軽い洗脳を施されている者と、全くの無傷の者が存在していた。


 曰く、狙われているのは主に中年の男性が多い。


 等々、明らかに前半は人間の選別を意識しているものが多いが、後半にかけてはなぜ中年の男性が狙われているのか全く意味不明なのだ。

 いったいどういう狙いがあるのかさっぱりなのである。


 そしてしばらく腕を組み黙って聞いていたハリーは一息つき、とある結論を出す。


「そのやり口、恐らくは私怨だな。傭兵やってりゃ分かるが、たぶん中年のおっさんが九尾の一族に恨まれる事でもしたんだろうよ。生きて帰って来た奴は見当違いで攫った奴で、死んだ奴はその妖狐にとって気に入らねぇ何かがあった、というだけに過ぎんだろう。……予想でしかないがな」


 ハリーは吸い終わった煙草を魔術の火で灰に変え、話を終えた。

 この男の真に凄まじいところは、傭兵やエクソシストとしての戦闘力の高さ以上に、その洞察力でもあるのだ。


 また、戦場でもその洞察力は遺憾なく発揮され、なんの脈絡もないところから敵の作戦を見抜いた事も一度や二度ではない。

 業界でも畏敬の念を込めてセンス・オブ・エクソシストと呼ばれる程である。


 そんな超一流の傭兵であるハリーが日本へ戻ろうとしている斎藤と出会うのは、もうすぐ後の事であった。



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