いかに暇人から脱出するか
序章終了。数話は本編に繋ぐ章にしまっせ。
「……チ。おい、キクチ。キクチ!」
気が付いたときには気を失っていた。一体誰だろうか。
今、キクチは倒れているらしいと分かった。どうやらここはさっきまでいた場所とは違うらしい。下を見ると床の材質や色は同じなのだが、レジや荒れきった陳列棚が存在している。そして天井が先ほどいたであろう場所より若干低く、つまり。
「タカタ。大丈夫か」
「それはお前に言いたいところだがな。さっきまでアメルバって女が話していたよな」
キクチはちょっと待てと言わんばかりに腰を上げ、タカタに述べた。
「お前もあの変な部屋にいたのか。そうでよかった」
「今回は起こしたほうが逆だなあ、あのときはキクチに起こされる屈辱でやるせない怒りが込み上げてたんだよなあ」
「 つまりあれは夢じゃなかったのかな」
「でもさっきまでつけていたWRJN?がなくなってるじゃんか。タカタ氏とお前で同じ夢を見させられた説も否定できないじゃないかよ」
「ほうほう。でもその真偽は八月一日に判明するから問題ないだろう」
「そうだけどなあーーー」
「暇になるぞ、キクチ」
「あ」
そうあって欲しくない。きっとあれは夢だ。CRJN起動!インターネット検索じゃーーとキクチはネットを起動しようと………
【警告、警告。インターネット使用はできません。直ちにアイコンを閉じてください。繰り返します……】
キクチの脳内に、すぐさま警告音が鳴り響いた。
「詰んだねえ。ネットが開けない」
「まじか。それだけは聞きたくなかった」
もうこれは夢なんかではなくなっていた。アメルバの宣言通り、インターネットの使用はできなくなっている。
「これはもう生きる気失せる……ネットがない生活なんか考えられない」
「どうしようかな」
あそこにいたのは一時間もなかったはずなのに、明るかった江ノ島も空を赤く染めて、一日の終わりが少しずつ近づこうとしていた。
「何もかも終わったなあーなんで生きてんだ」
「病むな」
「………帰るか」
「そうだな。生きてる気がしない」
二か月間もネット使用が不可能、なのに家に引きこもっていたら暇になるのも当然のこと。いまやCRJN中毒者かつネットにおいても中毒者の二人にネット禁止を言い渡されれば、うずうずして暇を持て余すなんてことは容易に予想できる。しかし何をすればいいのか―――――
帰り道、生きる価値を失いかけつつも、藤村ゲーム店から出て一分もしないうちに、タカタはひらめいた。
「これだ!」
タカタは人差し指を江の島展望台に指した。
現在江の島展望台はインテリジェクトヒューマン社によって買い取られ、江の島支部として職場となっているのだ。ここは江の島支部。インテリジェクトヒューマン社がここを買い取ったのは2030年とわりかし最近のことである。
「おい、ここで働くっていうのか」
「当たり前だろうが。絶対お前とか一か月間も暇持て余したら廃人確定な」
「何もいえねえこと言うなって。確かに否定しがたいけどさ。就職ってそんな簡単にできるかよ。ていうかたった一月間でだぞ」
「それがな、意外とそんなことなかったりなんだぞ。お前や俺みたいな職に就こうといない人が増えてるってよくネットニュースで騒がれてるじゃねーかよ」
「行くか」
暑さに耐えながらも二人はぼちぼち江ノ島展望台を向かうことにした。善は急げだ。
今や就活なんて言葉を耳に挟まない時代であるから、履歴書等々を自宅から送信して、自宅で面接が一般的。なかなか現地に足を運び、ここの会社に入りたいというのはかなり少数派だ。
しかし、たかが一ヶ月でやめてしまう身が、面と向き合って試験を受けないのは、大手のインテリジェクトヒューマン社に失礼だろう。そうタカタが考えていたからだ。
「ついた〜」
改装され、原型をとどめていないようにも思える、【インテリジェクトヒューマン社江ノ島支部】。自動ドアをくぐれば、もう社を案内するとロボットが待ち受けているのだ。
そこで面接を依頼した二人は。
見事インテリジェクトヒューマン社の社員として働くことが決定した。
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