第一話 キクチの布団から
ん。なんだか体が痺れるような感覚に陥った。今日はせっかく日曜日でゆっくり眠れるはずだったなのに。なーんなんだよ……あっ、そうだった。昨日買った最新型目覚まし時計、【二重振動型目覚時計】(ダブルバイブレーションウェイクアップクロック)のせいか。
実際に目覚まし時計が揺れているのではないが、この超軽量型目覚まし時計から発せられる電磁波が脳に直接体が震えるように感じることで自分はてっきり目覚ましが振動したのかと二重に錯覚してしまう代物ってわけだ。
これはインテリジェクトヒューマン製のもので、結構安くなっていたからつい注文してしまったのだ。体に悪そうな気もするが、朝寝坊が多い自分にとっては悪くないと、実験的に鳴らしてみたわけなのだ。
かなりバイブレーションがきつめで、目はパッチリ覚めてしまったから、ゆっくりと布団から出て、【トーマ】に話しかけた。
「おはようトーマ」
「お早うございます、キクチ ケンジさん。何か御用ですか」
動きも喋りもぎこちないトーマだが、自分はあいつのことが結構かわいいと思っている。一人暮らしをするのに、一人では寂しくなるだろうと思っていた矢先、かなり古めの二〇二二年製の簡単な会話機能付きのミニロボットをゴミ捨て場から発見し、そいつを勝手に自分が飼い始めたのだ。長い間雨風にさらせれていたのと前の飼い主が使いこんでいたらしく、ボディは錆ついて、お世辞にもきれいとは言い難いものだ。
他のロボットを買ってもよかったが、トーマから放たれる愛らしさのオーラが漂っているロボットはないだろうから、機能は悪かろうと、大事に飼っている。他のロボットを買うだけの財力がないというのが本当の理由なのだが。
「おお、トーマ。今日の天気と気温」
「かしこまりました……天気は晴れ・最高気温は三九度でしょう。今日も数々の注意報が発令されているので、外出は避けておいたほうが良いでしょう」
「センキュー、トーマ」
「いえいえ」
まだ六月だが、この気温じゃあ俺の子供時代の夏とほとんど変わらない。ここ数年、真夏になると気温が五十度近くまで上がる地域が日本でも出始めたり、冬ではここ東京でも氷点下を軽く下回ったりする。ずっと危惧されてきた異常気象、いや超・異常気象ってところか。
だから俺みたい一年中ほとんど引きこもってしまう人が増えるわけだ。それで家で働こうとしても【ゲーム禁止法】によって家で働ける仕事のほとんどが禁止されているから、不可能だ。一日中やることもなく、資源を無駄にするような生活が続く、地球温暖化進む……なんて悪循環なんだ!
【ゲーム禁止法】を違反してゲームをしようしても、五年前に国の特別機関によってすべてのゲームが回収・削除されてしまったから、どうしようもない。
そこで暇つぶしに最適なのがトーマ。かろじてトーマのじゃんけん機能としりとり機能はゲームではないと認めてもらい、唯一遊べているから、これで午前中をつぶすこともたびたびだ。午後はひたすらネットサーフィンで食料を通販で調達・ネット小説を読み漁るというのが日課。【ゲーム禁止法】と同じ二〇二五年に環境保護のためと言って紙の本や雑誌の販売が一切なくなってしまった。それだから、本好きの自分は新しい本が読みたかったらネットしかないわけだ。
午後に突入して現在パソコンで小説を読んでいるのだが、この時代にパソコンはかなり古い。三年後にはパソコンの全サービスが終了してしまうし、ほとんどパソコンの販売はされていない。
現代の情報ツールといえば、自分の体にICチップを埋め込んで使う【クリネイション・ネクストジェネレーション】(そうぞうする次世代)、略してCLJNというツールが一般的だ。




