最終回
これをもってこの作品は完結です。
気が、鏡に当たる。
そして。
跳ね返った。
みるみる紫がかった気は、ゾンビの方へと戻っていく。
気はゾンビを包み込み、一瞬にして、ゾンビを消滅させた。音は無かった。
その代わり、ゾンビが光となって消えていくのは見えた。
「やったね」
「ああ、やったよ」
しばらく、沈黙が続いた。
「あ」
ミヤシタが突然声を上げた。
「どうした?」
「わたし、不正解ってなんなのか、少しわかった気がする」
「どうしたんだよ、いきなり」
よくわからないことをいってくるものだ、とキクチは思う。
「それはね」
「うん」
「勘違いをおこすことだよ」
「え」
彼女はにやりとこちらをむいていった。
「君はこのゲームのログアウトをすることが出来るんだよ」
意味が分からない。キクチはそう思った。
「ミヤシタさん、気でも迷いましたか」
「まだ気づかないの?【ゲーム禁止法】があるなかで、ゲームをしようとしたら、すぐに私たちの会社が突き止めるでしょ」
ああ。あれが検知されなかったのも。ログアウトをしようとし、意識を失ったことも。
「ドッキリ大成功~!!」
どこかで聞いたことがあるようなファンファーレが、脳内に響き渡った。
「我が社のCRJNの精度を上げるための実験に、協力してくれてありがとうね」
「どこからがドッキリだったのか……」
ミヤシタはにやつく。
「君がCRJNを当てたところからだよ」
「そんな、何年も前から」
呆気にとられた顔をみて、またミヤシタが笑った。
「そんなわけないでしょ。君があのメールを開いたときからだよ」
「あのときから」
「不正解からのメールを開いたキクチ君はみごと、ウイルスに感染したわけで。あれが運の尽きだったね」
「全部嘘だったのか」
ああ、とキクチは後ろに倒れこんだ。
「痛っ」
「そんな急に倒れるからだよ」
そういうと、ミヤシタはゆっくりキクチの隣に倒れてきた。
「どきどきする?」
「しないことはないです」
ふふっとミヤシタは笑う。
「私が不正解、という名前で君にメッセージを送ったのはね、あの法律に対する、私の率直な気持ちを誰かに伝えたかったからなんだよ」
「そうだったんですか」
「君も不満はあるでしょ?]
[勿論」
「それを軽々しくいえる居場所がなくてね。誰でもいいから、この思いを届けたかったんだ」
キクチが珍しく、口角を上げた。
「僕はいいと思いますよ」
「そうですか」
「このプロジェクト、【ゲーム現実化計画】が実際にあろうがなかろうが、本当に参加する気でいたし。なんといっても、ミヤシタさんがその気持ちを思い出させてくれたことがうれしい」
「いいこといいますね。キクチさん」
「さん付けはやめましょうよ」
「いつも君がしているくせに」
「あーあ」
ミヤシタさんが背伸びをした。
「これはドッキリだったけどさ」
「どうしました」
「本当にこの計画があったとしたら、面白そうだと思わない?」
「そうですね、是非とも参加したい」
「私」
大きく一息を吸う。吐く。
「この腐った法律、【ゲーム禁止法】を無くしてやりたい!そしてみんなでゲームがしたい!」
腹から声が出ていた。
「面白そうなこと、言うじゃないですか」
「キクチ君」
「僕は、あなたのつくった存在、不正解なんて軽々と凌駕して見せますよ。もっと面白く、もっと踏み込んで、この法律を変えて見せる」
我ながら思い切ったことをいってしまったと、キクチは後悔した。
「いいじゃない。不正解を凌駕するって。面白そうじゃない。やりましょう」
「でもその前にログアウトをしないと、僕の体が」
「その心配はいらないわ。現実世界ではまだ一時間も経っていないわ」
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あ。キクチはログインしたときと同じ姿勢でいた。
夢か。
CRJNを起動する。
その画面には。
警告の表示があちらこちらにあった。
「うわ」
幸い、警告音がなかったものの、動揺を隠せなかった。
「ん?」
あっという間にその画面は消え、一つのウィンドウが残った。
それを見る。
「『不正解』を凌駕する、プロジェクトはじまります」
聞きなれた警告音がなったが、無視して布団の中に入った。
「面白そうじゃねえか」
気持ちに体は追いつかなかったらしい。CRJN内でおこった出来事を思い出し、どっと疲れがでたようだ。
「また頼むぜ、【二重振動型目覚時計】(ダブルバイブレーションウェイクアップクロック)」
タイマーを設定して俺は寝た。これからミヤシタと俺が、世界を変えることを夢見ながら。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。形はどうであれ、この話を完結することが出来ました。いつか続編を書くことがあれば(多分、無い。)
あす(3/5)からいよいよ、新作を投稿します。
じゃんけんをテーマにした、「異世界成り上がりじゃんけんアクション」
となっています。次回も更新はよる10時から11時ごろ。週三-四回を目安に投稿します。
お楽しみに。
よい一日を。




