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異世界創造のすゝめ~スマホアプリで惑星を創ってしまった俺は神となり世界を巡る~  作者: たまごかけキャンディー
第三の創造~現世動乱編~

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和解


 現代に戻って来た翌日、黒子お嬢さんの来訪予定時刻である午後2時まで、無駄に紅葉の姉妹に対して警戒をしながらもゴロゴロしたり、テレビを見たり、マンガを読んだりしながら自堕落にアプリを操作していた。


 アプリ内部では相変わらず時間の流れが10倍のようなので、見ている分には目まぐるしく世界は変動していくが、世界地図を把握する限りガルハート領も魔王と決戦の地になった大国も穏やかに過ごしているようだ。


 もちろん多少は他国との小競り合いは発生しているようだが、それは言ってもキリがないので割愛。

 こんなのは人間が人間である以上どうしようもない事だ。


 そして新たに悪魔の職業を融合してしまったことで空いてしまった職業枠、その残りの一つをどうするかを考えながら過ごしていると、ついに予定の時間が近づいてきた。

 ふむ、そろそろかな。


 するとちょうど良いタイミングでインターホンが鳴り、扉から見知った人間の声が聞こえてくる。


「斎藤様、黒子です。お邪魔しても宜しいでしょうか?」

「あーはいはい、今開けます」


 約束通り一人で来てくれたようで、ドアスコープで見る限りはいつもの黒服の姿は見受けられなかった。

 ふむ、これで第一段階突破かな。


 いくらお嬢さんが黒服に対し絶対の権力を持っているといっても、戸神家が全力で討伐を意識している九尾関係の妖怪相手に、何もしないとは考えにくい。

 彼女の制止を振り切って攻撃してくるかもしれないし、俺の話から秘密がポロリと流出してしまうかもしれない。


 そうなったら面倒だから、今回は一人で来訪するよう伝えた訳だ。


 とりあえず紅葉は居間の奥で隠れてもらう事にして、お嬢さんを部屋に通す。

 相変わらず内部の設備を見回しているが、どんなに探しても妖怪避けの結界アイテムなんて存在しないぞ。


 俺に陰陽道の極意など一ミリも備わっていないし、アイテムの作成も同様だ。

 アイテムクリエーションでなら作ろうと思えば作れるかもしれないけどね。


「お邪魔致します」

「いらっしゃい」


 ちゃぶ台にお茶を出しながら相対するような位置取りで座る。

 さて、どこから話すかな。

 ちょっと緊張してきた。


「それにしても、斎藤様はやはり不思議な方です。勤めている会社を買収するだけの財力を持ちながらも、相変わらずこのような質素な暮らしを享受しておられるなんて。……こう言っては失礼ですが、普通の殿方ならば豪遊したいと思うのが常ではないのでしょうか。やはり力や財産などであなたを推し量る事はできないのですね」


 どう話を切り出すか迷っていた所、しばらく辺りを見回していた黒子お嬢さんが代わりに話かけてきた。


 しかし、質素な暮らしね……。


 個人としてはこの生活に慣れてしまっているせいか、生活にそこまで不満はない。

 普段は異世界へと冒険に出かけているし、豪遊するだけの金があっても使い道がないからな。


 それに社畜根性が中々抜けないせいで、無理に贅沢な暮らしを始めるというイメージが出来ないのも大きい。

 所詮、俺というおっさんの器にはそういった感性は合わないのだ。

 どこまで行っても発想が庶民的というか、まあそんな感じ。


 適度に喫茶店のマスターとして仕事をしながらも、適度に異世界で冒険をするといった生活リズムが最も優雅で自由な暮らしなのだろう。

 だが、そうだな。

 それを追及するならばこちらからも質問がある。


「少し重い話になりますが、その件で聞きたい事があります。今の俺のように贅沢をするだけの財産を持ちながらも、それをあえて使わないといった力ある人物ではない、……例えばそう、環境の変化にもついていけず上司の力にも逆らえない力の無い者が居たとしたら、お嬢さんはどう思いますか?」


 ────その者と俺の決定的な違いが、ただ運よく力と財産を手にするだけの巡合わせがあったかどうかだけだったとしたら、どうですか。

 ────それでもその人間に、魅力を感じますか。


 と、そう聞いた。


 言わずもがな、紅葉の事である。

 事情を知らない黒子お嬢さんからすれば、何のことか検討もつかないだろう。


 しかし元はといえば、アプリが無ければ俺はただの社畜だった訳だ。

 だから、どうしてもこの社畜妖怪に自分を重ねてしまうのである。


 もちろん過去に起こした悪事をそのまま許せとは言わないが、それでもこいつの本質は善良だろう。

 ただ毎日ご飯を食べて、寝て、遊び、時々働きたいだけの俺の同類。

 だからどうか、俺に向ける好意があるならば、少しだけその愛を後ろで控えているやつにも分けてやって欲しい、というだけの話なのだ。


「もちろん、そのような人物であったとしても本人の魅力が損なわれる訳ではありません。もし斎藤様のように力や財産がなかったとしても、その者の本質が善良であるならばそれだけで尊敬に値します。これはどのような人間にも言える事でしょう。ですがなぜそのような質問を?」


 曇りの無い瞳でそう語る黒子お嬢さんからは、一切の嘘を感じられなかった。

 そうか、そう言ってくれるのならば、あとは彼女の言葉を信じてみるだけだな。


 俺は後ろで隠れているであろう紅葉に合図をして、姿を現すように合図を出す。

 すると、息を呑む音が聞こえて来た。

 まあそりゃあ驚くよな、こればかりは仕方がない。


「んむぅ。久しぶりなのじゃ~」


 紅葉はちらっ、ちらっ、と若干ビビりながら相手の様子を窺う。

 相変わらずのビビリ具合だ。

 本当にブレないなこいつ。


「…………っ!」

「これが今の質問の正体です。どうしようもない敵対的な妖怪を退治するのは致し方ありませんが、今の紅葉には害意も敵意もありません。その証拠として、こいつは俺と出会ってから今まで一度も悪さをしませんでした。……先ほどの言葉が真実であるのならば、こいつの境遇を少しだけ受け入れてやってくれないでしょうか?」


 目を白黒しながら驚きの表情をする様を見ていると申し訳ない気持ちになるが、いつか分かり合わなければいけないタイミングというのはある。

 今回はそれが今だった、という事だ。


 まあ一般的に受け入れる体制を作るのは無理だろうから、まずは黒子お嬢さん個人の範囲になるけども。




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