ストーリーモード2
本日5話目
なんだここは、いったい何が起きた?
俺はあたりを見回すが、周りには異常にでかい木が鬱蒼と生い茂るばかり。
え、さっきまでゲームしてたよな。
あれ?
「まだ30代なのにボケたか? いや、無いだろ……」
さすがにボケるには早い、無理がある。
そんな事を考えしばらく放心しボーっとしていると、突然ポケットがブルブルと振動し始めた。
「あ、スマホが鳴ってる……」
誰もポケットにスマホがあるとは言っていないが、俺はついつい社畜の本能で上司から電話がかかってきたと錯覚し、ポケットからスマホを取り出し画面を見る。
するとそこには見慣れた惑星のホーム画面と、あのゲームのメッセージが表示されていた。
【ストーリーモードを開始しました。創造神の分身となる肉体能力の状態確認、及びストーリーモードでのアプリ機能をご案内いたします】
タップして続きを見ると、自身のストーリーモードで使用するキャラクターの能力値やスキルが『ステータス画面』として確認できる他、惑星を俯瞰した世界地図としての機能、アイテムボックスのような次元収納機能がスマホに搭載されているらしかった。
なるほど、便利だな……。
これならここがどこかもすぐに分かるだろう。
「って、違うだろ。そういう問題じゃない、なんでこういう状況になったんだ?」
誰かのドッキリにしてはあまりにも超常的すぎるし、ステータス画面に映る俺の姿はまるで俺の10代の頃のような────。
「って、よく見たら俺の手足めっちゃ縮んでる!?」
驚いたことに、俺は10歳の少年時代にまで肉体が若返っていた。
あまりに仰天しすぎて、開いた口が塞がらない。
心臓がバクバクと煩いくらいに動き、冷や汗がじわりと滲み出る。
まさか、いや、そんなまさかな……。
いや、だが……。
思考がフリーズしかけた俺は、何を考えたのかおもむろに近くの石ころに向かってスマホを掲げ、『収納』と言葉を発した。
すると俺の嫌な予感通り、スマホは地球の科学では到底成し得ないような摩訶不思議なパワーを使い、石ころを目の前から消し去った。
おそらく、スマホによって次元収納の中に格納されたのだろう。
「うわマジかよ……。だが、これでハッキリと分かった。これ、ゲームの中だわ。それもたぶん、俺が創造した惑星の大地、だな……」
うわぁー、もう驚きすぎて何も言えないわ。
だが現実として、今俺は【ストーリーモード】とやらでアプリで作った惑星の中にいる。
若返ったこともそうだし、スマホのメッセージもそうだし、この不思議な力にしたってそうだ。
証拠はいくらでもあるからな、言い逃れできない。
俺はこれが現実か夢かなんていう無駄な脳内論争はせず、意識がハッキリしている以上まごう事なき現実として認識することにした。
正直、驚きのあまりまったく実感はないが、そういうことなのだろう。
「そういえばログアウト、ログアウトはできるのか?」
【ストーリーモード】の状態である以上、その状態をやめることもできるはずだ。
俺は震える指で必死にスマホを操作し、ストーリーモードをタップすると、そこには【ログアウト】の文字が灰色の状態で表示されていた。
まあ、タップしても現状は【ログアウトできません!】というエラー報告がでるばかりなので、今この機能は使えないようだが。
だが良かった、ログアウトという概念はあるらしい。
「……いや、良かったのか?」
そういえばこちらとあちらでは時間の流れも違うし、こちらで何年生きていても向こうじゃ1日しか経っていない、なんてこともあるはずだ。
そもそも現実世界に戻っても俺はまた会社に向かい、社畜として余生を終えるだけだろう。
そう考えると、これはまたとない休暇のチャンスなのでは、……と、俺は考える。
「そうだよ、休暇だよ。前々から怪しいアプリだとは思っていたが、まさか本当に異世界を創造するアプリだったとは……」
なぜこんなアプリが俺の下へと渡ったのかは今のところ手がかりはないが、実際に遊べちゃったのは事実だし、アプリで星ひとつ作ってしまったので仕方ないから運営する他ないだろう。
まあ、なるようになれだ。
俺はこの世界を生きることに決めた。
「とりあえずの目標は、人里に辿り着くことだな」
見たところ少年時代の体格に合わせた異世界風の衣装以外、特に手荷物はない。
もしかしたら武器があるかもと思い、スマホの次元収納を確認してみるが、期待に反して先ほど収納した石ころしか入っていなかった。
いや、これでどう戦えと。
自分で創造しておいてなんだが、この世界ヤバイ生物なんて腐るほどいるんだが……。
不親切にも程があるだろ。
余談だが、現在俺の所持しているスキルは【戦士】の身体強化、【神官】の回復魔法、【錬金術師】の鑑定だけである。
職業レベルが上がれば使えるスキルと魔法も増えるとは思うし、スキルの効力も強くなると思うので、そこらへんは鍛え続けるしかない。
たぶん戦ったりするとレベルが上がるんじゃないかな。
実際石を投げたり、そこらへんの木の枝を振り回してみると、子供が投げたにしては石は遥か彼方に飛んでいくし、木の枝を武器として扱う時の感覚もなんとなく分かる。
身体能力もそうだが、運動神経もまるまる良くなっているようだ。
さすが戦士、特定の戦闘スタイルに特化していないが満遍なく肉体性能が高い。
これもスキルの影響かな。
そんなことを思って軽く枝を振り回していた時、後ろでガサリと音が鳴る。
見るとそこにはゲームでいうところの角あるウサギ、のような生物が威嚇していた。
かわいい。
「……スキルの使い方はなんとなく理解できるな。よし、鑑定!」
【ホーンラビット】
よわい。
え、それだけかよ!?
もっとこう、アプリの時みたいな細かい説明とかないの!?
そもそも弱いってなんだよ。
目の前の俺に対して弱いのか、この世界の標準的な生物より弱いのか、それすらも分からないんだが……。
鑑定無能すぎない?




