百年後の世界へ2
魔王との決戦から百年後の未来。
つまりは現時点でのこの世界な訳だが、やはり世界的に技術が発達した事で道行く冒険者の装備や、民間の人々の服装にも変化が訪れていた。
昔の冒険者は魔物の素材を使った革製の防具や、鉄の武器でも特に捻りのない素材そのものを活かした装備が主流だったのだが、今は防具一つとっても至る所に魔法具の匂いを感じさせる装備品が多い。
防具に幾何学的な文様が走り、たまに発光していたりするのだ。
これは恐らくアレだ、いわゆる魔法や魔術の効果が付与されているという事なのだろう。
性能にどのような変化があるのか気になる所だ。
もちろん武器にも変化がある。
一体誰が開発したのか知らないが、拳銃のような装備品を身に付けた冒険者を見かける事ができた。
拳銃にも魔法陣のような輝きが見受けられたので、玉は鉛じゃなくて別の何かだとは思うのだが、よく百年でここまで進化したな。
今までで一番世界の成長速度が速くて、創造神としてもびっくりだよ。
もしかしたらアプリのメッセージにあった『創造の破綻』というのを回避すると、一気に時代が加速するのかもしれない。
いや、そうとしか思えない。
となると、この時代でもまた『創造の破綻』を回避すると、同じように技術のブレイクスルーが起きる可能性が高いな。
ちょっとワクワクしてきた。
そして道行く人々を鑑定しながら少年時代の俺の銅像付近をウロついていると、ふいにシスターのような人が銅像の前に立ち演説を始める。
聞き耳を立てると、内容はどうやらこの聖地に集まった民衆に向けた神話や伝説の始まり、その成り立ちのようなものを語っているようだった。
まあこれだけ聖地っぽければ観光客とかもいるだろうし、一種の恒例行事のようなものなんだろう。
あのシスターは大真面目に語っているが、聞いてる側はそれほど真剣ではない。
半信半疑といった感じだ。
だが、この世界の宗教について知識は全くないが、いつのまにかあの決戦の日は伝説として語り継がれる事になったらしく、俺が起こしてきた数々の冒険は聖書となって物語として保管されているらしい事が分かった。
「百年前、私達の国は魔王の侵略という大きな災厄に見舞われました。魔王は人々を欺き、ヒト族とそれ以外の種族の対立を煽り世界を混沌に陥れようとしたのです。人々の調和は大きく乱れ、大陸各地で亜人族への弾圧が起き、それを切っ掛けに大きな戦争が始まりました」
それからシスターの語りは続く。
「そしてそれから十年、ヒト族と亜人族の対立は続き、大陸の未来は絶望的なものとなって行きます。ここまでは魔王の目論見通りでした。しかし、あわやこの大陸全ての人々の調和が崩れそうになった時、奇跡は起こります────」
ふむふむ、そこから先は俺も知っている展開だな。
創造神である俺が賢者アーガスと共にこの大国に訪れて、ミゼットや紅葉の助けも借りながら問題を解決したのだ。
いやあ、彼らにとっては百年前の事でも俺からすればつい昨日の事だから、こうして語り継がれている所を見るとなんだか面映ゆく感じるね。
ミゼットも満更ではないのか、ちょっとだけ顔をニヤニヤさせながら自分が登場するシーンに聞き耳を立てている。
なんたってあの語りの中では『世界を守るために天空より現れた神の使徒』だもんな。
中々カッコいい役回りだ。
魔王を倒す所なんかだと俺の必殺技、職業悪魔の基本スキルである『死の宣告』が神の雷として表現されていたりして面白かった。
そしてシスターは伝説の語りを終えるとそのまま信者を連れて教会に戻って行く。
元王城となったこの場所に教会が建てられているところや、かなり詳しい旅の内容が表現されていたところを考慮するに、たぶんあの物語の一部始終の監修には賢者アーガスやこの国の王様が関わっているのだろう。
そうでなければ、物語序盤の方に出て来た『エルフとドワーフを連れ旅を続ける賢者アーガスの下に訪れた、少年の姿を模した人間神』なんていう表現をする事は不可能だろうしね。
あれってこの大陸での出来事じゃないから、アーガス本人が過去を語らなければ分からないはずだ。
「なんだかこうして改めて聞かされると、ちょっと照れ臭い物語だったな」
何点か美化されて語られているシーンもあったから、そこら辺はたぶん百年の中で徐々に変わってきてしまった点だろう。
あの超現実主義者のアーガスが、事実を捻じ曲げて自分を良く見せようとする事は有り得ないだろうからな。
そういう情報の歪曲を最も嫌いそうなタイプだし。
「ふふん、私は楽しかったわよ! あなたが幼い私と別れてから何をしていたのか、色々と知る事ができたし」
「儂もおにぎりの男と一緒に旅してきた事が、この世界の人に知ってもらえたのは嬉しいのうー」
ミゼットは自信満々に胸を張り、紅葉はキツネ耳をピクピクさせながらちょっと照れた感じで答える。
まあ二人が楽しめたなら良かったよ。
「で、ずっと気になってたんだけどこの狐の天種は誰なの? ……あなたの嫁?」
「ぶっふぉ!?」
なぜそうなる。
唐突過ぎるだろ。
急にどうした。
というか少女どころか幼女に近いこの妖狐が嫁は無いだろ。
外見年齢を考えて欲しい……。
「い、いや、嫁では無いな」
「ふーん、……怪しいわね」
「怪しくないぞ?」
「私はいいのよ? あなたに嫁が居たとしても、こうしてついてきた事を後悔する気は無いから。これから先もずっとね」
本当に紅葉は弱っていたので拾った捨て犬、いや捨て狐みたいな雰囲気だしな。
そういうつもりは全くない。
さて、どう説明したものか。
すると今度は紅葉も話に参加してきた。
「ふむ、儂はおにぎりの男の嫁だったのかえ?」
「違うのかしら?」
「ふぅーむ。……違うような、違くないような? でもおにぎりが貰えるならずっと一緒にいたいしのー」
「ハッキリしないわね」
いや、ハッキリしてるだろ。
こいつの愛情は完全に食欲に向いてるじゃないか。
これはどうやら、この3人で会議を開く必要があるようだ。




