CRJN
CRJNとはなんでしょうかね。
CRJN と名前だけは新しいが、実際そこまで優れたものではない。スマートフォンの延長線上に出来たようなものだ。
CRJNは脳に埋め込むものが始まりだったが、今はカプセルにはいった【生命体CRJN】さえ口から飲み込めばいいタイプになっている。これは、自分の想像力が試されるもの―――といっても過言ではない。
機能に関しては、スマートフォンすれさえすればと変わらないが、スマートフォン本体と同期さえすれば、本体を持っていなくても、CRJNで事足りるのだ。頭の中で、「起動せよ」などと言えば操作ができる。難点は、昔のゲームのように指を前に差し出せば画面が目の前に表示されるわけではなく、全て自分の頭の中で【想像】しなければならないこと。なかなか同じ画面を維持することや、様々なアプリケーションを同時に開いておくのに難しさを感じ、旧型のCRJNを埋めた人の多くは金をどぶに捨てたと同然であったといえよう。現在のCRJNは随分と昔のCRJNより簡単なそうだが(キクチは新型)、それでも難易度は高い。
そしてなんといっても、料金が高い。ひとつ一五〇万円はするらしく、庶民のキクチらには指をくわえてみる事しかできない代物のはずだが……キクチはなぜか運試しで応募した懸賞に見事当たり、CRJNを持つ上級階級にのしあがったのだ。
しかしキクチは当たったCRJNを飲み込み、さて使おうとしたら否や、初期設定で戸惑ってしまった。何にせよ、スマートフォンの機能を自分の脳内でこなせてしまうCRJNだけあるから、仕方がないのだが。程なくして家電量販店に駆け込んだキクチではあるが、店員もCRJNの取り扱いに慣れていない様で、キクチの大事な大事な休日をほぼ使い果たす結果となってしまった。ゆえにキクチはもうCRJNにはいいイメージが全くないので、残念ながらCRJNはまだ日の目を見ていない。
さて、キクチは今日も普段のように堕落しきった生活を送っていたが、少々困ったことが起こった。パソコンのバッテリーが切れてしまったのである。長い間読んでいた小説の最終回を読もうと、パソコンを立ち上げたとき……寿命が来てしまった。誠に残念ながら。
別にキクチはCRJNがあるのだから、(スマートフォンは行方不明)それで見ればいいのだが、CRJNへのトラウマと想像力がやましいこと以外働かないことを言い訳にし、キクチの思考回路がパソコンを直すしかないと結論付けたらしい。
キクチは蒸して、さらに燃える暑さの中、田村電機に向かうことにした。
田村電機に着くと、キクチは驚きを隠さずにはいられなかった。
キクチは引きこもり生活のため、ここに来たのは五年ぶりだろうか。学生時代、技術系の趣味を持っていたから、お世話になっていた時期はほぼ毎日通うほどだった。そこでこの店をあてに来たのだが……
最後にこの店に来た時、販売日のの前日からわざわざ買った4GSのRPGがあったコーナーは跡形もなくなり、時の流れを感じた。今では珍しい、電機店のみで構成される四階建てのビルの最上階にあったパソコン販売コーナーに向かうものの、数年前に場所が前のゲームコーナーに変わっていたので、また一階に戻る羽目になった。本当に小さな一角においやられていたから、気づけるわけがない。
五分弱かかってやっとたどり着いたパソコンコーナー。早速店員に尋ねる。
「あの、僕のパソコンを直してほしいのですが……」
と言うと、店員はCRJNの初期設定を持ち掛けたときの別の店員のように困った顔をし、少しフリーズしてから口を開いた。
「パ、パソコンですか。一応パソコンコーナーとは名乗っているものの、基本CRJNの販売をメインに行っているんですよ」
パソコンコーナーと書かれた看板に目を移すと、確かに小さな文字で【CRJN販売コーナー】と書いてある。ああー、と納得した声を出すと、店員は苦笑して続けた。
「でもきちんとパソコンの技術者もおりますから。少々お預かり致します。三十分ほどお待ちください」
三十分か。短いと捉えてもいいかもしれない。でも、パソコン以外持ち合わせがないキクチは、暇を持て余すことになった。少し店内を歩き回ってみたりするのだが、それでも十分しか経っていない。
キクチは仕方なくベンチに腰を掛けることにした。引きこもりの身だから、たかが十分の散歩でも疲れてしまうらしい。そこでふと、キクチはあの事を思い出した。CRJNだ。キクチはほとんどCRJNを使ったことがない。しかも自力で起動したこともゼロ。それでも暇に耐えられそうにないので、キクチは不可能を可能にしようと試みた。CRJNの起動。
少しキクチは前に家電量販店の店員にレクチャーしてもらった(説明書をオウム返ししただけの)方法で、起動せよ、と脳に念じる。
勉学に勤しんでいるので、一回に千文字~二千文字が限界、そして週一回くらいの超・スローペース投稿ですが、どうか、ポイントを、どうかポイントを入れてもらえると嬉しいです。
次回、キクチに何かが起こります。話の本質に触れるのはまだ先です。