異能喫茶計画
アプリからのプレゼントを受け取り、疑問の一つが解消したところでふと次元収納しているミゼットの事が気になった。
紅葉はいつも通り部屋で取り出すにしても、ミゼットまでこの世界に取り出しても良いものなのだろうか。
なんというかこう、外来種の持ち込み的なあれが心に引っかかる。
明らかにこの世界の住人と戦闘力が違うし、剣を持っている時点で銃刀法違反だしな。
しかしその選択はあまりにも信用していない事に繋がるし、俺を信じて現代を捨て未来へと付き添ってくれた彼女に申し訳が立たない。
故に諸々の問題は一旦棚上げにし、いずれ次元収納から二人を取り出す決意をする。
そう、いずれだ。
すぐにやるという訳ではない。
そもそも現在のアプリは機能の殆どを使用禁止にされているので、やるにしてもそれはだいぶ後になる訳だけども。
ここらへんは仕様なのでしょうがない。
途端にやる事の無くなった俺はひとまず会社に出社する事にして、未だ計画段階であるウチの新事業、この世界の異能者向けにオープンする予定の異能喫茶計画の確認を急ぐ事にした。
喫茶店の従業員は決まっていないが、計画そのものは黒子お嬢さんの友達である西園寺さんに丸投げしていたので、ある程度の進展はある事だろう。
彼女は学生でありながらも裏社会を牛耳る秘密結社の構成員の一人らしいし、歳に似合わず中々優秀だ。
実際に会社を買収した時の手際は見事だったしな。
他にも優秀な大人が幾人もバックでサポートについていたのだろうけど、それを踏まえても才気溢れる若者だと思う。
そして新事業の確認のために出社すると、社長室では黒子お嬢さんと西園寺さんが新任の社長となった男性と共に会議を開いていた。
恐らく議題は今俺が考えている新事業についてだろう。
西園寺さんはウチにどっぷり関わっているから分かるけど、あくまで裏から仕事の斡旋を頼んだだけの戸神家の人がなぜここに。
疑問は尽きないが、どちらにせよ異能喫茶では広告塔となる人物が居た方がいいので、こうして大御所が見聞きしてくれるのは有難い事なんだけどね。
「あ、斎藤様! 西園寺さんから聞きましたよ、異能者向けにアイテムを販売する喫茶店を開くそうですね?」
「ええ、そのつもりです。まだ計画の段階ですが、俺が秘蔵してあるアイテムは多岐に渡りますので。日々危険な仕事を請け負う異能者達に対し、何か手助けになれないかと思っています」
実際の理由はアイテムクリエーションで作った武器や防具に対し、どれだけの効力を地球人に対し発揮できるか、という実験も含まれているんだけどね。
まあ、他にも復活が近いとされる九尾関係の依頼で少しでも安全を確保できればとか、異世界産のアイテムはボロ儲けが出来るとか色々あるけども。
という事はそうか、つまりこのアイテム云々に関して興味を持ったからこそ、戸神家が出張って来た可能性もあるな。
こうして興味を持ってくれるのはこちらの利益にも繋がるし、お互いに得をするから大歓迎だ。
しかし、それだけでは説明がつかない所もある。
確かにちょっと風変わりな企画ではあるけど、喫茶店では手持ちの品しか提供する事はないので、会社単位で見た時の純利益はそれほどでもないはずだからだ。
その上で、あの戸神家が一枚噛むとなると一体何が目的なのかと邪推してしまう。
アイテムの品に興味を持ったというだけでは、少し説得力が弱いんだよ。
まあ実際のところは聞いてみないと分からないけれど。
「とても素晴らしいお考えだと思います。実はその件で私の家にも一枚噛ませて頂きたいのですが可能でしょうか?」
「と、いうと?」
「いえ、そのですね……。ご迷惑でなければで良いのですが、斎藤様の案で立ち上がったその喫茶店に、私を臨時の従業員として置いて欲しいのです」
多少もじもじしながら黒子お嬢さんが答える。
ふむ、従業員ね。
いや確かにだいたい予想通りの反応ではある。
その件については先ほど考察した通り、広告塔として十分な働きになる戸神家の参加は嬉しいので問題はない。
だが、この話では肝心の目的が見えてこないのが気になるな。
仕方ない、このままでは埒が明かないので直接聞くか。
「こちらは歓迎できますしメリットもありますが、そちらのメリットは何でしょうか? こう言ってはなんですが、俺の考えている喫茶店など所詮は個人レベルの収益の域を出ません。そこに大御所である戸神家のお嬢さんが関わって来るとなると、何かしら相応のメリットが必要だと思うのです。……お聞かせ願えませんか?」
彼女が俺に好意を抱いているのは勿論分かっている。
だが会社の運営に対し、このお嬢さんがそれだけで動くような短絡的な人物でない事もまた分かっているのだ。
個人の感情に対し、それを優先すべき事とそうでない事の分別は出来ているはずだからね。
それでも尚食って掛かるというのだから、そりゃあ気になるさ。
「はい。私的な感情はさておき、勿論理由はあります。……最近九尾の封印が緩み始めているのは斎藤様もお気づきかと存じますが、その件で既に二尾から先の封印がいくつか解けてしまっているのです。現在は消息を追っている最中ですが、あの妖怪たちは隠れるのが上手く中々足取りを追えませんでした。なので……」
ああ、なるほど。
だから強力な異能者である俺とすぐにコンタクトを取れるよう、臨時で喫茶店の従業員になりたいと。
確かに同じ場所に居座るならばその方がいいだろう。
それに、この件を多少強引に食い込ませてきている所を考慮すると、既に時間的な猶予はあまりなく焦りが出始めているのかもしれないな。
そうでなければこの話を持ち出すことは無かっただろう。
しかし話を進めておいて申し訳ないのだが、俺もずっとその営業に携わる訳ではない。
こう言っては何だが、店を任せられる程信用のおける従業員を得るまでは、常時開店はしないつもりだ。
異世界に行っている間は店を閉める事になるだろうし、すぐにコンタクトを取ろうと思ってもこちらに居ない事の方が多いんだよなあ。
さて、どうしたものか。
少し考えて、結論を出す。
「……従業員の件は構いませんが、店に関しては常時開いておく訳にもいかないのですよ。これは俺の秘密に関わる事なのでここでは申し上げられませんが。……そうですね。明日、自宅に戸神さん一人でお越しになって頂ければ、そこで多少真実をお話しましょう」
本当は自力で気づいてもらうまで話さないつもりだったのだが、致し方あるまい。
向こうも時間がないようだしね。
といっても、まず話すのは異世界の事ではなく紅葉の事だけだ。
半分真実を話しているようなものだが、彼女達の事を受け入れる器が無いようであれば、こちらも協力する事はできない。
後の事はその時の様子を見て決めようと思う。




