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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界でのんびりアイテム作り生活を始めます

作者: いかぽん

「はぁ……もうやだ、死にたい」


 電車のホームである。

 今日も今日とて残業上がりでくったくたに疲れた私は、ビジネススーツ姿で電車待ちをしていた。


 現代日本はどうしてこう、地獄のようなんだろう。

 働けど働けど上はどんどん無茶ぶりばかり下ろしてきて、現場は常に大パニック。


 ぱにぱにぱに、ぱーにぱにぱにぱに、ぱぱぱぱー♪

 セクハラ部長はそのうちぶっ殺ぉ~す♪


 ……ダメだ、思考までイカれてきている。


 ちなみに、残業代はもちろん出ません。

 はい、今更ですね。


 私がそんなことを考えていると──


「あぁん、なんだとテメェ」


「周りの迷惑だからやめろっつってんだよ!」


 ああ、今度は酔っ払ったおっさんと、正義感に燃えた若い兄ちゃんが喧嘩をし始めたよ……。

 あんな正義感、私にもあったなぁ……だいぶ昔には。


 もうそんなものもすり減って、めんどくさいから諍い事はやめてほしいなぁぐらいにしか思わなくなってしまった、そろそろアラサーの私。

 人として完全に終わってる。


 ちなみに家に帰っても、築ウン十年のボロマンションの誰もいない一室で、一人寂しく寝るだけだよ♪


 親からの「誰かいい人いないの?」とかいう類の鬱陶しい小言が嫌で、一人暮らしを始めたのはいいけれど。

 仕事して、帰って寝て、仕事して、帰って寝て、仕事して、寝て、仕事して、仕事して、寝て、仕事して……。


 そんなずぅっと灰色の毎日。

 パト〇ッシュ……私もう疲れたよ、生きるのに……。


「はぁ……むしろ死んで異世界に行きたい……」


 私はそんなことを思いながら、手慰みにスマホをうにゃうにゃと弄っていたのだけど──


「テメェに何が分かるってんだのやらあっ!」


 ──ドンッ。


「えっ……?」


 そのとき私は、何が起こったのか一瞬分からなかった。

 背中に何かがぶつかってきて、私はホームから突き飛ばされていた。


 ……うん、つまりこういうことだろう。


 おっさんか若いのかどっちか知らないけど相手を突き飛ばして、その突き飛ばされたほうが私にぶつかって、ビリヤードかって具合に私が玉突きで──


 ──ファアアアアアアアアン!


 そのときちょうど、電車がホームに滑り込んできて──


 ……あ、終わったわ、これ。



 ***



 さすがにね、あんまりだと思うんですよ。


 確かに私は死にたいって言いましたけど、いくらなんでももうちょっとこう、いいこととかあってもいいと思うんですよ。

 ね、そう思いません?


 ……とか何とか、女神様に愚痴を言ったような記憶がそこはかとなく……女神様?

 あと、チートとかいらないから豊かでのんびり暮らせる異世界がいいとかも言ったような……。


 いかんいかん、記憶が混乱してるぞ。


 まあ、ともかくアレですよ。

 次に意識を取り戻した私は──


 その目の前一面に広がった草原を見渡して、ぽかーんとするわけです。


 …………。


 草原だよ、草原。

 ぶわーっと広がる草原で、遠くのほうには山とか街とかが見えて。

 空は青くて、お日様はぽかぽかで、白い雲がぷかぷかと浮かんでいて──


「えっと……異世界、来ちゃった?」


 こてんと首を傾げた私なのです。



 ***



 さて、ここからダイジェスト。


 異世界に行きたいとは言ったかもしれないけど、実際に来てしまったら途方に暮れるわけで。

 さすがの私も、最初はどうしよう、どうしようとなりました。


 でもまあ、やってみれば意外となんとかなるもので。

 というか、どっちかっていうとイージーモードの異世界だったみたいで、それなりにあっさりと生活ができてしまったわけで。


 まず、街が見えたから行ってみたら、街の中には冒険者ギルドというのがあって、そこに登録したら冒険者というのになれた。


 ちなみに言葉は日本語じゃないけど、普通に喋れたし聞き取れた。

 不思議不思議。


 あとあと、どうも私の容姿は日本にいたときとは違っていて、こっちの世界では背が小さくて可愛らしい金髪碧眼の美少女~になっていた。


 十代中頃を少し抜けたぐらいのピッチピチです。

 ピッチピチ。採れたてのお魚さんもびっくり。


 まあ私の場合、魂が美少女だったからしょうがないかな、みたいな?

 ……や、ごめん、待って、行かないで、冗談ですから。


 それはさておき。

 えっと、そう、こっちに来てからの生活の話だ。


 そうして冒険者になった私だけど、冒険者って何をするお仕事なのか。

 これはものすごく簡単に言うと、街の外でモンスターを退治する仕事だ。


 この世界では、街の外ではときどきモンスターに出遭う。

 これを、初期装備よろしく持っていた「棍棒」でぽかぽかって殴って倒すと、モンスターはパッと消えていなくなって、そのあとにはたまに「ドロップアイテム」っていうのが落ちる。


 それを拾って街の冒険者ギルドまで持っていくと、いくらかのお値段で買い取ってもらえる。

 ポヨンっていう一番弱いモンスターが落とす「ポヨンの核」だと、ギルドでの買い取り価格は20ゴールドだ。


 ちなみに1ゴールドの価値は、だいたい百円ぐらいみたい。

 街にある冒険者用の安宿が、一番安い個室で素泊まり一泊20ゴールド。

 大衆食堂でお食事すると、一食あたり5ゴールドから10ゴールド前後ぐらい。


 だからまあ、一日40ゴールドぐらい稼げれば、どうにか最低限の生活はしていけるかなっていう感じで。


 私はそんなわけで、街の近くの草原で、ポヨンを狩って狩って狩りまくった。


 ちなみにポヨンっていうのは、抱えるぐらいの大きさのゼリー状のモンスター。

 いやあれはゼリーっていうより寒天ぐらいのものか。


 ぷるんぷるんしていて、一見可愛らしくも見えるのだけど、油断しているとミサイルみたいに突っ込んできて手痛いボディブローを食らわせてくる。


 可愛らしさに騙されてはいけない。

 そう、あれは憎き敵、倒すべき敵なのだ。

 あのときは痛かった……痛かったぞぉーっ!


 ……と、失礼、ポヨン狩りの最中にあった嫌なことを思い出してしまいました。


 ちなみにどのぐらい痛いかっていうと、1レベルだった頃の私の最大HPが30だったところ、2点とか3点とかダメージを与えてくるぐらい。

 結構バカにならないのであります。

 1レベルで三体と同時にやり合おうとした、あのときの私はバカだった……。


 あ、そうそう。

 レベルとかHPとかステータスとかあるんですよ、この異世界。

 力がいくつで、素早さが、打たれ強さがとか、そういう。


 武器とか防具にも、攻撃力とか防御力とかあって。

 私が最初に装備していた「棍棒」だったら攻撃力に、「布の服」だったら防御力にプラスいくつ付きますよ、みたいな。


 まあ、そんなこんなで最初はポヨン狩りに精を出して生活していた私だけど。


 一ヶ月近くもそうして生活していたら、この間ようやく3レベルになって。

 さらにお金を貯めて買った「ショートソード」っていう武器の威力もあって、ポヨン狩りもずいぶん楽になりました。


 ていうか、聞いてくださいよ奥さん。

 「棍棒」だったら二、三発は殴らないと倒せなかったポヨンが、「ショートソード」を装備したらなんと一撃ですよ、一撃!


 300ゴールドなんて大金をはたいて買った甲斐があったってものですよ。

 今だったらポヨン三体同時もドンと来いだね。


 で、このぐらいになってくると、冒険者は普通パーティを組んでダンジョンに挑んだり、それでもなければもう少し強い敵の出る森とかに行くようになるものらしい。


 でも私はその前に、興味を持っていたことがあって。

 何かっていうと、“アイテムクリエイト”というスキルだ。


 レベルが1上がるごとにスキルポイントっていうのを1点だけもらえて、それを使って「スキル」を修得できるんだけど。


 その“アイテムクリエイト”のスキルを取ると、いくつかの素材──ドロップアイテムとか、フィールドに落ちているアイテムとか──を組み合わせて、何らかのアイテムを作れるようになるらしい。


 私はスキルポイントをずっと温存していたのだけど、修得に5点のスキルポイントが必要な“アイテムクリエイト”を、このタイミングでポチッと修得したのだ。


 ちなみに1レベル段階でスキルポイントは3点あったの。

 それに+2レベルで、5点。


 それを全部使い切った。

 やってやったぜ私。


 そして、その夜の宿の自室。

 街の図書館にあった『アイテムクリエイト大全』っていう本に書かれていた通りに素材を用意して、床に置くと──


「──アイテムクリエイト!」


 私は用意したアイテムに向けて両の手の平を突き出し、スキルを使おうと意識を集中する。


 すると、私の手から光が出て、二つのアイテムを包み込み、それが合わさっていく。


 光がやむと──

 そこにあった「ポヨンの核」と「癒し草」がなくなり、一つの飴玉みたいなアイテムが出来上がっていた。


「おおっ……!」


 私はそれをつまんで、まじまじと見る。

 これは道具屋で売っている、あのアイテムに違いない。


 私は翌朝、道具屋に行って、店主さんにそのアイテムを買い取ってほしいと頼んだ。

 店主さんは何か虫メガネのような鑑定用のマジックアイテムを取り出し、それをチェックしていく。


「これはヒールドロップだね。60ゴールドでよければ買い取るよ」


「いよっしゃ! ……じゃなかった、お願いします!


 私は自分が作ったアイテム──ヒールドロップを渡し、60ゴールドを受け取ってルンルン気分で道具屋を出た。


 冒険者ギルドに買い取ってもらう場合、「ポヨンの核」は20ゴールド、「癒し草」は10ゴールドだ。

 それがスキルを使ったら、60ゴールドになった。


 ちなみに「癒し草」というのは、街の外の平原にたまに生えている「フィールドアイテム」だ。

 モンスターを倒さなくても手に入るアイテムなので、見つけたらラッキー系だけど、それでもちょいちょい見つけられる感じ。


 まあ、いずれにせよ──


「くうぅっ……!」


 まだ地味だけど、全然地味だけど。

 たった30ゴールドの価値だけど。


 でもなんか、手に職を持ったって感じで、すごく嬉しい。


「よっしゃーっ! これからバリバリ作るぞーっ!」


 街の大通りでそう叫んだ私は、周囲の注目を浴びてしまってすみませんすみませんと頭を下げる。


 スキル“アイテムクリエイト”には「熟練度」があり、このスキルを使ってアイテムを作れば作るほど熟練度を得ることができる。


 熟練度が上がれば、作れるアイテムの種類が増えたり、場合によっては作ったアイテムの品質がランダムで上がったりすることもあるらしい。


「んっふっふ~♪」


 含み笑いが出てしまう。

 周囲の人たちに気持ち悪がられている気もするけど、気にしない。


 さあ、これからが楽しみだ。


 私は新たな素材を得るために、スキップで街の外へと出ていくのだった。


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[良い点] 異世界ファンタジーの王道ですね。とても読みやすくやすく、入りやすい、続きが楽しみな、「ごちそうさまです」な小説ですね。 数ある投稿サイトに「教科書」として展示して欲しいものです。(私、小説…
[良い点] 面白かったです。 続編、期待しています。
[良い点] 合成生活楽しそう(´・ω・`) [気になる点] 続かないのかなぁ…
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