戦闘開始
久しぶりです
キクチは、やったことがない剣を使った戦闘をする、といってしまったがために少し不安だった。
この世界は、イメージ通りの魔法が出せると分かっている。しかもそのイメージは忠実に再現されるというのも。
それでも、剣を作成するのは初めての試みだ。不安が伴うのも当然。
瞑想モードに入っているから、あとはイメージを思い描くだけだ。
(長い剣、それで切り刻んでみようか)
イメージが出来上がった。それを念じる。鮮明に、鮮明に。
剣が、手の中に入っていく。
「ミヤシタさん、行きます!」
珍しく大声を出したキクチが、戦いの火蓋を切った。それに反応し、包帯の巻かれたゾンビも走り出す。
類人猿とは異なる攻め方だ。
いつの間にか黒い剣が入った。
不思議と重さは感じない。
キクチは走りこむ。ゾンビとの距離をみるみる埋めていく。
歩幅は徐々に大きくなり、勢いもついてきた。
あとは技を繰り出すだけだ。 だが、考える時間もなかった。ただ切り込む、ということ以外は。
走ってついた勢いをそのままに、ゾンビの体を切り込む。その動作に迷いはなかった。
「ゼアアア!」
刃先が食い込む。血は出なかった。だが、切れた感覚は妙にある。
「グアア」
ゾンビの息が荒ぶる。そこまでダメージは与えられていない。
少し弱ったとみたミヤシタは油断しているであろうゾンビの、背中に気術魔法を撃ち込む。
キクチと同様、走りこんできた勢いを生かす。タイミングを見計らって、片腕を後方に曲げる。
その腕を前に繰り出す。
「気術魔法、炎舞」
即興の気術魔法は、背中めがけて飛んでいく。炎が渦巻きながら一直線にゾンビに迫る。
これも当たった。
背中は焼け焦げ、より痛々しく見える。しかし、ゾンビは倒れない。
「ガあアア」
気を体の前に集め、あっという間に巨大なものに仕立て上げた。
「来るぞ」
キクチとミヤシタは急いで距離をとる。
ゾンビは体を回転させる。砲丸投げの要領で、だ。
気はそれによって回転する。回転が回転を生む。
一瞬、ゾンビと彼らで目があった。
来た。
激しく、不規則に回転する気は、よく見ると紫がかっていた。
それは徐々に速さを増す。
「守ります」
ミヤシタは気術魔法を出す。
窓を拭くように腕を何度も振る。すると。
ガラスのような薄く、透明な板がミヤシタとキクチの前に現れた。
「即興で作った鏡です。これで攻撃を跳ね返します」
「正気ですか?」
「いまは緊急事態です」
あの速さの気を、薄い板一枚で跳ね返せるとは考えにくい。
でも、この世界なら。
気はもう目前まで迫ってきた。