インテリジェクトヒューマン社にて タカタ編
こんにちは。
タカタは情報通信部という部署に配属された。表向きにはその名前であるが、裏の名前は【検閲部】。
主にこの部署では、【ゲーム禁止法】による制約の延長で行われている。【ゲーム禁止法】によってゲームに関する情報が全て監視されるようになった。現在はほとんどこの法を犯すことがなくなってきたものの、キクチやタカタが参加しようとしている【ゲーム現実化計画】、(略してGGK)のような、ゲームをしようという企てがないように監視するのだ。
これを【ゲーム禁止法対策委員会】と人は呼んでいる。
活動場所は世間には明かさない。実際はこのインテリジェクトヒューマン社江の島支部の地下で活動している。ひそかに危険人物をチェックし、食らいつく。それがこの部署のやり方だ。
監視、というのは選別された情報の中から(といってもかなりたくさんある)マークすべき事案を人の手によって検討することだ。人工知能が選別した情報が新着順に十個ずつ表示されてゆくのだが、この部署の人数は二十人と充分に人数はいるので、十個あたりに割く時間は二十秒ほどだ。
タカタはこの一か月弱の間に十個の怪しい情報を見つけた。そのうち一件のみ逮捕につながる事案だった。見つけた情報を【怪しいプログラム】のリストに加えることしかしていないので、タカタ自身、逮捕までの流れはあまり分かっていない。
仕事の時間はシフト制で、バイト感覚に近いものだったので、退職は引き止められなかった。本日が最終日である。なかなかゲームに関する有力な情報はいつも通り入っておらず、内職してスマートフォンでネットサーフィンをしていた午後十時頃。タカタは見慣れたモニターから目をそらしたいものを発見してしまった。
「建築物にデータのよう。利用者【不正解】」
タカタの背中に、たらあっと汗が流れるのが分かった。判断基準に沿えば、これはモニターに映し出されたこの項目をタップし、【怪しいプログラム】に加えなくてはならない。だが、これを摘発すれば、自分も危ない。分かりきったことだ。これが怪しいと見られれば、GGKに参加しようとした自分まで逮捕される恐れがあり、強制労働という流れは回避できない。
これを見過ごすしかない。
同僚がいつも通り席を立たなければ。ちらっと隣の席の同僚が見なければ。あと、十秒。そのとき。
「こんにちは。【ゲーム禁止法対策委員会】の✕✕です」
思わぬ来客。名前を言った彼女との距離は、さして遠くなかった。あと五秒。ひとりひとりのモニターをのぞこうとしている。自分の隣の席のモニターを眺めた。あと三秒。
もうだめなのか。あと三秒なのに。
彼女が近づいてくる。ゆっくりとモニターを覗こうと。もう間に合わない。
「あの」
「はい?」
三秒経ち、画面には新たな【怪しいプログラム】が表示された。間に合った。
「すいません、間違ったです。すいませんね」
「いえいえ」
ひととおり画面を眺め、覗いたら、彼女はいなくなった。
「怪しい情報は積極的にリストに入れてくださいよ」
当たり前のことを言い残し、帰った。
タカタは同僚にひとこと挨拶し、、最後の一日が終わった。他に怪しいデータは無かった。
帰り道、タカタはある女性と会いに行った。
帰りがてら指定されたカフェに入る。もうその女性はいた。
「久しぶり」
「おう」
「いまあんた、」
タカタの耳元で言った。
「すごいな、CRJNは」
「あんたも入れてるくせに」
「まあな」
三十分ほど話して二人は別れた。
もう、プロジェクト開始まであと三日になったときだった。
【間奏】はここまで。次回、【第二章】スタート。やっとファンタジーっぽくなるよ。




